第138話 明々後日
Rala――それじゃあ、ちょっとお休みを頂きます!
血みどろ――休みっていうけどよ?嬢ちゃん、どこ行くんだよ?
Rala――オホーツク海の海の幸を食べに行くんです!
血みどろ――オホーツク海ぃ? どこだそりゃ?
Rala――後、メロン!
血みどろ――メロンだぁ?
Rala――翔さんには、札幌、函館、旭川のラーメンを……写真でお届けします!
血みどろ――あ!嬢ちゃん北海道だろ!?北海道に行くつもりだな!?ずりぃ!俺様も連れてけや!!
Rala――それじゃ、機内モードにするので、現地に着いたらまた連絡しまーす!
血みどろ――おい!ずりぃぞ!おい!!
血みどろ――帰ったら覚えてろ、嬢ちゃん
血みどろ――それにしても玖命は何してんだ?
血みどろ――おい
血みどろ――おい
血みどろ――おい玖命ラーメン行くぞ!おい!!
「zzzzzzzz………………んぅ……? 何か通知音が……?」
目を覚ますと、既に日が高く……いや、寧ろ傾きかけている。
スマホの通知音の正体はあの二人か。
どうやら、川奈さんは北海道に向かったみたいだ。
ヤケ食いするとか言ってたもんな。彼女らしいといえば彼女らしいか。
……ふむ、飛行機か。そういえば乗った事ないんだよな。
いつかは乗る事にはなるんだろうけど、今はまだお金を稼いで借金を返済しなくちゃ。
いつか家族旅行とかで行ってみたいものだ。
◇◆◇ ◆◇◆
「……は? 今、何て……?」
「『交通費は出るよ』って言ったんだけど……?」
相田さんは困ったように小首を傾げて言った。
珍しい事に、俺は相田さんに人目のない応接室に通されていた。
「いや、その前というか、全部というか……?」
「あ、ははは。さ、最近、討伐ばかりだったもんね。疲れちゃってたのかな? コホン、それじゃあ、もう一度説明するね? 情報部からの指名依頼です」
「情報部……という事は山井意織情報部長が絡んだ依頼……」
「ま、まぁそういう事になるかな……ははは」
相田さんも困っている様子だ。
おそらく、山井さん……いや、情報部全体から圧力のかかった依頼だという事。
「い、依頼内容は……?」
「羽佐間陣さんの事は覚えてるでしょう?」
「あぁ~……あの【上忍】の?」
「そう、四条さんを狙った鉄腕の男です」
「えぇ、勿論覚えてます」
「あの鉄腕――【腕力C】の出所がようやく掴めました」
「おぉ! ずっと気になってたんですよ!」
まぁ、俺としては、あの八神右京の件も気になってるんだけどな。
「千歳の工業地域。そこの武器工場から流れたものだと判明しました」
「千歳……?」
「はい。でも、この武器工場は、海外の武器メーカーも絡んでいるらしくて、派遣所も迂闊に手を出せないの」
「なるほど……」
「伊達くんには、この武器工場に侵入し、何らかの物的証拠を持ち帰って欲しいとの事です」
「侵入……え? 侵入するんですかっ!? 俺が!?」
「サポートに調査課の方が付き添ってくれるって言ってるけど……どうする?」
「ど、どうするって……犯罪なんじゃ?」
「天才派遣所の全権限を以て、それはないとだけ断言します。つまり、日本の法で裁かれるような事はありません。これは、トップクラスの天才であれば、比較的よくある部類の依頼ですから」
凄いな、天才派遣所の闇というか、その権力の大きさを垣間見た気がする。
「けどね伊達くん」
「は、はい」
「断るのも勇気だからね?」
「……というと?」
「武器工場には何があるかもわからないし、どんな用心棒がいるかもわからないの。海外マフィアが絡んでいる事だって少なくない。だから調査が必要なんだけど、それを任せられる天才が少ないのも実情なの。北海道なら【ポ狩ット】の天才に任せる事も可能なんだけど、今回の糸口を見つけたのは伊達くんだから、情報部も名前を挙げたんだと思うの。勿論、伊達くんの評価も加味しての事だと思うけど……」
「北海道……」
確か、ウチのチームメンバーがヤケ食いの旅をするとか言ってたような気がする。
「伊達くん、どうする……?」
相田さんが心配そうな表情で俺を見る。
しかし悩むな。超法規的な手段で私有地に入る権限があるのはいいが、相手の見通しが立たない。
決め手になるナニカがあれば――、
「うーん……どうしよう……」
「前払い300万円、交通費、滞在費は派遣所持ち。成功報酬として更に700万円の報酬――」
「――行きます、行かせてください」
決め手があったのなら仕方ない。
「あ……うん、そう……だよね」
Dランクの依頼……しかも個人に対しての報酬としては破格。
行くしかない。
「そ、それじゃあ調査課の人との日程を調整するから、伊達くんの都合の良い日は――」
「――今日で」
「あ、うん……凄い食いつきだね……はははは。そ、それじゃあ今日を含む一番近い日程を組んでもらうね」
「はい、お願いします」
そう言って、俺は相田さんに全てを任せた。
そして、その日の夕方の内に、『飛行機のチケットが用意出来た』という連絡が入った。
そして俺は、命監修のお土産表を片手に、羽田へと向かうのだった。