第203話 ららパパの懸念
『伊達君かね?』
「お久しぶりです、川奈さん」
『今、娘は近くにいるかね?』
「え? いますけど……?」
ちらりと川奈さんを見ると、相田さんに本日のダンジョンの感想を語っているようだ。
なかなかの興奮っぷりである。
『出来れば、少し離れてくれると助かる』
「わかりました」
そう言って、俺は皆に後の事を任せ、派遣所の奥へと向かった。
そこは、以前、四条さんが蹴り壊したゴミ箱がある場所。
自動販売機前の待機スペース。
「お待たせしました、それで、どういったご用件でしょうか?」
『KWN堂が動いた』
「KWN堂って……あの出版社の?」
『ああ、もう少し引き延ばせるかと思ったんだが、やつらの目と耳と鼻はどこにでもあるからな……』
「いや、川奈さんの会社の子会社じゃないですか……」
『KWNは清廉潔白でやってるからね、「親会社を調べようが自由」の名目で売りに出してる出版社なだけあって、系列会社には強いのだよ……あいつら』
何とも川奈氏らしい悩みである。
「えーっと……それで、KWN堂が動くと、一体どうなるので?」
『娘が……丸裸にされてしまう……!!』
川奈さんが……丸裸だと!?
「ちょ、ちょ……え? それって、どういう事ですかっ?」
『決まっている……【月刊Newbie】に載ってしまうんだ……!』
【月刊Newbie】って、確か新人の天才をピックアップする月刊雑誌だよな?
あれってKWN堂が出版してたのか。
「それにしても丸裸って一体どういう意味ですか?」
俺が聞くと、川奈氏は教えてくれた。とても重い口調で。
『決まってるだろう。水着グラビアだよ』
「あ、そうですか」
『いやいや、伊達君。そんなに軽く流さないでくれたまえ。過去に【ポ狩ット】の米原樹、【大いなる鐘】の茜真紀、水谷結莉……多くの女性が水着グラビアデビューしているのだよ』
そういや、水谷も巻頭カラー飾ってた事あったな。
「でも、そういうのは断ればいいんじゃないですか?」
『わかってない! わかってないよ、伊達君はっ!』
川奈氏が友達感覚で話してくるのは気のせいだろうか。
まぁ、別にいいのだが、こちらはこちらで恐縮してしまうのだが?
しかし、わかっていないというのは一体?
『どうやら伊達君はそうじゃないようだが、多くの天才には大きな欲望があるのだよ』
「……欲望、ですか?」
『承認欲求だよ』
「あ、そうですか」
『いやいやいやいや、伊達君。そんなに軽く流さないで欲しいのだが?』
「確かに、先に挙がった3人はそうかもしれませんが――…………」
そこまで言ったところで、俺は口ごもってしまった。
『……どうしたね、伊達君?』
「いや……うん……」
『どうやら君もわかってしまったようだね』
そうだった、川奈さんって結構……目立ちたがり屋だったな。
米原さんの【姫天】に映った時も、全国デビューを喜んでたって月見里さんが言ってたし、表に出る事にも抵抗がなさそうだ。
だって川奈宗頼の娘なんだから。
『私も出来るだけの事はしてみるつもりだ。だが、娘の柔肌を全世界にばらまく訳にはいかん。たとえ、娘が希望したとしてもだ!』
「そんな演説みたいに言わなくても……」
『伊達君はKWN堂がアプローチをかけてきたら、慎重に動いてくれたまえ。クラン【命謳】の活動を妨げるような事はしたくないが、こればかりは私も譲れないのだ』
「はぁ……まぁ、わかりましたけど……」
『助かる。あ、そうだった』
「まだ何か?」
『伊達君、お父様の会社TLEと契約したそうだね』
一体どこから仕入れてくるんだ、その情報?
川奈さんとは考えにくいから……やはりKWNが調べてるんだろうな。
「い、一応そうなりました」
『あの規模の会社としては、かなりの好条件で契約を結べたようだね。身内が勤務する会社とはいえ、穂積社長の手腕が窺える。【命謳】を高く評価しての先行投資というところか』
「そ、そうですよね……?」
『会社の規模を考えれば、役員からクレームが来るレベルの契約だと思うよ、アレは』
ホント、契約情報漏れてるんじゃないか?
『TLEは以前から私も目を付けていた会社だ。伊達君のお父様が勤務する会社だったとは驚きだよ。ふふふ、面白い繋がりが出来るかもしれないな』
もしかして、川奈氏はこれを知らせるためにわざわざ?
TLEを呑み込んだりしないよな?
いや、流石にそれはないか。
「まぁ何にせよ、ららの件、用心してくれたまえ。普通のグラビアは構わんが、水着は絶対ダメだからね! そこのところ、忘れないように!」
「は、はい……わかりました」
そう言ったところで、川奈氏の電話は切れてしまった。
……うーむ、どっちが本題かわからなかったな。
【月刊Newbie】……か。
本当に【命謳】に連絡くるのかな?




