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第11話 伊達家

「こ、こここここれは何!? お兄ちゃんっ!!」


 フルフルと震える伊達(みこと)さん。

 我が家の家計を担う妹様であらせられる。

 ついさっきまでエプロン姿で格安のお勤め品の野菜を自慢していたのだが、今は札束を震えながら持っている。

 ほんと、何が起こるかわからない時代である。


「えーっと……お金?」


 そんな疑問形の答えに、(みこと)が肉薄する。


「そ、そんな事はわかってるのよ! このお金は何だって聞いてるのっ!? 借金!? 借金なの!? だったら今すぐこのお金を返しに行くよっ!」


 そう叫びながらも、(みこと)は家計用のポーチにそのお金を収納した。


「いや、お前……言葉と行動が合致してないんだけど?」

「だ、誰が見てるかわからない世の中なんだから、保管は重要よ!」

「まぁ確かに……」

「それで、このお金は一体何?」


 本日三回目の質問である。


「えーっとあの大怪我した日、偶然大型のモンスターを倒すことが出来たんだよ。それで、その報酬が……それ」


 (みこと)には250000円を渡し、俺は剣の購入代金として手元に100000円程残した。

 それでも、250000円という金額は、伊達家にとってとてつもない金額だった。


「本当にそれだけ?」

「ほ、本当だって」

「他に危険な事してない?」

「勿論」

「本当の本当?」

「本当の本当」


 家族の尋問程怖いものはない。

 しかも、俺の性格まで読み切ってるから念押ししてくる。まぁ、この性格は親父に似たんだけどな。


「ん? 何だ玖命(きゅうめい)、帰ってたのか」

「あ、親父。おはよう。あれ? これから仕事?」

「あぁ、今日も出勤さ。お前たちのために稼がないとな」


 親父――伊達一心(いっしん)は、我が家の大黒柱である。幼い頃、母親を亡くして以来、男手一つで俺と(みこと)を育ててくれた父親。

 裕福ではなかったが貧乏でもなかった。

 何不自由なく暮らしていたのが4年前。だが、俺が天恵を手に入れ、天才派遣所に登録されてから……それが崩れてしまった。

 俺の天恵は発現に至らず、それを何とかするために親父は奔走(ほんそう)した。

 天恵の成長を助けると言われた飲み物。能力を覚醒させると言われた飲み薬。内に眠る力を解放するという置物。

 天恵の使えない天才なんて、羽を奪われた鳥同様。

 藁にも縋る思いだったのだろう。何をしてもダメで、その中で、唯一望みがあったのが天才たちが集めた魔石で作られるアーティファクトだった。

 親父はとある天才(、、、、、)の話を聞き、それしかないと思ったという。

 だが、アーティファクト作成には金がかかる。

 親父は親戚や金融業者から金を集められるだけ集め、購入費用に当てた。

 がしかし、その天才がアーティファクトの作成費用に集めた金は別の事に使われていた。

 当然、アーティファクトが作られる訳もなく、天才が逮捕されて終わり。奴に返済能力はないのだから。

 莫大な借金をした伊達家は、一気に貧困を迎えた。


 親父は俺の天恵を発現させたかった訳ではない。

 天恵が発現しなければ近い将来、俺が死ぬ事がわかっていたから、俺を助けるために動いたのだ。

 だからこそ、俺も(みこと)も親父を責める事は出来なかった。出来る訳がなかった。

 泣きながら俺たちに謝罪する親父に、俺も(みこと)も何も言えなかった。

 逆に俺の方が申し訳なくなったくらいだ。

 親父の息子で後悔した事はない。

 それはきっと(みこと)も同じはずだ。


「ちょっとお父さん! お弁当忘れてるよ! あとこれ水筒ね!」

「おぉ、いつもありがとう。それじゃ行ってきます」


 ドアが閉まる音と共に、俺と(みこと)は親父の背を見送る。

 そして俺は(みこと)に言ったのだ。


「おい、親父にさっきのお金の事、言わなくていいのか?」

「言える訳ないじゃない」

「何で?」

「お兄ちゃんが死にそうになったって話、まだ出来てないんだから」


 なるほど、(みこと)のところで止めておいてくれたのか。


「ん……気遣わせて悪かった」

「別にいいって。でも、お兄ちゃん……ん~?」


 (みこと)が俺の顔を覗き込む。


「何か……雰囲気変わった? いつもより元気というか、何というか……何か、悩みでも解決したの?」


 流石妹である。

 俺の変化によく気付くもんだ。

『【剣豪】の天恵を手に入れた』とか言ったら驚くだろうな。

 ……まぁ、まだ言えないけど。


「あと、隠し事もしてるよね?」

「うぇ!?」


 唐突な質問に、思わず声がうわずってしまった。


「バレないと思った? 何年お兄ちゃんの妹やってると思ってるのよ」

「く……流石だ……」

「でも、話せないのもわかるよ」

「はい、よくご存知で」

「いつかちゃんと教えてくれるんでしょ?」


 そんな屈託のない表情で、(みこと)は俺に聞いてきた。なんとも、逞しい妹に育ったものだ。


「まぁ……落ち着いたら」

「今以上に落ち着く事ってあるの?」

「ご(もっと)もで。俺の考えがまとまったらって事で」

「ふ~ん……ま、いいか。それまでちゃんと待っててあげよう」

「ありがたき幸せ。あ、それよりお前、そろそろ学校行く時間じゃない?」

「あ、確かにもうこんな時間か。それじゃあお兄ちゃん、行ってくるねー」

「おう、気をつけて行ってこい」


 そう言って、(みこと)はバッグ片手に学校へと向かったのだった。


「う~ん……あれで15才か……なるほど、ファンクラブが出来るのも頷けるな……」


 そんな事を呟き、俺は大きな欠伸(あくび)をするのだった。

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