第6話 奴隷
「王女、ダメです」
「お願い!ノーチェ!」
「だめ」
懇願する私に無表情で言い放つノーチェ。
なんでこうなったかと言うと、私は1度も王宮から出たことがなかったのだ。そしてたまたま王宮に来ていた商人から王都や他の街の話を聞いて外に出たくなってしまった。
曲がりなりにも次期女王、そんな事認められるはずは無いからこっそり行こうとしたのだが__
「ダメ」
っとノーチェに止められてしまったのだ。
私が自室に居る以外はほぼずっと付きっきりのノーチェ、まぁ撒けるはずもなかった。
「おねがーい!」という上目遣い攻撃を使っても。
「…ダメです」っと言われてしまう。
「いいですか、王女。貴方は次期女王で国を見てみたいという気持ちはわかりますが何かあってからじゃ遅いのです。」
「うっ…」
そんな面と向かって正論を言われると…
「なら僕と行きましょう」
「アルデン!」
ノーチェとそういう話をしていると、アルデンが現れた。
たまたま話を聞いていたらしい
「僕はこう見えて元は冒険者として各地を巡っていました。王女様をお守りする魔法も張れますよ。」
「だが、女王陛下が許可なさるとは思えない」
ノーチェの言葉にアルデンはなんてことも無いようにニコリと笑う。
「あの方々ならきっと、王女様が言えば心良く許可なさると思いますよ」
そういったアルデンに私とノーチェは顔を見合せた。
○王の間
「んまぁ!仕方ないわねぇ、リリーがそういうのであれば」
「だけどマリエット…リリーにはまだ早いんじゃ」
「お黙りなさい、あなた。」
「はい」
っと言うデジャブを感じるセリフ。
早速母と父に上目遣い攻撃で頼んだら二言返事でOKと言われたのだ。
「ですが、堂々と王女として出歩くと街の人が何事かと騒ぎになりますわ、ですのでお忍びで行きなさい、アルデン、ノーチェしっかりリリーを護るのですよ」
「「はい、女王陛下の名のもとに」」
っと膝をついて頭を下げる2人、本当に許可されちゃった。
「きっとリリーのためになるわ」
○自室
「みて、似合う?どう?」
「はい、お似合いですわリリアン様」
幼い頃から私の侍女であるミア。私が目覚めた時花瓶を落としたのは彼女だ。
彼女は伯爵家令嬢で私にマナーを教えてくれるし令嬢なだけあって噂話とかも良く耳に入ってくる。
街にいても浮かない服に着替えさせてもらい。
珍しい髪と瞳はアルデンの魔法によって変えられる。
「わぁ!これが私?」
「麗しゅうございます王女様」
っと私の姿を見てニコリと笑うアルデン、そういうアルデンも有名で目を集めてしまうので耳は人間みたいに、また私の髪色と一緒で普通の人間に見える姿に変わっていた。
「王女様、馬車の用意ができています」
そう私を呼びに来たノーチェ。彼もまた普通の服を着ていて、そう、冒険者の初期装備みたいだ。まぁ騎士の格好は目立つよね
___________
○王都
シルバーリーフ王国
王宮の下に広がる大きな大きな都市
《王都 レイク》
巨大な商業ギルドや冒険者ギルドもあり、また人も盛んで大大大都会である。
「わぁ…!」
「王女様、このように人が多いので手を繋がせてもらいますね、それと怪しまれるのでリリアンと呼ばせていただいても?」
っとアルデンに手を取られる
「うん!もちろん、ノーチェもリリアンでいいわよ」
「いや、でも…」
っとやはり硬いノーチェ。
アルデンと繋いでいない方の手でノーチェの手を握る
「私のためよ!ノーチェ!じゃぁ行こうか、アルデン、ノーチェ!」
「はい、リリアン」
「…はい、リ…リリアン」
○市場
すごい!ゲームてみたアイテムとかちゃんと売ってる!!しかも配置もほぼ一緒。ゲームていけなかった透明な壁の向こうとかこうなってるのか…っとやはり現実とゲームは違うところがある。
「ふふ、リリアン。そんなに嬉しいのですか?」
「えっ?分かる?」
アルデンが私を微笑ましそうに見るから少し恥ずかしい、そんなはしゃいでいただろうか
「魔力ですよ、手を繋いでいるからでしょうか。嬉しい、楽しいというような流れを感じます」
「えっ、魔力ってそんな事できるの?」
「そうですね、魔力が無意識に流れてしまう発展途上の子供によくある事です。ふふ」
っと、少し恥ずかしい。
「ノーチェも魔法使えるよね?どんな適性があるの?」
「私は火と風の魔法を得意としています王女さ…リリアン」
「いいなぁ火!私適性ないんだよねぇ」
「複数の属性の適性を持つリリアンのほうが凄いですよ」
なんて話していると。
「ねぇ、アルデン、あれ…」
一瞬通った路地裏を見て足を止めた。
「子供…?」
ボロボロの服を着た子供が路地裏に倒れていた。
「ノーチェ、リリアンを頼みます」
アルデンは私の手を離すと路地裏に向かう。
「ノーチェ、あの子大丈夫かな」
「…」ノーチェは険しい顔をして何も言わなかった。
「うっ…なんだお前」
呻き声を上げた子供が顔を上げる。
「耳?」
子供の頭から耳が飛び出る。狼のような…耳
「獣人だ」
確か、家庭教師の話だと、獣人族は人間ともエルフ族とも友好的な種族で、身体能力が高く冒険者に所属する獣人族が多いのだとか。
シャラ…っと何か鎖のような音が聞こえてハッとする。
首元に、鎖の繋がった首輪が見えた。
私は歩いて近づくとノーチェに手を引っ張られる
「いけません、危険です」
「大丈夫だよ、アルデンに防御の魔法をかけてもらってるし」
「…」渋々といった形でノーチェが足を進める。
「奴隷…ですね」
アルデンが子供の鎖を指で触れる
「奴隷…」
「シルバーリーフ王国は奴隷の所有を法で禁止しています。」
「違法な奴隷がこの国に…?」
アルデンは口を開いて、また閉じる。何か言おうとしてるが躊躇しているようだ
「いずれはこの国を納めるのよ?知識はあった方がいいと思うの、教えて!アルデン」
「…分かりました。」
アルデンが話してくれたのは、この世界の奴隷問題。
盗賊や裏の組織が珍しい種族や珍しい見た目のものを売買して働かせたり観賞用にしたり。
特別な首輪を付けて主人に逆らえないようにする魔法をかけられているという。
シルバーリーフ王国では初代から奴隷は反対派として厳しく取り締まってきた。
貴族ももちろんこの奴隷の所有や売買に関与する、または持ち込むことですら違法とされる。
でも、儲かるからかこうやって隠れて奴隷売買が横行しているらしい。
「そう…教えてくれてありがとう。ねぇアルデン、この首輪を外すにはどうすればいいの?」
「そうですね、首輪の持ち主から鍵を受け取るか、首輪の持ち主が所有権を放棄する、死亡するなどいずれにしても首輪の持ち主をどうにかしなければなりません」
「斬ったり取ったり出来ないの?」
「はい、この首輪は言わば呪いです。」
「呪い…」
「この首輪は魂との契約。首輪を無理に外せば首輪をつけているものの魂を傷つけます。例え魔王でも勇者でも聖女だとしても外すことは出来ないのです」
「そう…」
痛々しい。子供はゼェっと辛そうな息遣いをしていて、その体は鞭で打ったように傷だらけで血まみれで…
前世の___私のよう
そして辛いはずなのに『たすけて』と言わない子供。
でもその目は知ってる、心の中で必死に手を伸ばして助けを待っているんだ。
「私!絶対首輪の持ち主探す!だから貴方の名前教えて!」
「なっ、王女!」
っと、私を止めるノーチェ
「王女…?王女だって?」
っと私を睨みつける。
「そう!絶対!絶対助ける!教えて欲しい、あなたの名前と、貴方に首輪をつけた奴を!」
「まったく…」
そう言ってアルデンは私をみてほほ笑みを浮かべていた。