表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天才派遣所の秀才異端児 ~天才の能力を全て取り込む、秀才の成り上がり~  作者: 壱弐参
第四部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

210/327

第207話 ◆その夜2

 玖命がクランメンバーとToKW(トゥーカウ)のグループトークをしている頃、伊達(みこと)は、父、一心(いっしん)の部屋を訪れていた。


「お父さん、ちょっといい?」

(みこと)か、ちょうど来る頃だと思ってたよ。入りなさい』


 扉の奥にいた一心は(みこと)の来訪を予期していた。

 それを知った(みこと)は口を結び、一心の部屋のドアを開ける。

 パタンとドアを閉め、一心を見る(みこと)


「えと、何でわかったの?」

「私はお前の父親だぞ? わからないというのが無理な話だ」

「それってやっぱり……」

「あぁ、玖命の事だろ?」


 一心の言葉が全てだった。

 (みこと)はコクリと静かに頷く。


「そこに」


 一心にそう言われ、(みこと)は一心の机の前にある椅子に腰かける。

 一心は正面にあるベッドに腰かけ、(みこと)を見る。


「何だ? 借金生活が終わったっていうのに浮かない顔じゃないか」

「それは……お父さんもでしょ」

「まぁな、それは否定出来んな。はははは」


 一心は恥ずかしそうに頭を掻き、苦笑した。


「さっきの夕飯、何だかぎこちなかったなーって」

「そりゃ、祝いたい気持ちと、祝いたくない気持ちがあったからだろうな」

「そ、そんな事……! いや……うん……祝いたくない気持ちがなかったと言ったらウソになるかも……」


 そんな(みこと)の言葉に、一心がくすりと笑う。


「それが普通だよ」

「でも、それが何でなのか……」

「玖命が……足を止める訳にはいかないからだろうな」


 そう言われ、(みこと)は目を丸くする。

 一心の言葉がスッと頭に入り、また口を結ぶ。


「祝ったら玖命が次のステップに進んでしまう事を理解してたんだろう?」

「……ん…………そうかも」

「天才の仕事は危険ばかり。今まで以上の危険が玖命を襲う。そんな事考えたら……私だって祝える訳がない。ここで終わって欲しいと願うのが普通だよ」

「……うん」

「だけど、玖命は足を止めないよ」


 そう言われ、(みこと)は少し困惑した様子で一心に聞く。


「……何で?」

「私が育てたから」

「それ……答えになってないよ」

「はははは、まぁ半分は私のせいかもな。玖命は昔からそういう気質だし」

「だから……答えになってないって……」

「じゃあ、(みこと)が知ってる玖命ならどうだ?」

「だってお兄ちゃん……無鉄砲だし、抜けてるところあるし、何より真っ直ぐだし……」

「そういう事だ」


 一心が微笑み言う。


「そういう事って……」

(みこと)が知ってる玖命が足を止めないのなら、私の知ってる玖命も足を止めないよ。私たちは家族で、何より玖命と足を並べて歩いて来たんだから」

「……そっか……そうだよね……」

「でも、これからの玖命は違う」

「……え?」

「アイツはこれから、ようやく自分のために走り始める事が出来る。それが、(みこと)が借金完済を心から祝えなかったもう一つの理由だ」

「……そうかも」

(みこと)は昔からお兄ちゃん子だったからな、はははは」

「そ、そういうのは今関係ないでしょっ!」


 (みこと)が怒るも、一心は(いささ)かも命から目を離さなかった。


「玖命が手の届かないところに行ってしまうかもしれないという不安はわかる。私もそう思う」

「…………放っておいてやれって言うんでしょ? わかってるよ、それくらい――」

「――いや」


 一心の否定に、(みこと)は小首を傾げる。


「これから、玖命はもっと大変になる」

「な、何で……?」

「有名になる事で付きまとうモノが沢山ある。誹謗中傷、妨害、暗殺、闇社会からの圧力。例を挙げればキリがない。そのどれもを玖命が乗り切れると思うか?」

「お兄ちゃんなら……」


 そう言いかけただけで、(みこと)の言葉は詰まってしまう。


「そうだ、玖命がいくら強くなっても、心はたった一つ。それが壊れてしまってたらどうする?」


 そんな一心の言葉に、(みこと)の瞳が潤む。


「そんなの……絶対嫌……!」

「だから、私たちがいる。だろう?」

「っ!」

「これまで私たちは玖命におんぶにだっこだった。まぁ、これからもそうかもしれんが、それを良しとする私でもない」

「…………そうだね。お父さん、大黒柱だもんね」

「だから、これからは伊達家で玖命を助ける。玖命にも友人がいる。相田さん、水谷さん、川奈さん、四条さん、鳴神くん、山井殿……でも、彼らではサポート出来ない事もあるはずだ。玖命が帰る家はここだ。それだけは変わらない。だから、私たちは私たちで出来る事をする。わかるね、(みこと)?」


 一心の本心とその心根(こころね)に、(みこと)はただ頷く事しか出来なかった。


「……ぅん」

「玖命のおかげで私の出世も決まった。親としては情けないが、それを息子に返せない程、私も馬鹿じゃない。これからは私たちが玖命に寄り添い、助ける番だ」

「うん……栄養一杯のご飯作る……!」


 そう言って、(みこと)は目に溜まった涙を拭う。


「ははは、それでいい。でも、何よりも勉強が優先だからな」

「それくらいわかってるよ。この前の期末テストだって学年3位だったんだから」

「やれやれ……ウチの子供は優秀過ぎるなぁ」


 そんな一心の言葉を横目に、(みこと)が部屋のドアを開ける。廊下から漏れるライトに照らされ、(みこと)が一心に言う。


「お父さん、ありがとう」

「そう思うなら、明日は国産牛にしてくれ」

「ふふふ、タイムセールで見つけたらね」


 そう無邪気に笑い、(みこと)はパタンとドアを閉める。

 部屋の天井を見上げ、一心が呟く。


「タイムセール通いは変わらなさそうだな……」


 呆れつつも、顔には笑みが(とも)る一心だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓カクヨムにて先行掲載中↓
『天才派遣所の秀才異端児 ~天才の能力を全て取り込む、秀才の成り上がり~』
【天才×秀才】全ての天才を呑み込む、秀才の歩み。
↓なろうにて連載中です↓


『善良なる隣人 ~魔王よ、勇者よ、これが獣だ~』
獣の本当の強さを、我々はまだ知らない。

『半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~』
おっさんは、魔王と同じ能力【血鎖の転換】を得て吸血鬼に転生した!
ねじ曲がって一周しちゃうくらい性格が歪んだおっさんの成り上がり!

『使い魔は使い魔使い(完結済)』
召喚士の主人公が召喚した使い魔は召喚士だった!? 熱い現代ファンタジーならこれ!

↓第1~2巻が発売中です↓
『がけっぷち冒険者の魔王体験』
冴えない冒険者と、マントの姿となってしまった魔王の、地獄のブートキャンプ。
がけっぷち冒険者が半ば強制的に強くなっていくさまを是非見てください。

↓原作小説第1~14巻(完結)・コミック1~9巻が発売中です↓
『悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ』
神薬【悠久の雫】を飲んで不老となったアズリーとポチのドタバタコメディ!

↓原作小説第1~3巻が発売中です↓
『転生したら孤児になった!魔物に育てられた魔物使い(剣士)』
壱弐参の処女作! 書籍化不可能と言われた問題作が、書籍化しちゃったコメディ冒険譚!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ