第103話 ◆大災害3
「「…………っ!」」
息を呑む第1班。
まるで、今、目の前で起きた事実を呑み込むかのようだ。
玖命は、仲間たちの援護により、ダンジョンボスのゴブリンジェネラルを倒した。
しかし、その攻撃力は皆を大いに驚かせたのだ。
「ま、まさか一撃とはな。水谷ですらこうはいかないぞ……」
魔法剣を纏い、【腕力】の天恵がAとなり、【拳聖】を得た玖命にとって、その攻撃力は【剣皇】水谷結莉を超えた。
水谷と成長を共にしてきた第1班の山王が言うのだ。その言葉に偽りなどあろうはずもなかった。
「よし……山王さん!」
「お、おう」
「交差点の向かい側にもう一つ門がありました! 次はあそこに行きましょう!」
「は、ははは、わかった! お前ら、呆けてるんじゃないぞ! しっかり伊達に続けっ!」
山王の活の下、茜、立華、ロベルトが我に返る。
ダンジョンボスの付近にはダンジョンの核が存在する。その核は大きな魔石であり、これを破壊するとダンジョンの破壊が始まる。
ダンジョンの破壊は、魔石が壊れてから30分程で開始する。
天才派遣所では、最低でも魔石破壊の20分以内にダンジョンから脱出する事を義務付けている。
でなければ、門の消失と共に、天才はこの世から消え去ってしまうのだ。
「よし、対面の門だ! ――っ!?」
玖命たちは、門の外に出た瞬間、その光景に言葉を失った。
ビルの倒壊、モンスター、そして市民の遺体。
門外で戦う天才も見受けられるものの、モンスターの数は増える一方。
何よりも最善の手段が門の破壊だとわかっていても、目の前で倒れゆく文明、死にゆく命にはどんな修羅場を潜ろうとも慣れるものではない。
玖命は唇を噛み締め、ぐっと堪えながら言った。
「……対面の門です。急ぎましょう!」
◇◆◇ ◆◇◆
「おいおい……何だこりゃ……」
「鳴神くん……ここはついこの前凶暴化の処理が終わり、安定してるという話だったはずだが……?」
【拳皇】鳴神翔の背で困り顔を浮かべる男――川奈宗頼。
門から紫電が走り、今にもモンスターパレードが起こりそうな気配に、翔の顔に焦りが見える。
「まさか、八王子の大災害に共鳴してやがんのか……?」
「鳴神くん、どうするね?」
「ま、八王子の救援は玖命が何とかすんだろ。あの嬢ちゃんもある程度モノになったし、俺様はここでまたリザードマンパラダイスだ、カカカカカッ!」
「あの嬢ちゃん?」
「お、社長、何そんなとこで突っ立ってんだ? 早く逃げねぇと細切れだゾ?」
「そ、そういう事は早く言って欲しいのだが……?」
「カカカカカッ! 水鉄砲で追わねーだけありがたく思いな!」
紫電が大きくなり、次第に発生の間隔も縮まってくる。
管理区域に起きた問題が鳴神翔に降りかかる。
しかし、それを知る者は誰もいない。
「カカカカカ! 玖命、こっちが終わったら助けに行ってやる! それまで、死ぬんじゃねぇぞ!? 死んだら……ぶっ殺す!」
直後、門からリザードマンが溢れ出す。
――だが、
「しゃぁああああっ!!!!」
漢の拳の前では、全てが肉塊へと変わってしまうのだ。
「鳴神くん! 毛皮毛皮! あと魔石!」
「うるせえ社長! 今そんな事言ってっとな!?」
「何かね!?」
「娘に嫌われちまうぞゴラァアア!!」
「んな!?」
翔のラッシュは、門から現れたリザードマンの顔を的確に捉えた。
門から足を出す事なく消失する命。【拳皇】となり、更に拳に磨きがかかった翔を止める者は、誰もいない。
◇◆◇ ◆◇◆
「伊達殿! 右でござる!」
「ロベルトさん、左です!」
「ワォ!?」
3つ目の門に入り、中でモンスターパレードに遭遇した玖命たち。
サハギンの中に、一回り大きく甲冑を纏ったサハギンナイトを確認した玖命は、真っ先に行動に移した。
(雑魚敵の中にBランクのサハギンナイト……! ボスはSランク以上の可能性が高い!)
「警戒厳! ボスとの接敵に備えてください!」
皆がサハギンナイトの存在に気付いたのは、その直後だった。
【天騎士】として長年前線に立ってきた山王十郎は、その玖命の嗅覚に驚きを見せた。
(このモンパレの中、隠れるように身を伏したサハギンナイトを見つけたのか……。チームワークを乱さず、指示も簡潔明瞭……Eランクだぞ? くくくく、高幸……伊達はウチで収まる器じゃないかもしれんぞ? ――っ!)
「聚強っ!!!!」
野太い声で掛けた【天騎士】によるヘイト集め。これにより多くのモンスターが、山王に向く。
「残りはこっちだっ!!」
直後、玖命のヘイト集めが発動する。
「何と!?」
立華は驚愕し、真っ二つに割れたモンスターの波を見た。
「フハハ、何とも面白い御仁か! はっ! アイスジャベリン!!」
山王が止めている波と、玖命が受けつつ捌いている波。【賢者】立華はその波の中心に、数多の氷の槍を降らせた。
こぼれたサハギンも――、
「これならすぐ対処出来るでござる!」
【頭目】ロベルト・郷田による疾風の如き斬撃が止める。
「スパークレイン!!」
「ちょっとちょっと、あの子遂に魔法まで使い始めたわよっ?」
【大聖女】茜真紀の言葉に、最早誰も動じなかった。
玖命は、仲間に対し、全力で応える事にしたのだ。
たとえこの後、追及が待っていようとも、今その武器を隠す事は出来ない。そう判断したのだ。
第1班の皆は、それが理解出来たからこそ、何も言わずにただその引き出しを見、感心したのだ。
「いいじゃないか、だが、水谷の帰る場所がなくなっちまうんじゃないか?」
「フレッシュな人材にも、これ程のコクがあるとは……日々勉強させられますねぇ」
「It’s amazing……!」
「平凡な男かと思ってたら、動けば動くだけ光る男ってのも珍しいわね。今までにいなかったタイプだわ……」
山王、立華、ロベルト、茜――全てのSSが、玖命の全てを受け入れ、チームの核として認めた瞬間だった。
越田に言われた水谷が抜けている穴を、見事に埋め、尚且つその存在感を見せつけた。
「ハァアアアッ!!」
心臓が一つ脈動すれば、玖命は五つの行動を起こした。
止まらぬ波に対し、加速する剣。
「邪魔なんだよっ!!」
八王子北側の門は……残り6ヶ所。