第179話 創設メンバー
「何じゃと!? まだ仲間に話しておらなんだか!?」
「いや、今日の食事中にしようかと思ってまして」
俺と山井拓人がヒソヒソと話していると、翔が間に入って来た。
「ぁんだよ!? あの情報部の白髪フサフサ爺の兄貴なんだって? にしては顔しか似てねーじゃねーか?」
顔が似てれば十分だと思う。
まぁ、翔がそう思うのも無理はない。情報部の山井意織さんはガッチガチの肉体派というか、ヘラクレスのような身体をしている。対して、山井拓人さんの方は、年相応という容姿をしているのだ。体幹が良いのは間違いないんだけど、見るからにおじいちゃん……という容姿である。
「山井拓人さんだよ、翔も名前くらいは聞いた事あるだろ?」
「山井拓人ぉ? 山井拓人っていったら、かなーり昔の埼玉の爆走集団【超神剣】の頭の名前じゃねーか?」
それは関係ないだろ。
「ほっほっほっほ、懐かしい名前じゃな」
「お、やっぱりそうかよ! 八丁湖横断爆走は今でも伝説だぜぇ!?」
湖をどうやって横断したのか、俺は聞きたくない。
というか、山井さんて天才になる前はそんな事してたのか。
「ほっほっほっほ、今ではゴッブレの名前すらあまり聞かぬからな」
ゴッブレ……。
俺と川奈さんは見合いながら首を傾げた。
「その山井センパイがどうしたっつーんだ? お?」
あ、翔ってこういう時にセンパイって付けるんだ。
そう納得してしまったのは俺だけではなく、川奈さんも同じだったようで、
「お~」
と、口を尖らせていた。
まぁ、今夜話すつもりだったけど、たっくんがここに来てしまったのであれば、説明しない訳にもいかないだろう。
俺は、たっくんが何故ここにいるか、俺たちが創るクランに入りたいと言っている事を翔と川奈さんに伝えた。
「す、凄いです! 確かに私、前に『山井さんとかどうですか?』とか聞きましたけど、山井さん側からアプローチがあったなんて!?」
「カカカカッ! 俺様について来られる実力があるなら、選考漏れとは言えねーな!」
おぉ、意外に受け入れられている。
「そんかし、山井センパイにゃ忠告しなきゃなんねー事があんだよ」
「……何じゃ?」
翔の圧力が凄い。
川奈さんも、翔が何をする気なのか気になっている様子だ。
「ウチの頭は玖命だ。それを履き違えるんじゃねーぞ? お? センパイがどんな伝説持ってよーがよ? 玖命がこの先に打ち立てる伝説にゃ、とーく及ばねーんだかんな? そこんとこ夜露死苦」
「うむ、わかっておる。儂らが玖命という名の神輿を担ぐんじゃ」
「カカカカッ!! わかってるじゃねーか、センパイッ!!」
たっくんの背中をバシバシと叩く翔。
8月の終わり……まさか、たった数ヶ月でこんなに自分を取り巻く状況が変わるとは思わなかった。
「おし! そんじゃ今日は懇親会といこーぜ!」
「あ、いいですねいいですねっ!」
「ほっ! そりゃいいのうっ!」
三人のやり取りを見て、こんなチームも悪くないと思わせてくれる。そんな事を考えていると、俺のスマホがぴこんと着信を知らせる。
「ん?」
――「Rala」が「たっくん」をグループ名「クラン(仮)」に招待しました。
――「たっくん」がグループに参加しました。
いつの間に連絡先を交換したのか、川奈さんの行動力はとんでもないな。
「何じゃ? まだクラン名が決まってないのか?」
「そうなんですよ。結構考えてるんですけどねぇ……」
「そんじゃ今夜は玖命んチで飯食いながら考えんべ!」
何故ウチが真っ先に候補に挙がるのか、甚だ疑問である。
「嬢ちゃん、帰りにスーパー寄ってくぞ!」
「あ、私、この前スーパーデビューしたんですっ!」
「そいつはスーパー驚きだな、カカカカッ!」
「あははははっ、それ面白くないですよ、翔さん!」
「儂が特製田楽を作ってやるぞ。ほっほっほ!」
「おう! 俺様も気合いのかつ丼を作ってやんぜ!」
「私は光熱費を出しますー!」
「お、そりゃ大事だな! センパイ、これ最重要だかんな!」
「心得た!」
まぁ……楽しそうだからいっか。
俺はそう思わざるを得ない状況下、命と親父にToKWでメッセージを送るのだった。
玖命―――何か今日、ウチに川奈さんと翔とたっくんが来るって
超心臓――たっくんって、お兄ちゃんが前に言ってたインサニアの人?
玖命―――そう、強い人。
大黒柱――山井さんだろ? 私の時代はかなりの有名人だったなぁ……帰りにサイン色紙買っていこう。いいですか命さん?
超心臓――二枚お願い。今度水谷様が来た時に、色紙あった方がいいし。
大黒柱――はい。
玖命―――サインなら俺のTシャツに貰ったじゃん
超心臓――TシャツはTシャツ。色紙は色紙。そういう事よ
どういう事か全くわからん。
「おし! そんじゃスーパーに行くぞ!」
「「おーう!」」
「あ、ちょっといいです?」
翔が音頭をとっている中、俺は三人に言った。
「翔は八王子残り6周」
「げっ!?」
「川奈さんはその間にもう一件仕事を受けましょう。俺が付き合います」
「ひっ!?」
「山井さんはとりあえず素振り3万本くらいやっててください」
「なっ!?」
どさくさに紛れて、サボるなんてありえないからな。
「「馬鹿なっ!?」」
頭を抱える三人を前に、俺は思った。
これから彼らの前に立たなくちゃいけないのか、そう思うと俺の方が頭を抱えたくなるな、と。