第190話 【剣皇】水谷結莉2
「「ハァアアアアッ!!」」
互いの剣撃が無数に結び、交わされ、弾かれ合う。
「わかってるね、玖命クン! 今のは下段が正解だよ!」
「だったらその中段は失敗だったのでは!?」
「これはこうするんだよ!」
「っ! うぉ!?」
水谷は、俺の下段攻撃を中段の柄を少し返すだけで、俺の刃の根元へと滑らせた。
威力がない段階での一撃。完全にいなされた。
俺の眼前でニッと笑う水谷。あぁ、本当に嬉しそうだな、この人。
――【考究】の進捗状況。天恵【剣皇】の解析度15%。天恵【二刀流】の解析度12%。天恵【天騎士】の解析度7%。天恵【将軍】の解析度7%。天恵【凶戦士】の解析度93%。天恵【スナイパー】の解析度84%。天恵【大魔導士】の解析度89%。天恵【大聖者】の解析度7%。天恵【拳聖】の解析度74%。天恵【上忍】の解析度78%。天恵【士官】の解析度8%。天恵【腕力A】の解析度78%。天恵【頑強A】の解析度57%。天恵【威嚇A】の解析度61%。天恵【脚力A】の解析度54%。天恵【魔力B】の解析度73%。天恵【体力B】の解析度31%。天恵【再生力B】の解析度15%。天恵【超集中】の解析度96%。天恵【心眼】の解析度96%。天恵【天眼】の解析度11%。
接近して……直後に蹴り。
「痛っ!? ちょっと玖命クン、硬すぎなんじゃない!? 岩かと思ったよ!」
「大岩くらいなら粉砕しそうな蹴りでしたよ!」
「じゃあその耐久力は何なのかなっ!?」
右、止めて突き、からの頭突き。
本当に多種多様な技が出て来る。
若いながらも【大いなる鐘】の第1般のアタッカーを任されるだけある。
そして、対人間用の訓練の差か、水谷の攻撃は人間の虚を的確に衝いてくる。
なら、この後4%が最初の起点……!
「ハッ!」
「っっ~~! 重い! 重いよ玖命クンッ! 足が地面にめり込んじゃったじゃない!」
それに耐えうる水谷の強靭な肉体に驚きだ。
「ッ! ハァアッ!」
凄いな、全身の力を使って押し返してきた。
だが、過去の経験が活きた。
俺は上体を反らし、そこから水谷の側面へと回り、膝を突きあげた。
「女の子を足蹴にしちゃダメよっ……!」
水谷は辛うじて腹部の手前で俺の膝を止めたが、上部から降りて来た柄頭が命中する。
「くっ!?」
ダメージはあったが、意識を奪う程ではない。
水谷は押し出された頭をそのまま前に出し、その勢いのまま反転し、剣を払った。
剣が頬を掠めると同時、訓練スペースには俺の血が舞った。
「掠めてこの威力……斬撃飛んでません?」
「おかしいでしょ、その傷。もう回復し始めてるの?」
「今の傷も後で回復しますよ」
「それは私に勝つって事……?」
「今はまだ無理です」
「じゃあ、どうやって回復してくれるの?」
「でも、今の俺なら可能かもしれません……!」
――おめでとうございます。天恵が成長しました。
――天恵【一意専心】を取得しました。
――天恵【真眼】を取得しました。
【集中】、【超集中】ときて【一意専心】?
それに【真贋】、【心眼】、【真眼】?
本当に天恵の名前のセンスはよくわからないな。
――だが、
――現在の進捗速度は【探究】の500%が限界です。
――開始しますか?
「開始だ」
【一意専心】の天恵が【考究】の成長倍率を更に上げたか。
「ふふふ、どういう意味?」
「水谷さん」
「何?」
「申し訳ありませんが……勝ちにいきます!」
「なっ!?」
直後、俺は【一意専心】と【真眼】の力を目の当たりにした。
いや、それを体感したのは、俺ではなく、水谷なのかもしれない。
俺は、一瞬で彼女の後ろを取った。
速度は上がっていない。しかし、彼女が出遅れるであろうルートがわかったのだ。
「嘘っ!?」
「あ、そこ、燃えますよ」
「くっ!? ちょっとちょっと!?」
炎の柱が水谷の足下から燃え上がる。
「ど、どこ!?」
「上」
「教えるなんて――」
「――やっぱり嘘です。下に来ました」
「なっ!?」
水谷の視線誘導、死角への最短ルート、死角から死角への最短ルート。そのどれもが、いち早く俺の視界……否、俺の脳に直接届くようなこの感じ。
やはり、この二つの天恵は非常に優秀だ。
「一体、何が何だか!?」
「はぁ!」
「っ!? きゃっ!」
水谷は俺の攻撃を受ける際、受け流したり、全力をもって迎えたりしていた。
しかし、何の準備もない場所からの一撃は、奇襲も同義。
腰すら落とせない迎撃は、水谷の身体を簡単に浮かせた。
だから、
「ちょっと! そこ私の着地場所!?」
水谷が着地する場に先回りし、納刀し、腰を落とす。
「くっ!?」
水谷は強引に身体を捻りながらも、剣を振りかぶる。
何の勢いもない、俺に吹き飛ばされた状態からの一撃。
足場もなく、水谷の身体だけで打てる一撃はたかが知れている。
対して俺は、足場もあり、水谷の一撃もよく見える場所。
全ての準備を終えていた俺が、準備不足の水谷に負ける要素は……1mmもない。
「ハァアアアアアアッ!!」
全力の抜刀は、水谷の剣を切断し、その勢いごと水谷の身体を吹き飛ばした。
「っ!?」
訓練スペースの内壁に身体をぶつけた水谷は、そのまま膝を突き、そのままうつ伏せに倒れた。
その際、少しだけ笑って見えたのは、俺の気のせいだろうか。
「……ふふ、まいったね……」
仰向けになり、そんな言葉を漏らした水谷は、どこか晴れ晴れとした表情を見せていたのだった。
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