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モブは友達が欲しい 〜やり込んだゲームのぼっちキャラに転生したら、なぜか学院で孤高の英雄になってしまった〜  作者: 和宮 玄
第一章 入学試験編

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出願

 水を纏った細剣がフレイムウルフを貫き、光の粒子として爆散させる。

 最初に戦った時は俺と二人で協力し、湖を利用した上で辛勝した相手を単独で撃破したユキノは、笑顔の花を咲かせた。


 新たな相棒である細剣──正式名称ヴァーダン・シリーズ【レイピアエア3000】を鞘に戻し、魔石を拾ってからこちらに駆け寄って来る。


「やったよ、ジント! 今の、しっかり見てた?」

「ああ。完璧だったな」

「えへへ。魔力も増えたし、この剣も軽くてすごーく魔力伝導がいいから戦いやすくなったからね」


 照れくさそうにしながら、ユキノは腰の鞘に手を重ねる。


「体調は変わらず平気か?」

「もう、全く問題ないってずっと言ってるじゃない。そろそろ森を出て休憩にするよ」


 俺が何度目かの体調確認をすると、彼女は数歩先に進んだ。

 二人で火と水の森を抜け、草原へ昼休憩を取りに行く。


 ユキノの回復から数日、休養を挟み彼女は探索者活動に復帰した。

 初めは軽いリハビリをして、今後も鎧アリを中心に倒していくつもりだったが、すぐにその計画は変更するに至った。


 生まれ持っていた本来の魔力を自分の物とし、ユキノの魔力総量が爆発的に伸びたのだ。同時に、戦闘に対する才能も向上しているような気がする。

 もしかすると魔力の量が運動神経などに影響を及ぼしているのかも知れない。


 一新した武器の性能もあり、彼女は【剣魔術】の連発を可能とした。

 結果的に火力が増して鎧アリを簡単に倒し、今日ついにフレイムウルフの単独討伐を達成したのだった。


 先日確認したところ、俺もスティルネスナイトとの戦いを経て一気にレベルが9にまで上がっていた。

 優れた武器を手に入れ、俺たちは順調に成長していっている。

 飛躍的に実力を伸ばしたユキノも、すぐにレベル5に辿り着けるはずだ。


 休憩中、収入が増えても結局は諸々の手軽さを優先し購入している携帯食バーを食べながら、俺はユキノに切り出した。


「ずっと考えていたんだが……俺も学院の試験を受けることにしたよ。返事が遅くなってすまなかったな」

「え……それ、本当?」


 隣で目を見張っているユキノに、頷きで答える。


「良かったあ、これで二人で入学できるかもしれないね。でもジント、何か考えでも変わったの? あんまり返事を聞かせてくれないから、わたし焦ってたくらいだったのに」


 ユキノは胸の前で両手を重ね喜んでから、不思議そうに尋ねてきた。

 前向きに検討するとは言っていたが、なかなか返事がなく気を揉ませてしまっていたらしい。


「一人で戦っていて、自分の弱さを感じてな。まだまだ強くなるには、やっぱり学院での経験が必要だと思ったんだ」

「ジントでも、そんなこと思うんだ」

「それに、自分の人生だろ? 学院に行きたいって話してくれた時にユキノが言っていたように、全力で生きて、上を目指してもいいかもしれないって共感する部分があってな」


 あとは覚悟の問題だった。

 ユキノが入学を目指しているのだから、未来が変わってしまうかどうかは考えても無駄だ。それにそもそも、本当にメインストーリーと同じように事が進む保証はどこにもない。


 俺は自分たちが生きていき、この世界を歩むために力が欲しかった。

 ならばいっそ、今後の変化は織り込み済みで学院に行くという手もあるだろう。


 探索者として都市の外に出て、戦う道を自ら選ぶのは──単なる愚かな好奇心からなのか。自分の本音さえ不確かだったが、やはりこの道を進まずにはいられなかった。


「じゃあ、二人でちゃんと立派な探索者にならないとね。まずは入学試験……の前に、ギルドで出願しないと。ジントのこと待ってたんだから、今日の帰りに一緒に出そうよ」


 深くで彷徨っていた思考を、隣から聞こえる声が引き上げてくれる。


 俺たちは互いに数えるほどしか知り合いがいない。

 学院に行けば、ゲームをプレイしていた時に好きだったキャラたちと実際に出会い、友達になったりすることもあるのだろうか。

 今はもう、それも悪くはないなと前向きに捉える事ができた。


 午後も活動を続け、俺たちは日が暮れる前に街へ戻ることにした。


 十分な収入と十分な経験値を稼いだと判断したからだ。最近は今日のようにギルドが混みだす前に買取を済ませ、家に帰ることが多くなってきていた。


 買取所で魔石などを職員に渡す。

 すると視線を感じ、見ると端にある休憩所にこちらを睨むニックの姿があった。またか……と頭を抱えたくなりながらも、反応せずに視界から外す。


 俺が五〇〇万Gのために活動していた時から、今もなおだ。

 復帰後のユキノの活躍が目覚ましいこともあり、連日フレイムウルフを含む魔石を俺たちが持ち帰っているからなのか。

 いつも居合わせると、ニックは不機嫌な様子で俺たちを睨んでくる。


 何も言ってくることはなく、ユキノも気づいていないようなので俺は無視することにしていた。


 買取を終え硬貨を受け取ると、ユキノが職員に訊いた。


「あの、学院の出願をしたいんですが……」

「まあ、学院に! 今は空いていますし、ここで受け付けますよ」

「ありがとうございます。ではわたしと彼の、二人分でお願いします。……あっ、第三探索学院希望です」


 職員はしばらく待つように言うと、願書を取りに奥へ消えていった。


「なんか、変に緊張するね」


 ユキノが待っている間、そわそわとしながらそう言った時だった。


「おい! てめえら、どういうつもりだ!」


 足音を響かせながら、休憩所にいたニックが詰め寄って来たのだった。

 俺はポカンとした様子のユキノの前に体を滑り込ませ、ニックと対峙する。


「どうした。何か用か?」

「ちっ。だからどういうつもりだって言ってんだろ!? てめえらが学院を受けるだと? 雑魚がちっと腕を上げたところで、調子に乗ってんじゃねえぞ」


 ニックは激しく唾を飛ばし、最後に明確な敵意を感じる嘲笑を浮かべる。

 どうやら成果を上げ気に入らなく思っていた俺たちが、学院を受けると聞き火をつけてしまったようだ。


 たしか学院への合格は、街でも噂になるほどのこと。

 コネで得た推薦入学とはいえ、他に合格者が出て自分への注目が薄まる事を危惧しているのだろうか。


「ちょっと、何よあなた……!」


 俺を押しのけてユキノが前に出ようとする。

 少ない数ではあるが、周囲では他の探索者たちが何事かと注視している。


 腕を横に伸ばして俺がユキノを制すと、ニックは周りには聞こえないような小さな声量で凄みをきかせてきた。


「どうせ落ちるんだからよ、大人しくしとけ。見込みがあんだったら俺が装備でも支援してやるからさ。じゃねえと、この街で生きていけなくなるぞ。な? 身の程を知れよ、マジで」

「なんで、そんなこと言われないといけないのよ!」


 腹を立てたユキノが、冷たい目でニックを見つめ声を大きくする。


 その時、俺は彼女が持つ膨大な魔力の流れが激しくなったのを感じた。他者が感じ取れるほどの量の魔力が、怒りにより昂ったのだ。


 遅れて、ニックや周囲にまで体外に噴出した魔力が押し寄せる。


「ひぃっ。な、こいつ!?」


 後退ったニックが腰を抜かす。


「ユキノ! 落ち着け」


 すぐさま俺が鋭い声で呼びかけると、ユキノはハッと我に返り、魔力は急激に落ち着いていった。


「え、違うの……なんで、わたし……」

「気にするな」


 感情のまま魔力をコントロールできなくなり、ショックを受けるユキノに声をかける。ざわざわとした空気を感じたのか、願書を取りに行っていた職員が足早に戻って来た。


「どうかされましたかっ?」


 その質問にいち早く答えたのは、腰を抜かしたままのニックだった。


「こ、この女が俺に向かって【剣魔術】を使おうとしたんだ! 周りの奴らも魔力を感じたはずだ。声をかけたら頭に血を上らせて、俺を殺そうと!」

「──彼女は剣を抜いていないだろう。これで、どうやって【剣魔術】を使うと言うんだ?」


 俺は職員に説明を求められる前に反論する。

 周りで固唾を呑んでいる連中も、ユキノが剣に手もかけていないことを確認し「たしかに」と、一瞬だけニックの主張に流れそうになった空気が変わる。


「なっ、それは……」

「保有する魔力量が多い者は、時に感情が昂ると魔力が体外へ溢れ出ることがあるんだ。今回のように、謂れのない恫喝に腹が立ったりするとかな」

「そ、そんなこと聞いたことないぞ! 適当な嘘で誤魔化せるとでも思ってんのか!? なあ、他の奴らも知らねえだろっ?」


 ニックは立ち上がると、周囲に向かって叫ぶ。


「この女が間違いなく俺を斬ろうとしてきたんだ。何度も酒を奢った事がある俺とコイツら、どっちを信じ──」


 醜態を晒す彼に、冷めた視線が集まる。

 言葉を全て言い終える前に、ツカツカという足音とともに一人の女性が近づいてきた。


「おう、あんたは俺のこと信じてくれるのか?」

「いいや、お前を信じることはできない。逆だ。この少年が言った、魔力総量が多い者の特徴に嘘はないと証言しにきたのだよ」

「……は?」


 ニックが青筋を立てながら睨むが、女性はどこ吹く風と受け流している。


 俺は深青にも見える長い黒髪をなびかせる女性を前にして、なぜ彼女がここにいるのかと呆気に取られた。

 なぜなら、この人は──


「間違いはない。第三探索者学院の教員である私、ビビアンカ・スミスが言っているんだ」


 名乗った女性は、ニヤリとほのかに笑う。

 彼女はゲームにおいて、主人公たちの担任教師となる人物だった。


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