第178話 鬼の玖命
「翔、八王子あと7周」
「じょ、冗談だろ、玖命ぇ!?」
「天恵の第5段階までは色んな制約があるみたいだ。お前には体力リソースが足りてない」
「何訳わかんねー事言ってんだよ、おい!?」
「頑張れー、翔」
「く、くそがぁああああああっ!!」
さて、次は――、
「川奈さんはそのまま討伐を続けてください」
「は、はい!」
やはり、川奈さんの方が俺に耐性があるのか、訓練のように返事をしてくれる。
翔はまだ慣れてないみたいだけど、走る事は走っている。
あいつは一応俺を頭と立ててくれているのだが、それを俺が嫌がっているというのもわかっているはずだ。
しかし、それをやめる気はないようだ。なるほど、とても翔してる感じがして清々しい程だ。
しかし、川奈宗頼氏が、川奈さんの天才活動を反対しつつも、翔に助けを求めるとはな。
翔は川奈氏が信頼する人間。ビジネス以上に娘を優先させている事が理解出来る。
まぁ、その内、何らかのアクションはしてくるだろうが、今のところない……というのが逆に不安だ。
さて……そろそろ川奈さんの天恵【聖騎士】が【天騎士】に成長しそうなのだが――、
「っ!? おめでとうございますぅ!?」
「お?」
「天恵が成長しましたぁ!? 何で!?」
読み上げと疑問が同期している。
「天恵【天騎士】を取得しましたぁああ!? 嘘、どうして!?」
「おめでとうございます! さぁ、また耐え忍ぶ時間ですよ!」
「祝辞が雑なんですけど、伊達さんっ!?」
「翔が戻ってきたら、翔に殴ってもらいましょう」
「意味がわからないんですけどっ!? いえ、でも……うん! 頑張ります!」
どうやら、【上級騎士】から【聖騎士】、【聖騎士】から【天騎士】までの急激な成長が、川奈さんに理解させたようだ。
俺の言ってる事が、間違いじゃないと。
天恵の第5段階……か。
翔は【拳皇】から【拳神】へ。川奈さんは【天騎士】から【神聖騎士】へ。
これを得るには、これまでとは比べ物にならない時間と労力を要するだろう。
何故なら、第5段階まで成長する天才は、世界でも有数だからだ。俺もこの二つの天恵は過去の天才の例でしか知らない。
【拳神】と【神聖騎士】は世界の天恵名鑑を探しても現存していない。勿論、【はぐれ】の中にはいるかもしれないが、長い歴史の中でも辿り着いた者は限りなく少ない。
だから、若いながらも【元帥】にまで上り詰めた越田高幸は、世界的に見ても評価が高いのだ。
【天眼】が教えてくれる解析度を読み解けば、確実に成長出来るのはわかる。しかし、それを知っても労力の割合が多くを占めるこの状況は、天才たちに「努力なくして成長はない」と言っているかのようだ。
俺の天恵【探究】が【考究】になった。
しかし、それ以上の成長は未だ見られていない。
【固有天恵】の成長は他の天恵と異なるとも聞いた事がある。一度、米原さんに聞いてみるのも手か。
「なっ!? 伊達さん!? ついに討伐中にスマホをいじるようにっ!? 鬼! 悪魔! ブギーマン! 生剥げ!」
確か、生剥げはありがたい存在だったはずだが?
まぁ、川奈さんのご厚意という事で、ありがたく受け取っておこう。
玖命―――米原さん、質問よろしいですか?
樹子姫――あ、伊達っちだぁ!? ナニナニ~?
……この人も山井さんタイプか。
まぁ、米原さんは配信チャンネルしてるから、そんなにイメージ変わらないけどな。
玖命―――騎士や剣士の成長は第5段階まであると思うんですが、ユニークも第5段階まであるんでしょうか?
樹子姫――あ、それね! 私も気になって世界中から情報集めたの! どうやらユニークは第4段階までとか噂があるみたいだよー!
玖命―――第4段階ですか。
樹子姫――そこまでしか確認されてないって事らしいけど、そもそも世界的に見てもユニークって少ないからね(´・ω・`)ショボーン
玖命―――わかりました。俺も色々調べてみます。何かわかれば共有するようにしますので!
樹子姫――(^谷^)アリガトウ
…………最後の顔文字ナニコレ。
そんなやり取りをしつつ、川奈さんのモンスター耐久マラソンを眺めていると、翔が八王子マラソンから帰って来た。
まぁ、まだ一周だけどな。
翔が俺の前に着地するなり、俺たちに背を向ける。
そして叫ぶのだ。
「おうコラッ!? いつまでつけて来るつもりだ、あぁ!?」
翔がそう言った瞬間、川奈さんは正面のモンスターを倒し始め、俺はその援護を行った。
「ナイスです、川奈さん!」
「ありがとうございます、伊達さん!」
翔をつけて来たという事は、翔について来られたという事。
【はぐれ】である可能性を考慮すれば、モンスターと対峙している余裕はない。
俺と川奈さんは翔の左右に陣取り、対象の登場を待った。
しかし――、
「あいや、すまんすまん。驚かせてしまったかの?」
現れたのは――、
「あぁ!? 何だ爺っ!? ん? お前ぇ、どっかで見た面だな?」
「何か、顔は似てるんですけど……身体が一致しないような?」
翔と川奈さんの証言は尤もである。
二人はこの人の顔を知らない。厳密には川奈さんは一度会ってるが、挨拶もしてないだろうし、接点はないはずだ。
「鳴神翔を見つけたから、追っていけば玖命に会えると思っての。まさか八王子を半周するとは思わなんだ。ほっほっほっほ、久しいのう玖命っ!」
俺は咄嗟にスマホを取り出した。
そして、とある人物に連絡したのだ。
玖命――――何か、目の前にたっくんに似た人がいるんですけど?
ToKWで送ると、目の前の人物もスマホを取り出した。
たっくん――それ私だよー^^
「何じゃ? 儂と話すのが恥ずかしい訳じゃあるまいし? 面倒な事をしおって……?」
玖命――――別人じゃないですかね?
たっくん――そんな訳ないない^^ たっくんだよー!
俺には別人にしか見えないんだよな。ホント。