第168話 女王、米原樹4
俯く米原さん。
小林さんも米原の反応を受け、何も出来ずにいる。
なるほど、これが【ポ狩ット】という組織なのか。
「ぁんだぁ!? 頭が潰れりゃそれまでか? あぁ!? 根性見せろや嬢ちゃん!」
翔がそう言うも、米原さんは俯くばかり。
仕方ない、ここは俺が突っ込んでみるか。
「【改竄士】……ですか」
「「っ!?」」
米原さんはじめ、多くのポ狩ットメンバーが驚きを見せる。
米原さんは、俺の天恵を覗けなかったはずだ。
つまり、俺が【鑑定】持ちだと気付いている。
だから、彼女が【鑑定】入りのコンタクトを外せば、俺に米原さんの天恵が視えるという結果は必然。
「聞いた事のない天恵ですね」
そう言うと、翔が「ほーん」と得心した様子を見せた。
「なるほどな、俗に言う固有天恵か」
「へぇ、そんな風に言うんだ?」
「固有天恵、ユニーク持ち、まぁそんなところだ。多く認知されてる俺様や嬢ちゃんの【拳士】系や【騎士】系の天恵と違って、かなり尖った天恵ってのが通説って話だな」
翔がそこまで言うと、俺と川奈さんは驚きを見せた。
「翔って説明役出来たんだ……」
「信じがたい事実です……」
「お前ぇらが俺様をどう思ってるのかはよくわかったぜ……」
翔が顔をヒクヒクさせる中、俺は米原さんを見た。
固有天恵か。俺の天恵もおそらくこれに該当するのだろうが、【ポ狩ット】にもいたとはな。
おそらく、以前戦った八神右京の天恵【道化師】もそうだったのだろう。
それにしても、米原さん全然反応見せないな。
仕方ない。更に突っ込んでみるか。
俺は【天眼】を使い、更に米原さんの天恵【改竄士】を覗き視た。
【改竄士】――【改定士】の上位天恵。従来の天恵【改定士】の能力、対象の体重操作に加え、一時的に対象の【天恵操作】が可能。天恵操作を行えば、対象の現時点での最上位天恵より最大2段階下位の天恵にまで変更出来る。効果時間10秒。再発動時間3秒。発動には【鑑定】の天恵が必要。
【改定士】……か。
【改定士】――【鑑定】により対象の体重が確認出来れば、その体重操作が可能。下限10kg、上限対象体重の50倍迄。効果時間10秒。再発動時間3秒。
「なるほど、そういう事ですか」
そう言って俺は米原さんと視線を合わせた。
腰を落とし、彼女の目線にまで身体をもっていく。
無理やりにでもこうしなければ、彼女はこちらを見てくれなかっただろう。
「米原さんが酷く接近を嫌う意味……理解しました」
「…………バレてしまいましたね」
困り顔で言った彼女を、俺は責める事は出来なかった。
何故なら、米原さんは力を持ちながらも無力な存在。
彼女は一人でモンスターと戦う事が出来ない。
だからこそ、玉座から離れず動かないのだ。
「そして、米原さんが他者の天恵を探る理由もよくわかりました」
「そこまでバレるとは思いませんでした。まさか【鑑定】までお持ちとは露知らず」
事実、彼女の天恵はほぼ敵無しと言えるだろう。
【鑑定】で覗ける相手であれば、その改竄が可能。
ゴブリンは身動きすらとれず、大型モンスターであっても動きが困難になるだろう。
そう、仲間さえいれば、米原さんは対象を視界に捉えるだけでいい。
仲間は簡単に敵やモンスターを倒し、比較的すぐにランクを上げる事も可能。
なるほど、米原さんが戦った映像が残っていないはずだ。
彼女は戦闘の場で、在り続ける事で、仲間を援護していた。
「俺に対する強めの要求も、翔を煽ったのも、全ては米原さんが自分自身を守るため……そういう事だったんですね」
「……何の申し開きもございません」
そう、【鑑定】持ちの戦闘員……俺という存在が、米原さんにとって天敵だったに過ぎない。
米原さんが目を伏せてそう言うと、後ろから小林さんが話しかけてきた。
「普段はあそこまで踏み込まないんですけどねー。どうしても未鑑定の天恵相手となると、いっちゃんは縄張りに入れる事すら嫌がるから……」
その補足が全てだった。
それだけで、これまでの違和感が全て消し飛んだ。
俺は翔と川奈さんは顔を見合わせた後、米原さんに言った。
「俺は別に米原さんを害したりはしませんよ」
それだけ言うと、米原さんはぽかんと口を開け、小林さんはちらりと米原さんを見た。
「いっちゃん、ごめんなさいしとこうか」
小林さんがいつもの調子でそう言うと、米原さんはすっと立ち上がり、深々と頭を下げた。
「この度は、度重なる無礼、誠に申し訳ございませんでした」
トップクラン代表の謝罪とあれば、俺も川奈さんも翔も、何も言えない。
彼女は彼女の領地を守り、自己の生命を守り、彼女なしでは生きられない彼女の仲間たちを守るためにやった事。
多少の荒事など些末な問題だ。
だから俺は、仕切り直すという意味も込めて、十数分前にもしたのと同じ事をしたのだ。
そう、右手を差し出して。
「改めて、伊達玖命です、よろしくお願いします」
米原さんが、困惑し、目を丸くし、恥ずかしがりながら、俯きながらも、その右手を握り返してくれるまで、そう時間はかからなかった。
どんなクランにもクラン特有の悩みがある。
それを知った俺は、背後で呆れる川奈さんと翔の視線をかわしつつ、更なる成長を誓ったのだった。