第22話 どういう事なのっ!?
「どういう事なのっ!?」
頭に響く妹の声。
「何だよ命、ここは病院だぞ? もう少し静かにな」
「個室だから問題ないわよ!」
「お兄ちゃんはあると思うぞ?」
「そういうのいいから。私は、何でまた入院になったか聞いてるんだけど!?」
「いや、検査入院だって。それに、今回も天才派遣所持ちだって。流石に支払いは覚悟したんだけど、良心的だよな」
俺がそう言うと、
「それは、やっぱり派遣所の落ち度だったからじゃないでしょうか?」
川奈ららがそう返してきた。
すると、川奈さんの存在に気付いた命が、俺に耳打ちする。
「この小動物みたいな美少女は何?」
「もう少し敬意を払いなさい、命より年上だぞ」
「うっそ!? ホント?」
「あぁ、今日俺とチームを組んだ天才の川奈ららさんだ」
「ど、どうも……伊達命です」
「川奈ららです! よろしくお願いします」
「よ、よろしくお願いします……ところで、派遣所の落ち度ってどういう事?」
まずい、聞き逃してくれていたと思ったんだが。
まさかこんなに早く命が駆けつけるとは思わなかった。
出来れば川奈さんとは鉢合わせしないで欲しかったのだが……まぁ、仕方ないか。
「えっと、今日の討伐任務は――」
「――討伐任務ぅ!?」
ぎろりと向けられる妹の視線。
「お前、高校でもそんなにぎらついてるの?」
「そんな訳ないでしょ! 討伐任務ってどういう事なのっ!?」
「いやいや、荷物持ちだって。それとガイド。ねぇ川奈さん?」
俺が話を振ると、川奈さんは俺の事情を何となく察してくれたようで、
「そ、そうです。荷物持ちとガイド! うん」
「それが何で怪我に繋がるんですか?」
まぁ、派遣所から連絡があったのなら怪我の事は知ってるか。
「か、かすり傷だよ」
「私は川奈さんに聞いてるの。お兄ちゃんは黙ってて」
「……はい」
川奈さんは、俺の伊達家の立場をまた何となく察してくれたようで、
「討伐対象が報告よりちょっとだけ多くて、伊達さんが手伝ってくださったんです。それで……まぁ、はい」
「ふ~ん……この程度で済んだって事は、ゴブリンですか?」
「え、えぇそうですそうです」
コクコク頷く川奈さん。
俺への視線には「これでいいですか?」というメッセージが込められている。
ありがたい、彼女はとても空気が読める子らしい。本当に。
どうやら討伐数はともかく、俺の立ち回りについては水谷さんに言わなかったみたいだし、口も固いようだ。
まぁそれでも……気になってはいるんだろうな。
「それじゃ、大丈夫なんだね?」
「あぁ、さっきも言ったろ? 検査入院だよ」
「……そう、ならいいけど」
拗ねた顔はどことなく母さんに似ている。
そう思っていたら、また病室の扉が開く。
やって来たのは……相田さんと……水谷結莉。
あ、しまった。
「け!?」
命が水谷を指差す。
「け、けけ【剣聖】、水谷結莉様ぁっ!?」
何を隠そう、命は水谷の大ファンなのである。
顔立ちも整ってるし、腕も立つ。
サバサバした性格は男女ともにウケがいい。
命がファンになるのもわかる気がする。
まぁ、その影響できっと俺は、心の中で水谷を「さん」付けしないのだろう。
テレビに映る水谷に向かって、命に強制され、何度も「水谷コール」をした事が原因だ。明確である。
「ちょちょちょちょっと! 何でお兄ちゃ――お兄様が水谷様と面識があるのかしらっ?」
どこの命さんだろう、この人は。
「彼女は?」
水谷がそう言うと、相田さんが命の説明をしてくれたようで、
「なるほど、玖命クンの妹さんか。水谷だ、よろしくね」
「は、はい! いつも兄がお世話になってますっ!」
流石の命も、水谷を前にしてはいつもの奔放さが消えてしまうな。
でも命さんや、俺を肘で小突く姿は水谷なら捉えていると思うぞ。
「えーっと、今日の討伐で応援に来てくださった水谷さん。水谷さん、妹の命です」
と、一応俺からも紹介しておく。
水谷はそれにコクリと頷き、ここに来た理由を話す。
「玖命クン、少し三人だけで話せるかな?」
三人という事は……俺と、相田さんと、水谷の三人という事だろうか? ふむ、どうやらそのようだ。
空気読める系女子の川奈さんは、
「あ、えっと……私ちょっと電話してきますね」
と、病室を出て行き、同じく空気読める系女子の命も、
「いっつっ」
「水谷様のサイン、絶対もらっておいてね!」
俺に肘打ちした後、猫を被りながら出て行った。
「面白い妹さんだね」
「いや、まぁ……そうですね。いつも助けられてます」
「玖命クンは助ける側だろう?」
急な話題転換。
やはり、今回のモンスターパレードの話しかないよな。
「416体。実に416体ものゴブリンたちの解体が先程終わったそうだ」
「そ、そんなにいたんですね……ははは」
「門の中に入って驚いたよ。モンスターはほぼおらず、ボスのゴブリンジェネラルだけが最奥にいた」
「ボスはゴブリンジェネラルでしたか……」
「被害は橋の損傷とキミたちの怪我のみ。モンスターパレードが起きたというのに、たったそれだけ。これは奇跡的な事なんだけど、どうも玖命クンはまだそれを理解していないようだね」
水谷の遠回しなジャブに、顔がヒクつく。
そこで、相田さんが一歩前に出る。
「伊達くん、話してくれるよね?」
こればかりは、避ける事は出来ないのだろう。