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第173話 久しぶりの二人

 楽しい事は一瞬で過ぎ去ってしまう。

 それは誰もが経験した事だろう。

 だが、俺にその経験はあっても、記憶には薄い。

 ここ最近だと、伊達家(ウチ)に皆が集まって食事をしたあの日が最新の記憶だ。

 しかし、それ以前のもの……と考えると、中々出てこないものだ。

 クランを創るとは決めたものの、伊達家の借金はまだ残っている。

 これも何とか解消しなくてはならないだろう。

 俺たちは、蟹料理、寿司、花火、一部の面子で深夜ラーメンを楽しんだ。

 ホテルに戻る頃には、皆満足そうな表情で部屋に入っていた。

 唯一解せない点は、俺が翔と同じ部屋だったって事だ。

 別に(みこと)と同じ部屋でもよかったのだが、(みこと)は、川奈さん、四条さん、月見里(やまなし)さんの女四人で相部屋という選択をしていた。

 まぁ、川奈さんが用意してくれた部屋だし、我儘を言う訳ではないが、何故……――、


「んがぁああああああああ…………すぴぃ…………んがぁああああああああ…………すぴぃ」


 騒音搭載の天才の横で眠らなければならないのか。

 俺は深い溜め息を吐き、翔の横顔を恨めしそうに睨んだ。

 ……がしかし、翔と川奈さんがいなければ、この北海道での出来事は乗り越えられなかっただろう。

 そういった意味では二人に感謝しないとな。


「んがぁああああああああ…………すぴぃ」


 だが、それとこれとはやはり別なのだ。

 俺は出来るだけ騒音から逃れるよう、布団に(くる)まるようにして目を瞑った。

 次から翔と相部屋になる時は、耳栓を用意しよう。

 そう思った俺だった。


 ◇◆◇ 20XX年8月30日 19:00 ◆◇◆


 北海道からと羽田まで飛び、東京に戻った俺は、皆と別れ、新宿までやって来ていた。

 新宿まで来た理由は……勿論、日本一の大手クラン【大いなる鐘】代表の、越田(こしだ)高幸(たかゆき)と会うためである。

 さて、迎えが来るとの事だが、一体……ん?


「……あの人集(ひとだか)りは……?」


 人集りに近付くにつれて、その意味が理解できた。


(あかね)さーん! ファンなんです!」

真紀(まき)さーん! 好きでーす!!」

「結婚してくださーい!!」

山王(やまおう)ー!! こっち向いてー!!」

「俺の彼氏になってくれ! 十郎(じゅうろう)ぉお!!」

「やまじゅー!!」


 大盾より大きい存在が目印である。

 あれは【天騎士】山王(やまおう)十郎(じゅうろう)山十(やまじゅう)のあだ名で親しまれる【大いなる鐘】第1班の壁役(シールダー)

 そして、奥に見えるのが【大聖女】(あかね)真紀(まき)。テレビや映画でも引っ張りだこの天才兼女優。相変わらず色っぽい衣装を着ている。あれは最早(もはや)下着なのではないか?

 ……もしかして、あの二人が……?


「ん? おぉ! 伊達ぇ!」

「久しぶりね、坊や」


 一斉に向く【大いなる鐘】ファンたちの視線。

 この突き刺さるような視線……これから先多そうだなぁ……。


「や、やっぱり……」

「越田に言われて迎えに来たぞ! はははははっ!」

「ま、坊や相手ならこれくらいのお使い当然よね」


 そんな二人の言葉に、俺は委縮してしまう。

 何故なら。


「……誰?」

「Tシャツよれよれ」

「刀携帯してるしあれじゃね? 討伐帰り」

「そっか、Tシャツにところどころにほつれがあるのもそれが原因かー」

「じゃあこの人も【大いなる鐘】? お前知ってる?」

「まだ若そうだし新人じゃない?」

「でも、一応ゴールドクラスの装備じゃない?」

「にしては鎧なくね?」

「壊れちゃったんじゃない?」

「ゴールドクラスの鎧壊すとか、かなりの強敵だろ」


 そんな周りの言葉が、俺の心に突き刺さる。

 Tシャツがよれよれなのは、最早(もはや)俺のトレードマークみたいなもの。その内、ちゃんとした服も揃えないとなー。

 それに、ゴールドクラスの鎧の事は今言わないで欲しい。

 俺の心が持たない。この330円のTシャツ3000枚分なんだぞ……!

 俺が項垂れながら深く重い溜め息を吐いてると、山王さんと茜さんはくすりと笑いながら俺の左右を陣取った。


「それじゃあ皆、これからも応援よろしく!」

「ごきげんよう」


 ファンの方々にそう言って、俺を誘導したのだった。

 道中、茜さんが俺に言った。


「【姫天(ひめてん)】観たわ」

「おぉ! ありゃ凄かったな!」


 山王さんもそれに続く。


「お二人にそう言って頂けると頑張った甲斐(かい)があります」

「ありゃ、もう俺より強いな。ははははっ!」

「あの回復力の謎に迫りたいところね」


 茜さんがずいと肉薄するも、俺はその分だけ距離をとった。

 とらざるを得なかった。甘いフローラルな香りが、思考を止めそうだったからだ。

 距離をとった俺に、茜さんが言った。


「あら、残念」

「あぁ、ウチの【大聖女】は残念なヤツなんだ」


 山王さんの言葉に、茜さんはジロリと視線を向ける。

 しかし、こんなやり取りを何度も続けてるのだろう。

 山王さんはすぐに話題を変えたのだ。


「そういえば、城田(しろた)……いや、八神(やがみ)の件はすまなかったな伊達。あの後ゴタゴタしちまって会う機会もなかったしな」


 やはり、八神の件は山王さんも気にしていたのか。


「私からも謝罪します。本当にすみませんでした」

「あぁいえ。名前も変えていたのであれば、仕方ないですよ。でも、どうして天才派遣所に登録している名前を改ざん出来たんでしょう?」


 そんな俺の疑問に、二人は見合って言った。


「ごめんなさい、私たちから話せる事じゃないのよね」

「あれから捜査が少し進んでな。まぁその話も含めて、代表(ユキ)から直接聞くと良い」


 そう言って、俺を【大いなる鐘】の事務所(オフィス)まで送り届けてくれた。

 思えば、越田さんと1対1で話すのはこれが初めてだ。

 八神の事、今回呼ばれた事……俺は緊張しながら、応接室へと足を踏み入れるのだった。

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