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第186話 KWNの社長3

 そんな四条さんの思いもあり、俺と(みこと)と四条さん……更には川奈さん、翔、たっくんの意見をかわし、鑑定課への申請を出す事にしたのだ。

 当然、その方法はこれまでの俺のような正攻法ではなかった。


「よし、山井意織(いおりん)には話を通した」


 初手、情報部統括部長の実兄――たっくんの根回しから始まり、


月見里(やまなし)さんから鑑定課へのアポイントとれたとの事です」


 四条さんを表に出さないため、俺たちクランが四条さんを引き抜くという前提の下、川奈さんが月見里(やまなし)に連絡。鑑定課への約束(アポイント)をとる。

 こうしなければ、四条さんを孤立無援にさせてしまう可能性があったためである。


「おーし! そんじゃ鑑定課へ殴り込みだ、カカカカカッ!」


 特級の禍払(まがばら)い……もとい、鳴神翔という名の盾を前に、俺たちはクラン全員で鑑定課へ強襲。

 事前に用意していた【魔眼】育成プランを鑑定課へ提出し、めでたく鑑定課は複数人の【魔眼】持ち部署と相成った。

 それでも、四条棗の退職は惜しまれていた。

 何故なら、四条さんは鑑定課のお兄様、お姉様のアイドルであり、心の癒しとなっていたからだ。

 最後まで職場で猫を被り続けた四条さんに、俺はプロ根性を見た気がした。

 四条さんが戦闘員登録した時は、相田さんも驚いていたが、俺のクランに入るとわかると、喜びを露わにしてくれた。


「やった! やった!! 職業選択の自由っ! 万歳っ!!」


 八王子支部で喜ぶ四条さんを(いさ)めるのは大変だった。

 派遣所でその体制批判をするようなものだからな。

 まぁ、されても仕方ないとは思うが、それを表立ってやる者はいない。


「きゅーめー! いい仕事した! 飴いるかー!?」

「い、いらないです」

「そう!? あははははっ! これであの鑑定課の課長に()(へつら)う必要がないと思うと、私は幸せでいっぱいだぞっ!」


 15歳の彼女には、お役所仕事というのはやはり相当なストレスだった模様。

 まぁ、猫を被って演じつつだもんな。それも仕方ないだろう。

 そう思いながら、俺は四条さんを引き連れ、伊達家へと戻るのだった。


 ◇◆◇ そして現在 ◆◇◆


「まぁ、クラン結成、クランエンブレム作成、四条さんの引き抜き……一気にやったんで、色々大変でしたけどね」


 俺がそう言うと、水谷は呆れた様子で俺を見ていた。


「……まぁ、山井さんがいれば情報部には多少の無理も通せるか。それにしても、ららちゃん、鳴神クン、山井さんと……全員が天恵第4段階……ともなれば、玖命クンの天恵も気になってくるんだけど……?」


 ニコリと笑いながら聞いた水谷は、物珍しいという視線を捨て去り、もう興味の視線に戻っていた。

 相変わらず鋭い人だな、この人は。


「今、第2段階ですよ」


 言うと、水谷は目を丸くして驚いていた。


「……どうしました?」

「いや、まさか教えてくれるとは思わなくてね……」

「ある程度は教えますよ。ある程度はね」

「……ふふふ、いいね。それでこそ玖命クンだ。それで? 第2段階って事は、最下位じゃなく下位の天恵が扱えるようになったって事かな?」

「そういった認識で結構です」


 そう言うと、水谷は目を細め、俺に言った。


「それは結構な天恵だね」


 だから俺も笑みを浮かべながら言った。


「えぇ、この天恵のおかげで色々助かってます」

「いいんだよ? お姉さんに全部話しちゃっても?」

「あははは、何言ってるんですか、これが今の俺の全部ですよ」

「はははは、そんな遠慮しなくていいんだよ、玖命クン……」


 水谷は俺の言葉が全て真実だとは思っていないようだ。

 まぁ、その通りなんだが、それが確実だと言える証拠はない。

 だから俺を揺さぶっているのだ。そんなピリついた空気に、川奈さんが苦笑を浮かべる。


「あ、あははは……エレベーター長いですねぇ……もうかれこれ5分くらい乗ってるような……」

「まぁ、事実高いからね、ここのビル。私や玖命クンならビルの外壁から駆け上がった方が早いんだけど……」


 どうやら川奈さんはこの空気を打ち破る事は出来なかったようだ。

 だが、それでも諦めないのが川奈さんである。


「あ、そうだ。私もそろそろアーティファクトを検討しようと思ってたんです」


 なるほど、とても建設的な意見だ。

 これは俺も便乗しておこう。


「いいですね。【天騎士】なら何が合うんでしょう。ねぇ、水谷さん?」

「え? そ、そうだね……うーん、【大いなる鐘(ウチ)】の山王(やまおう)さんは……確か、【体力C】と【腕力C】のアーティファクトを持ってたかな?」

「えぇ!? た、【体力】系ですかっ!?」


 どうやら川奈さんが欲しいアーティファクトじゃなかったようだ。


「私も伊達さんや水谷さんみたいにシュパって敵を倒してみたかったから、【脚力】系にしようかと思ってたんですけど……」


 川奈さんの言葉に、俺と水谷は顔を見合わせた。

 すると、天才としての経験が長い水谷が諭すように伝える。


「【騎士】系は元々素早さはほとんど向上しないからね。勿論、向上しない訳じゃないけど、戦闘の場では基本的には待ちメインになるのよ。だから、攻撃を耐える【体力】と、それを補う【腕力】が必要なの。勿論、立ち回りを考えれば【脚力】も必要だろうけど、優先順位は低くなるかな。あ、でも」

「何ですか?」

「山王さん、次に揃えるなら【脚力】だって言ってたよ?」

「おぉ! という事は優先順位が3位って事ですね!」


 川奈さんが目を輝かせる。

 アーティファクトは装備に付与する事が出来るが、天才の身体に反応するのは、5ヵ所までだと何かの論文に書いてあった気がする。

 SS(ダブル)の山王さんでもまだ2ヵ所しか埋まってないのか。それは驚きだ。しかし、そんな事を考えていると、川奈さんはその疑問を水谷にぶつけていた。


「でも、山王さんって確かSS(ダブル)ですよね? そんなにアーティファクトって持てないものなんですか?」

「え? ん~……【体力C】のアーティファクトを造るには、SS(ダブル)ランクの魔石が必要なんだけど、ららちゃん知ってるよね?」

「はい! そういう事は事前に調べてます!」

SS(ダブル)ランクの魔石というと、市場に出るのも稀で、出たとしても価格がとんでもない事になるんだけど……」

「一つ10億円くらいですよね! 任せてください!」


 そう言った直後、エレベーターの扉が開く。

 そして、川奈さんは、開いた扉の奥に立っていた人を指差して言い切ったのだ。


「お父さんが買ってくれるそうですからっ!」


 これには、たとえ【剣聖】を経、【剣皇】としてかなり稼いでいる水谷結莉をもってしても……引き気味だった。

 彼女の「金持ち」というステータスは、天才にとっても重要な要素なのかもしれない。

 だからこそ――、


「「……強い」」


 俺と水谷の感想は同じだったのだ。

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