第216話 ◆神奈川の救援要請5
玖命が嵐鷲を構える中、堀田が零す。
「ありゃかっこいいすわ……」
「ファンとか出来るでしょうね……」
御剣の言葉に、堀田が頷く。
「……彼には、スター性はないけれど、どんなスターも現場の彼には敵わない気がするわ」
「なんとなくわかります……」
堀田が御剣の言葉に同意し、レンズを覗く。
「今日、散々だったっすけど……【命謳】の取材来て良かったっす」
堀田は、命が懸かった取材に愚痴を零しながらも、その役目に対し満足気に話す。
「私もよ。彼はいずれ日本を代表する天才となる。その第一歩が今日、この場……!」
そしてそれは御剣も同じだった。
その熱に圧倒されつつも、その真の意味を理解した堀田は、ジトっとした目を御剣に向けた。
「…………御剣さん、既にファンでしょう?」
「し、仕事に公私混同はしないんだから別にいいのよ! いいから撮る!」
「はいはい、撮ってますよ~!」
「『はい』は一回!」
御剣、堀田が言い合う中、玖命はサタンの鼓動を聞き取っていた。
(天恵【一意専心】が教えてくれる。奴が今、極度の緊張状態にある事を……!)
「ガ、ガァッ!?」
未だ自身の翼が斬り落とされた事に理解が追いつかないサタンだが、近くに落ちた自身の翼を目視し、サタンは怒りに塗れる。
「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!」
サタンが怒号を響かせるも、
「もっと怒れ……! その怒りが、お前の隙を生む……!」
玖命にとっては、全てが作戦通り。
「集中……集中ぅ……!」
玖命の口癖が零れ、サタンが怒りに任せ、突進を始める。
「今、お前如きに躓いてる場合じゃないんだよ……!」
そう、相手は門から外へ出たモンスターの1体。
SSとはいえ、ダンジョンボスではない。
玖命は、このサタンの後ろに控える強敵を前に、かつてない集中力を見せていた。
「ガァアアアアアアアアッ!!」
駆けるサタンと、駆け抜ける玖命。
振り下ろされた爪に、玖命が小さく零す。
「お前の天恵は魔法特化だろう? なら、それは悪手だよ」
そう言いながら、嵐鷲を納刀する。
駆け出した玖命は、振り返る事なく、仲間たちの下へ走って行く。
サタンの胴体から首が落ちる頃には、玖命はもう次の戦闘へと移っていたのだった。
――【考究】を開始します。対象の天恵を得ます。
――成功。最高条件につき対象の天恵を取得。
――サタンの天恵【賢者】を取得しました。
ポカンと口を開ける御剣と堀田。
御剣は堀田の持つカメラを指差し、確認するように聞く。
「……撮った?」
「……撮りました」
「凄かったわね……」
「はい……追います?」
そんな堀田の疑問に、御剣が口を結ぶ。
「……流石にこれ以上は邪魔出来ないわよ」
「そっすね……」
堀田はカメラを構え、そのまま御剣までスライドさせた。
レンズ越しに映る御剣に、堀田はくすりと笑う。
「……な、何よ?」
堀田の言葉に、焦りを顔に宿す御剣。
「いえ、でも今の御剣さん、すんごく良い顔してましたよ」
堀田の更なる追撃。
御剣は顔を逸らす事でしか、それをかわす事が出来なかった。
「は、はぁ? 何言ってるの、堀田くん!? ていうか、今、私撮ったのっ!?」
「偶然ですよ偶然! あ、モザイクかかるといいですね、御剣さんの顔!」
御剣が堀田に対し怒鳴っている頃、公園内での【命謳】の戦闘は終わりに近付いていた。
空を飛ぶグレーターデーモンは少なくなり、川奈、翔、山井も大きな怪我もない。
サタンとの一戦から戻った玖命が、上空を飛び回るグレーターデーモンに対し、手に入れたばかりの天恵【賢者】を使い、撃ち落としていく。
「伊達さん、また強くなりましたっ!?」
「カカカカッ! 魔法の威力がダンチだぜ!?」
「最早SSランクのモンスターでは相手にならぬか。とんでもない成長速度じゃ……!」
仲間からの激励に、玖命も顔を綻ばせる。
「無事で何よりです! おっとっ?」
――おめでとうございます。天恵が成長しました。
――天恵【魔力A】を取得しました。
【魔力C】の天恵を保有するグレーターデーモンを多く倒した事により、玖命の【魔力B】が成長する。
これにより、玖命は確信を持ちつつも【命謳】の皆に聞く。
「サタンの実力はSS。アレがボスじゃないのであれば、ダンジョン内にはSSSのボスが待っているって事になるけど、どうします?」
【命謳】メンバーの実力は、全員SSSの域にない。それは皆が皆わかっている事。
しかし、4人全員であれば、玖命がいるならば、それは確実に凌駕する。【命謳】の皆はそれを理解していた。
「伊達さんがいれば大丈夫ですよっ!」
気合い充分な川奈らら。
「ま、SSSくらい倒しときゃ【命謳】にも箔が付くってもんだろ!」
両の拳をガンッと合わせる鳴神翔。
「SSランクに長年在位してれば、SSSの1体や2体倒してるもんじゃ」
双剣の血のりを払い、ニヤリと笑う山井拓人。
「それじゃあ、今日の仕上げはSSSのダンジョンボスという事で」
「はいっ! 頑張りましょうっ!」
「決まりだな、カカカカッ!」
「ほっほっほっほ、血が騒ぐのう……!」
滾る仲間たちに呆れつつも頼もしさを感じる玖命は、倒壊した海老名駅に向かうのだった。




