第277話 ◆天恵展覧武闘会6
山井の言葉には反応せず、ただその手に持つ番場の2挺戦斧を答えとばかりに山井に向ける。
「ぬんっ!!」
「カッッ!!」
衝突し合う双剣と戦斧、その衝撃は音となり、波となった。山井が吹き飛ばした【天騎士】渡辺が作った強化ガラスの罅は、大きく白く広がる。
「ぬぉ!?」
吹き飛ばされる山井と、それを見やる番場。
番場は動けなかった、自分を狙って来る男がもう1人いたから。
「センパイに何してくれとんじゃボケェエエエッ!!」
飛びかかる翔の攻撃を番場は難なくかわす。
しかし、その背を追う程には余裕はない。
川奈のシールドバッシュによって、山井が再び戻って来たのだ。
そこからが、この第1回戦の始まりと言えた。
『鳴神選手、山井選手の強烈な猛攻! これに対し、番場選手は全て捌き切っております! しかし不気味です。川奈選手、伊達選手がほぼ動いておりません!』
『動けない連中もいるみたいだね』
荒神の視線は飯田たちに向けられている。
『た、確かに! 飯田、渡辺、神田、堂本選手、全員が動けない!? 荒神さん、これは一体?』
『番場と、たっくん、鳴神の戦闘の場に援護出来るのは【サジタリウス】の神田選手のみ。でも、神田はたっくんの武器破壊によって、もうほとんど役に立たない状況だね』
『や、役に立たない……』
『かといって、あの不気味な川奈と伊達に飛び込む訳にもいかない。凄いね、戦場にいるのにあの3人、完全に蚊帳の外だよ。初手で武田を失ったのが大きかったね。槍を起点にすれば手はあるかもしれないけど、【将校】の飯田は倒れる訳にはいかないし、【天騎士】の渡辺は大盾がもう限界。ショートソードであの猛攻の中、飛び込むのは厳しいだろうねぇ……まぁ、あの【命謳】代表……【無恵の秀才】伊達玖命が、このタイミングで動かないはずがないんだけどね』
荒神の推測通り、伊達が一歩、また一歩と歩き始める。
これに反応する番場だったが、翔と山井がそれを防ぐ。
「行かせるかよ、筋肉ダルマッ!!」
「貴様如きが玖命を獲れると思うなっ!!」
「…………ふん!」
2人を掻い潜り、番場が何とかその空間を抜けようとする。
しかし、それを防いだのは翔でも山井でもなかった。
「【パワーアップ】」
そう、伊達玖命である。
『だ、伊達選手が【大聖者】以上が使える【パワーアップ】を発動っ!?』
会場にどよめきが広がる。
直後、荒神も目を見張る。
「【闇駆け】……!」
『と、【頭目】以上が使用可能な【闇駆け】を発動っ!? 嘘、本当なのこれ!?』
翔、山井の攻撃力を上げ、番場の負担を増やす。
更に【闇駆け】により、メンバー全員の足音を消す。
これにより、【インサニア】が耳で拾う情報が極端に減る。
特に、番場にとって、その情報遮断によるデメリットは大きい。
「っ!? く……っ!」
『き、拮抗したっ!』
御剣の言葉通り、玖命はたった2つの行動だけで、翔と山井の実力を上げ、番場を封じたのだ。
【樹子姫のGoTo天チャンネル】を通し、【天武会】を観ているユーザーたちにも動揺が見える。
――これは魔王w
――魔王の行進でござる
――あいや待たれい! 草、草、草! 大草原に候!
――すげぇw戦神の番場が魔王に近付けないwwww
――これ、どういう事なの、いっちゃん…?
『わ、わかんない……!?』
――混乱いっちゃん
――荒神と米原の解説が追いつかんのなら、俺らは一生わからんやつ
それは日本各地、否、世界でも起こっていた。
第5段階を擁した【インサニア】に世界の注目が集まるはずだった。【戦神】番場敦に注目が集まるはずだった。
しかし、【命謳】は【インサニア】を完璧に封じ、番場ですら玖命に届かない。
そう、直接攻撃は川奈にすら届いていないのだ。
「ボルトガトリング」
『だ、伊達選手! 【賢者】以上が発動可能なボルトガトリングを発動!』
『凄いね、私のなんかより断然威力があるよ』
『伊達選手! ボルトガトリングで【大聖者】堂本選手、【サジタリウス】神田選手を狙い撃ち! 【天騎士】渡辺選手が動くも、川奈選手に道を塞がれてしまいますっ!』
川奈に迫る渡辺。
「同じ【天騎士】同士ならば、底上げされた俺の方が上……! 邪魔だ、小娘ぇっ!」
「えぇええいっ!」
川奈が放ったシールドバッシュ。
渡辺はこれをボロボロの大盾で受け、この受けを機に投棄しようと判断した。
だが結果は――、
「ぐぉ……っ!?」
重い金属同士がぶつかる鈍く重い轟音。
会場の観客たちが耳を塞ぐ事態に、御剣が顔を歪ませながらも実況を続ける。
『な、何という一撃! 川奈選手、完全に渡辺選手のシールドバッシュを凌駕! 打ち合いに競り勝ち、渡辺選手の腕が大変な事に……!?』
事実、【天騎士】渡辺の腕は歪なカタチに曲がり、その苦悶の表情が、観客に激痛を伝える。
「川奈さん、その人押し切っちゃってください」
「はいっ!」
玖命の指示の後、川奈は大盾を真横にし、正面の渡辺に向かって駆けた。
「かふっ!?」
川奈の大盾タックルが的確に渡辺を捉える。
血反吐を吐きながら、渡辺を押し、押し、押し駆けた。狙う先は……強化ガラスの壁。
「やぁあああああっ!!」
「や、やめ――」
川奈は渡辺の言葉を聞く事もなく、玖命の指示通りに渡辺を強化ガラスへと打ち付けた。
「……ぁ…………っ!?」
強化ガラスからずり落ち、すんと鼻息を吐く川奈。
「後、4人! これで一緒ですね!」
そう言って、笑顔を振りまく川奈だった。




