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第177話 自立の時

 ◇◆◇ 20XX年8月31日 11:00 ◆◇◆


 越田さんと握手を交わした翌日。


「た、たたたたた大変ですぅ!?」


 天才派遣所にやって来ると、川奈さんが俺に肉薄してきた。

 何やらキラキラと光るカードを片手に持っている様子。


「ど、どうしたんですか? そんなに慌てて……?」


 俺が聞くと、川奈さんは「ふぐぅ」と眉をハの字(、、、)にして、俺に言った。


「か、家族カードが止められちゃいましたぁ……!」


 …………遂にバレたか。

 ていうか、手に持ってたのクレジットカードだったのか。


「お父さんにバレちゃったって事か……た、大変ですね」


 そう言うと、川奈さんは俺にスマホの画面を見せてきたのだ。


「『元通りにしてほしかったら、一度実家まで帰って全て話しなさい』って……うぅ」


 川奈(かわな)宗頼(むねより)氏の反応が至って普通過ぎて、川奈さんの反応の方が間違ってるように思えてしまうのは気のせいだろうか?

 ぷるぷると震えている川奈さん。

 カードを止められた事がよほどショックだったのだろう。

 彼女の悲しみがその反応から見て――


「でも大丈夫ですっ! 何故なら、すでに私個人のカードがありますからぁ!!」


 ――とれない。

 安定したいつもの川奈さん劇場が始まった。


「最近の収入安定化に伴い、私のカードの申請が通りましたっ! 明日から立川のマンションで一人暮らしも始まりますぅ!」


 ぴょんぴょんと跳ねまわり喜びを体現する川奈さん。

 それにしても18歳で一人立ちって凄いな。


「えっと、じゃあお父さんに説明は……?」

「メールで大丈夫ですっ! 『天才の義務を果たします!』って送っておきましたっ!」

「あ、そうすか」

「既に稼いだお金の一部を資産運用に回してますから、遠くない未来、不労所得で生きられるようになります! 何たってこれからもっと稼ぎますからねっ!」


 川奈さんって、本当に凄い。

 そう思いながら雑談を続けていると、俺の隣にもう一人の仲間が腰掛けた。

 その存在に気付き、川奈さんが声をかける。


「あれー? 翔さん、どうしたんですか? 昨日、今日とリザードマンの掃除があるとか言ってましたよね?」


 そう、俺の隣には鳴神翔が爽やかな笑みを浮かべ座っていたのだ。

 翔が……爽やか?

 何故、俺はそんな印象を受けてしまったのだろうか? 翔を見るも、晴れ晴れとした表情が変わる事はない。


「よぉ玖命ぇ、嬢ちゃん」


 まるで今会ったかのような口ぶりだ。

 既に翔が腰を下ろしてから1分は経っているというのに。

 それに、川奈さんの質問にも答えていない。


「そんで? 今日は何すんだ?」


 何故、翔が俺のたちの予定を聞いて来るのだろうか。

 別に仲間外れにする訳ではない。彼とはランクが違い過ぎて、一緒に受ける依頼がほぼないから、しばらくは一緒に組む事は出来ないのだ。

 翔にも予定があるはずなので、一緒に行動出来ないはず。

 単純に雑談として予定を聞いている様子ではない。

 完全に、『今日どこ行く?』といった聞き方だ。


「伊達さんの鎧分のお金を稼ぎに、割の良いお仕事を探すつもりですっ!」


 川奈さんの優しさが身に染みる。


「そーかそーか。そんじゃ俺様もそれに付いてってやんよ」

「え、本当ですかっ!? どうします、伊達さんっ?」


 川奈さんは頼もしい仲間が増えるようで安心している様子だが、俺は翔への違和感をまだ拭えていなかった。

 だから、先程の川奈さんの質問を、俺は今一度、翔に聞いたのだ。


「翔、リザードマンの討伐はどうした?」

「んなこたぁどうでもいいだろうが、玖命くん」

「『くん』ってキャラじゃないのは知ってる」

「かかかか、あんまり(するで)ぇと仲間に嫌われちまうぞぉ?」


 笑みを絶やさないものの、翔のプレッシャーが凄い。

 何か触れて欲しくない事でもあるのだろうか?

 ……いや、待て?


「確か、翔の契約者は川奈さんのお父さんだったよね?」

「え、はい、そうですね」

「【姫天】で二人の動画を川奈さんのお父さんが観たとしたら……翔、お前……」


 俺がそこまで言うと、翔はバッと立ち上がって言った。


「あぁそうだよ! こんちきしょうめっ! 契約終了だボケェ!!」


 苛立ちと悪口と要点と悪口があった。

 要点だけで考えるならば、川奈さんと翔の同行が、翔の契約を破棄する理由となった……そういう事だろう。


「えぇ、お父さんが翔さんの契約をっ!?」

「ご丁寧に違約金まで用意しやがったぜ、あの(たぬき)親父っ!」

「お父さんは狸というよりも(きつね)ですっ!」


 川奈さんの張り合う部分が、家族って感じがする。


「『私が娘の天才活動を反対している事を知らなかったとは言わせない』だとよ!」


 そりゃ、流石の翔だって有無も言えないだろうな。


「だから俺様は言ってやったぜ! 『知らなかった』ってよ!!」


 言ったのか。凄いメンタルだな。

 しかも大ウソつき。

 まぁ、こういう時の翔は理屈じゃ通じないだろうしな。


「そしたらよ! あの狐親父何て言ったと思う!? おぉ!?」


 しっかり狐親父って言い直してる。


「お、お父さんは何て!?」

「『こっちはこっちで何とかするから、君は娘を守ってくれ』だとよ! ざけんじゃねぇぞ! てめぇの娘は俺様の拳を止められるレベルの天才だってんだ!! カァアアアアッ! バカ親がぁっ!!」

「翔、バカ親じゃなく親バカだ」

「そう言ったろうが!!」


 何はともあれ、俺、川奈さん、翔は……こうして新たな道を歩み始めたのだった。

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