第131話 ◆調査課3
「だ、だ、伊達さ~~~ん……」
ふらふらになりながら、訓練スペースから出て来る川奈らら。
そんな川奈を玖命が労う。
「お疲れ様……川奈さん」
「わ、私、頑張りましたよねっ? 頑張りましたよねぇ!?」
肉薄しながら目に涙を湛える川奈に、玖命は苦笑しつつうんうんと頷いて同意を示す。
俯く川奈の肩をぽんぽんと叩く玖命。
「ぅう……伊達さん……」
「ん?」
「私の仇……とってくださいねっ!」
そんな川奈の無茶振りに、玖命は目を丸くする。
そんなやり取りを見ていた鳴尾顕と月見里梓が顔をヒクつかせる。
(いや、山井さんに勝つのはちょっと……)
(あんな化け物に勝てる訳ないじゃん……)
「まぁ、出来るだけやってみるよ。あ、これで戦闘の録画お願いしてもいい?」
「え? 撮るんですか? いいですけど、珍しいですねぇ」
「えっと、構いませんよね?」
玖命が言うと、月見里が鳴尾を見る。
すると、鳴尾が言った。
「念のため、使用用途を聞いても?」
「山井さんのお兄さんが観たいと」
「「っ!?」」
玖命の一言に、二人が驚愕する。
「た、拓人さんと面識がっ!?」
「えぇ、凄い偶然だったんですけどね」
「アンタの交友関係どうなってんのよ……」
「ははは……」
鳴尾、月見里はそれぞれ違った反応を見せるも、それ以上の反応を見せたのが――、
『はっはっはっは! たっくんと知り合いか! しかも、連絡先を知っていると見たっ!!』
強化ガラスを震わせるような大きな声。
訓練スペース内の山井意織が玖命を見る。
『たっくんに送るのなら動画は許可しよう! 来い、伊達!』
玖命は「じゃあお願いね」と川奈に伝え、スマホを渡し、訓練スペースへ入って行く。
そして、端に置いてあった強化木剣を持ち、山井意織の前に立つ。
(山井意織……山井拓人と同じく天才の先駆けの一人)
「まさかたっくんの知己とはな。もう気付いてるんだろ?」
「……えぇ、まぁ」
「改めて自己紹介だ。天才派遣所情報部統括部長――山井意織だ」
ニヤリと笑う山井意織。
「たっくんは興味のない人間には絶対に連絡先を教えない。だからこそ、私は伊達、お前に興味を持った!」
(先の時代……山井拓人の背中を守った対の男。守り、守られ、救った人は数知れず。山井拓人とは違い、表舞台から姿を消し、一部では死亡説が囁かれていたが、まさか天才派遣所の内勤に従事していたとは思わなかった。だが、彼の天恵は謎に包まれている。確か……山井兄弟は異例中の異例の超レアケース――兄弟共に同じ天恵だったとか何かの本で読んだ事がある……)
木剣を構え、腰を落とす。
「遠慮はいらん……伊達、お前の全力を見せてみろっ!!」
山井意織は無手。先程の川奈と対応を変えない様子。
(【拳士】系? いや、だとしたら【考究】が反応するはず。ならば、彼の得物は別にあるはず。まずはそれを出させる事から頑張ってみるか……)
直後、玖命の剣が走った。
「っ!? ぬぉっ!!」
玖命の一撃は山井意織の背中を狙った。
当然、その速度には山井意織も対応出来た。
しかし、その威力には、対応する事が出来なかったのだ。
木剣の面を叩き、掬うように払う。玖命の剣の力を流し、霧散させる。
咄嗟の動きながら、洗練された山井意織の技術に玖命は目を見張る。
「ははは、凄いや……!」
そう零し、玖命が次の行動へと移行しようとするや否や、山井意織が両手を前に出した。
「ちょ、待った! 待った待ったっ!」
あろうことか、山井意織が戦闘を止めたのだ。
「鳴尾っ!」
『え? は、はいっ!』
「腕力SS、攻撃SSだ……! それと、私にも剣をよこせ!」
『は? えぇっ!?』
「早くしろ!」
『は、はい!!』
すぐに鳴尾は、訓練スペースの中に強化木剣を持って来る。それを見て、玖命が山井拓人と出会った時を思い出す。
(そうか……だから、山井さんは俺に剣を――)
山井意織が右手に持つ木剣。
そして左手で逆手に持つ木剣。
(――だから、山井さんは俺に剣を渡せたんだ。2本持っていたから……!)
――【考究】を開始します。対象の天恵を得ます。
動き出した玖命の天恵【考究】。
相手の天恵を、【考究】より先に、【天眼】より先に玖命が暴く。
「【双剣士】……!」
「おうよ、知ってたか!」
「都市伝説かと思ってましたが、実在したんですね……」
「【双剣士】、【ダブルチョッパー】、【二刀流】……そして、【二天一流】。それが私の天恵だ」
「天恵も面白い事しますね。実在する流派を名前に採用するんですから」
「はははは、その通りだ。だから我々は、天恵を与える者が……この世界のどこかにいると見ている」
そこまで言うと、鳴尾から待ったがかかる。
『ちょ、山井さん! それはオフレコですって!!』
「固い事言うんじゃない。伊達はいずれそれを知る人物だ、そこにいる川奈もな」
『そ、そこまでですかっ!?』
「たった一撃で私に剣を持たせたんだ。そうでなくちゃおかしい!」
自分に対する絶大な自信。
それを受けて玖命がゴクリと喉を鳴らす。
「それじゃあ……ここからが本番だぁ……伊達!」
「お願いします……!」
直後、鳴尾、月見里、そして川奈は、とてつもない光景を目にするのだった。