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モブは友達が欲しい 〜やり込んだゲームのぼっちキャラに転生したら、なぜか学院で孤高の英雄になってしまった〜  作者: 和宮 玄
第一章 入学試験編

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教員

「親父に、なんて説明すれば……。終わりだ……もう、終わりだ……」


 ニックが言葉を詰まらせ、頭を掻きむしる。周囲に汗を散らしながら、彼はよろりと立ち上がると拳を握った。


「全部、お前らのせいだッ! 俺を落とすために嵌めたんだろ!? 手を、組んで……」


 肩で息をするニックは、俺とビビアンカを見て喚く。


「畜生、畜生ッ。おかしいだろ……なあ? ギルドの雑魚だったはずのコイツに、なんで、俺が手も足も出ねえんだよ!? 不正に違いねえ……何か、仕掛けがあるはずだッ。ほら、吐けよ!!」


 半狂乱でニックが俺に近づき、胸ぐらを掴もうとしてくる。

 だが、ビビアンカの発した声が彼を止めた。


「それ以上は見逃せなくなるぞ」


 決して大きな声ではないが、背筋を凍らせると表現するだけでは足りないほどの圧を感じる。この場にいる誰もが息を止め、鼓動が一拍飛んだはずだ。


 当事者であるニックにおいては、顔を青白くさせ震え始めたほどだ。

 彼は指先を細かく揺らしながら手を下ろすと、態度を一変させた。


 人が変わったように黙り込み、静かに肩を上下させている。無言のまま一点を見つめ、自身の木剣を拾うと受験生の列に戻っていった。

 おそらくビビアンカの警告に、少しでも無駄な動きを見せれば死が待っていることを幻視したのだろう。


「……どうかしたか」

「いえ、なんでもありません」


 視線に気づいたビビアンカが目を向けてきたが、俺はゆっくりと首を振った。


「そうか。ならばウォルド、以上でお前の試験も終了だ。後ろへ下がれ」


 軽く一礼してから、ユキノたちがいる列へと戻る。


「ジント」


 横に並ぶと、ユキノが小声で呼んできた。

 横目で確認すると、彼女は良い結果だったと称賛するように微笑み、真剣な眼差しでこちらを見上げている。

 一方でユキノの奥にいるロイとナツミは、何やら難しい表情を浮かべ前を向いている。


 彼らの様子を見ていると、ちょうどユキノが次の試合に選ばれた。


「全員、気を入れ替えろ。自分の試合に集中するんだな」


 ビビアンカに言われ、ニックと俺がかき乱してしまった空気が凪いでいく。


 ユキノの対戦相手は知らない女子だったが、互いの実力が噛み合った良い試合を繰り広げた。最終的にはユキノの優勢で試合は終わり、その後ロイやナツミを含めた全員の試合が行われていく。


 ロイたちは俺とユキノほどモンスターを倒しレベルを上げてはいないが、鍛錬による弛まぬ努力の結果、現時点でもかなりの実力者だ。

 近しい技量の他の受験生と試合を組まれたが、やはり一枚上手で優勢を誇っていた。


「では、これを以て実技試験を終える。結果は五日後、広場にて掲示される。解散だ」


 最後の試合が終わるとビビアンカがそう言い、各々が帰路に就くことになる。


 試験に手応えを感じ周囲と話し出す者や、ほっと息を吐く者。

 また結果が奮わず肩を落とし早々に訓練所を出ていく者に分かれる。その最後尾に、あれから列の端で魂が抜けたように放心状態になっていたニックの姿もあった。

 彼は茫然自失の様子で外へ出て行っている。


 本来は推薦という形で入学する予定だったニックが、巡り巡って合格を掴み損ねてしまった。この試験の間に決定づけられることとなったゲームからの変化に、俺にも一端を担った者として思うところがないわけではない。


 しかし、すでに過去となったことは変えられないのだ。

 今は俺とユキノが学院生になれることを願っておこう。


「わたしたちも帰ろうか」

「そうだな。せっかくならロイたちと──」


 やり切ったという達成感が滲み出ているユキノに声をかけられ、知り合いとなったロイたちと学院の外まで一緒に行かないか提案しようとする。

 俺が視線を向けると、最後まで言い切る前にナツミが一歩こちらへ近づいてきた。


「ジント。あたし、あなたの試合を見てたら体を動かしたくなってきたわ。このままじゃ一番の探索者にはなれないから、気合を入れないと」


 それだけ言うと、すぐに彼女は背を向ける。


「ジントとも、ユキノとも、切磋琢磨できるライバルになれるように頑張るから。また会いましょ!」


 そして、元気よく走り去っていってしまった。

 残されたロイも腕を組むと、ナツミの後ろ姿を見てからニシシと笑った。


「あーすまないな。あいつがやってやるって言うなら、オレも頑張らないとな。置いていかれて堪るもんか。オレも良きライバルになれるように頑張るぜ」


 じゃあまたな、と手をあげると彼も駆け足で去って行く。


「ライバルだってよ、ジント。あの二人と競えたら楽しそうね」

「俺は普通に話して、友人にでもなりたかったんだがな……」

「ふふ、別にいいじゃない。わたしがいるんだから、ナツミたちに負けないように一緒に頑張ろう?」


 もしかしたらロイとは男同士、仲良くなれるかもしれない。そんな期待を抱いていたため、ナツミに続いてのライバル宣言は正直残念なものがある。

 次の機会にでも親交を深められることを期待しておくか。


 俺たちも帰ろうとしていると、背後から声がかかった。


「ウォルド、少しいいか」


 ビビアンカが、こっちへ来いと手招いている。


「ユキノ、先に行っておいてくれるか?」

「うん。それじゃあ、すぐ外で待ってるから」


 俺だけを呼んでいるようなので念のため一人でビビアンカの下へ行く。

 何の話かは大体予想がつく。おそらく、あのことについてだろう。


「どうかされましたか?」

「……筆記試験の結果を見させてもらった。全問正解、素晴らしい解答だった」


 ユキノが十分に離れ、周囲に誰もいなくなってから彼女は俺を見た。やはり筆記試験についてだったか。


「ありがとうございます。ですが……まだ点数は開示されてはいませんが、教えていただいてもよろしいのですか」

「構わんさ。すでに筆記の通過はしているんだ。それにあれは実技よりも比重が低く設定されているからな。点数を言ったところで責める奴はいないだろう」

「なるほど。でしたら素直に喜ばせていただきます」


 ビビアンカがフッと僅かに笑う。


「面白い奴だな。頭の出来が良いようだが、それだけじゃない。魔力や剣の腕も確かだ」


 彼女は試験の間も持っていたバインダーに目を落とすと、しみじみと言った。


「剣を振るフォームについては、理想形に近いと感じたほどだ。……私自身その理想系とやらが何なのか、なぜそう感じたのかはわからないがな。なにせよ、お前には期待できそうだ」


 眉を顰め、自分の発言にすら疑問を抱きながら、ビビアンカは俺の肩を叩く。


「誰かさんにも推薦入学などに頼らず、その理想形の一端を垣間見せてほしかったのだが……手を煩わせたな」

「彼のことですか」

「ああ。ハーパーは自分の力を過信しているようだが、あれでは潤沢な魔力があれども第三学院での成長は見込めないだろう。まったく残念だ」


 本心から残念そうな気配に、意外性を覚える。

 ただ入学を拒否したいわけではなく、ニックが何か──もしもの可能性を見せてくれることを、彼女は期待していたようだ。


「では、また会おう」


 最後にそう言って、ビビアンカは測定器などの状態を確認しに戻る。

 数秒間その姿から目を外せずにいたが、しばらくしてから俺は身を翻し、出口へと向かうことにした。


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