第219話 絶大なるSSS3
右腕に、翼が2枚。
大きくはないが、着実にダメージを与えられている。
このままいけば、確実にルシフェルを倒せる。
驕りなどではなく現状、俺たちが奴に劣る要素はない。
だが、俺の【天眼】で奴の天恵を覗いてしまったが故に、一抹の不安が残る。
【咎殃】――天をも巻き込む災禍。これを持つ者は神託を得る。全能力向上。この天恵の成長はない。
これが意味する事は一体?
神託って一体どういう事なのか。
考えても答えなど出る訳がない。
俺は頭を振り、正面の怒れるルシフェルの前に立つ。
左腕は回復したが、まだ痺れが残っている。
時間の問題だとは思うが、奴がそれを待ってくれるはずがない。
「センパイ、あいつの顔面ぶん殴りてぇから手ぇ貸しな」
「奇遇だな後輩、彼奴の背中に現代アートを刻みたい気分じゃ。手を貸せ」
まぁ、それは【命謳】にも言えた事なんだけどな。
「こっちです!」
川奈さんは再度ヘイト集め。
そろそろ効果が切れる頃合いか。
流石にしっかりしている。なら俺も――、
「ハッ!」
俺がヘイト集めを再度発動した直後、
「アアアアアアッ!!!!」
「ふぐっ!? ぐぅううう……!」
ルシフェルは近くにいた川奈さんを狙った。
辛うじて大盾で受けたものの、その威力は未だ衰えず。
川奈さんの大盾に二つ目の歪みを生じさせた。
「むぅううううっ!!」
「嬢ちゃん、そのまましっかり止めておけ!」
「ららちん、ガンバじゃっ!」
言いながら二人が駆ける。
俺は川奈さんに回復魔法を発動しつつ、翔、たっくんの後ろに続いた。
「ダラァアアアアッ!!」
「チェストッ!!」
ルシフェルの上部から翔が殴りかかり、下部から這うようにたっくんが迫る。
「グルァアアアアアアアッ!!」
「わわっ!?」
ルシフェルが拳をそのまま払い、川奈さんの大盾を巻き込んだ。
これにより川奈さんが吹き飛び、たっくんの正面へ。
翔に対し正面を向いたルシフェルは大きく構えをとる。
「やっべ……!」
翔のそんな言葉を聞いた気がした。
そう思ったのは、既に翔がルシフェルに顔面を殴られ、吹き飛んだ後だったからだ。
「どわぁああああああああああああああああ!?!?」
背後から大きな衝突音が聞こえた。
……ふむ、どこかで聞いた事のある声だし、おそらく大丈夫だろう。
俺はそう判断し、たっくんが攻めるはずだったルシフェルの足下を狙った。
「ハァアアアアアッ!!」
ガキンと腕で受けられるも、刀の鍔付近。
完全に威力を殺された。
だが、俺の背後では川奈さんをかわし、俺の動きに追いついた巧者がいる。
「玖命、屈めっ!!」
たっくんの指示に従い、俺は身を低くした。
俺はたっくんが抜けた穴を埋め、たっくんは翔が抜けた穴を、川奈さんと一緒に埋めた。
そう、たっくんは川奈さんの大盾を踏み台とし、ルシフェルの上段を狙ったのだ。
「カァアアアアアアッ!!!!」
傷こそ浅いものの、ルシフェルの両頬にたっくんの斬撃が届く。
「ガッ!?」
この隙を、逃せるはずがない……!
「ハァアアアッ!!」
先程より確かな一撃、ルシフェルの脚に深い傷。
しかし、風の魔法剣を使ってもこの程度であれば、攻撃力がルシフェルの命に届かない……なら、どうするか。
「っれええええらホゲェエエエエッ!!」
後方で翔の悪態が聞こえる。
やはり、大丈夫なようだ。
だが、何やら声が聞き取りにくい。
「ひっ!? 翔さん、凄い顔ですよっ!? 顔、パンパンです!?」
…………大丈夫だよな?
川奈さんの悲鳴からして相当なようだが。
「まかへほ! りょーじゃん!」
「『任せろ、嬢ちゃん』って言いました!?」
「ほーひっらろ!」
「『そう言った』んですね翔さん、でも、ちょっとしばらく黙っててくださいっ!」
そんな会話を耳の端で拾いつつ、俺とたっくんの攻撃が続く。
「キァアアアアッ!!」
「ハァアアアアッ!!」
「速度が落ちてる! 勝機じゃ玖命っ!」
確かにルシフェルの攻撃が一瞬緩んだ。
だが、そんなに軟な相手じゃないはずだ。
俺がそう思った矢先、遠目で見ていた川奈さんがいち早く気付いた。
「山じーさん! ダメッ!!」
「なっ!?」
俺がそれに気付いた時、ルシフェルはニヤリと笑みを零していた。
それが何を意味するのか……――。
「くっ!?」
ルシフェルは怪我によって受けたダメージを大きく見せた。
攻撃の手を緩め、たっくんに勝利という欲を見させた。
たっくんは、それが罠だとも知らずに動いてしまった。
普段のたっくんならば気づけたはず。力量が同程度の相手ならば回避が間に合ったはず。
しかし、今回は相手が悪い。
SSSの大物が、格下相手に罠を仕掛けるという想像しにくいパターン。
だが、それでも油断してはいけなかった。
否、油断などしていなかった。
奴の方が一枚上手だっただけの事。
「カッハッ!?」
たっくんは防御を貫かれ、吹き飛んで行く。
「チィッ!」
これに反応したのが翔だった。
翔は自ら跳び、たっくんのブレーキ役を買って出た。たっくんの羽織の襟首を掴み、勢いを殺したのだ。
これにより、たっくんは絶命必至といえた衝撃から逃れる事が出来たのだ。
だが……、
「まずいな……」
たっくんは重体、翔は満身創痍。
俺と川奈さんだけじゃ……いや――、
――【考究】を開始します。対象の天恵【考究】を更に解析します。
どうやら、まだ手はあるみたいだ。




