第208話 ◆月刊Newbie1
KWN株式会社の子会社であるKWN堂。
月刊Newbieの編集【御剣麻衣】27歳。
【私立八王大学】を好成績で卒業し、天才関連のジャーナリストとなるべくKWN堂に入社。端正な顔立ちながら、キツイ性格が災いし、男性との交際までは発展するも長続きせず、以降仕事だけに身を置いている。
「堀田くん」
御剣の近くを通りかかったカメラマン、堀田を呼び止める御剣。
「はい! な、何でしょう御剣さん!」
「別に怒ってないから。これから【命謳】と会うんだけど、カメラマンやってくれない?」
「え、佐伯さんどうしたんですか?」
「佐伯くんが風邪なんだって。このご時世だしキツく言えないのよね」
「いや、そもそもキツく言っちゃいけないんじゃ……」
「何か言った?」
「いえ、滅相もない! えと……それじゃあ準備してきます!」
そそくさと準備を始める堀田に、御剣が小首を傾げる。
(おかしい。いつもならすぐ断られるのに……)
そう思いながら、御剣は【命謳】の資料を流し見る。
「……なるほど、堀田くんの目当てはこの二人か」
「準備できましたぁ!」
敬礼しながら鞄を持ってくる堀田に、御剣が目を丸くする。
「ず、随分早いのね」
「いやぁ、僕も前の現場バラされちゃって暇してたんですよ。それに、今話題の【命謳】相手ですからね! ちょうど撮りたいと思ってたんですよ!」
「堀田くんの目当ては、この川奈の令嬢と四条って女の子でしょ?」
「うぇ!? そ、そそそそんな訳ないじゃないですかぁ!?」
「どっちもルックス抜群だものね、若いっていいなぁ」
「は、ははははは……御剣さんも負けてないっすよ……うん……」
「そういうお世辞は、【命謳】に向けてあげて」
そんな御剣の言葉に、堀田が首を傾げる。
「というと?」
「【命謳】の代表からカメラNGが出てるのよ」
「えっ!? それじゃあ僕、意味ないじゃないっすか!?」
「だから、一応付いて来てもらって、現場で交渉するのよ」
「そんな事して……またデスクに怒られますよ?」
「大丈夫、もう始末書は書いてあるから」
「始末におえないってこういう事なんですね」
「なーに呑気な事言ってるの。そんなんじゃ山井さんと鳴神の前に立てないよ」
「いや、交渉は御剣さんがしてくださいよっ? 僕じゃ役不足ですから」
「力不足ね」
「そうとも言います」
「そうとしか言わないのよ。それじゃ13時に派遣所の八王子支部で待ち合わせだから、そろそろ出ましょう」
「え、派遣所で取材するんですか?」
「【命謳】はまだ事務所ないんだって」
「うわ、それマジっすか?」
「そこら辺も色々聞いてみたいじゃない?」
「た、確かに……でも、天才たちの視線浴びるだろうなぁ」
「そんなもん気にしてたら記者なんて務まらないわよ」
「僕、カメラマンなんです」
「相手はそんな事気にしてくれないわよ」
先を歩く御剣を前に、溜め息を吐く堀田だった。
◇◆◇ 9月18日12:40 ◆◇◆
天才派遣所八王子支部の応接用レンタルスペースでは、クラン【命謳】の代表【伊達玖命】が頭を抱えていた。
「しょ、翔……そ、その服は……!?」
「おう頭! こりゃ【命謳】仕様の特攻服よっ!」
内に【命謳】のTシャツは見られるものの、その上から羽織る真っ白な長い学ランの背には【初代 命謳】と横に刺繍され、その下に真っ直ぐ中央に縦に書かれた【特攻隊長】の文字。正面には左に【天下無敗】、右に【不撓不屈】と書かれ、幸せそうな翔とは違い、玖命は絶望を顔に宿していた。
「おぉ……のぉ……」
「ほっほっほっほ、気合いが入っとるのう!」
後ろを見れば、そこには元インサニア参謀兼序列2位の山井拓人が立っていた。
浅葱色のだんだら羽織、背には白く【命謳】と書かれ、控えめながらも格式高き縞袴。しかし、内に襦袢や長着は見られず、見えるのは【命謳】のTシャツのみ。
「袴とTシャツって……意外に合う……?」
「こりゃ袴パンツだからのう」
「え、そんなのあるんですか?」
「ほほほ、玖命、遅れとるのう」
「でも……色合いは合いませんね」
「ぐっ、それは儂も気にしてたのに……」
「【命謳】仕様の羽織作りましょうか……」
「おぉ、それはいいかもしれんな」
「翔も勝手に特攻服作ってますし、山井さんのオリジナルって事にすれば悪くないかもしれません」
「うんうん、インサニアではこういうのなかったしのう。嬉しいのう」
「でぇ…………」
振り返りながら二人の乙女を見る玖命。
ドヤ顔をする川奈ららと、恥ずかしそうに膝元を押さえる四条棗。
黒チェック柄のハイウェストミニのプリーツスカート。ヘソ出しの【命謳】Tシャツ。
川奈の右腿にはガーターリングが見える。
「川奈さん……それは……?」
「わかりますか、伊達さん!? 病みカワですよ病みカワ!」
「えぇ……川奈さん超元気じゃないですか」
「元気と可愛いは別です!」
肉薄する川奈をおさえつつ、玖命は四条を見る。
「四条さんはサスペンダーですか」
「に、似合わないならやめるぞっ!?」
「あ、いや……似合ってます、似合ってます!」
「……そか、うん……そか」
ほんのりと顔を赤らめる四条。
抑え切れなくなった川奈がまたずいと出て来る。
「今日は四条さんと双子コーデです! どうですかっ!?」
「……あ、はい……それぞれ個性が出ててとてもよろしいかと」
「ふふふ……そうでしょうそうでしょうっ?」
喜びながらくるくる回る川奈を前に、玖命が額を抱える。
(どうしよう……この人たち、完全に写真撮られに来てる……)




