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MISSING TOWN  作者: 宇野鯨
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第一話「町ごと異世界に来ました」

 

 ──いつかはこんな街出て、東京のでかい会社で成功するんだ。

 俺の名前は黒崎哲也。24歳。

 そうは言ったものの、東京に行くのは「東京へ行くこと」が目標になっている気がして、地方の大学へ進学した。「自分はもしかしてすごいことに気づいたのでは?」と自分を褒めたが4年になって何も主張していないことを気にかけた親が、実家から5分の婦人服屋に応募。

 まだ6月の出来事で、卒論すら書いていないのに進路が決まってしまった。

 ちなみにこの婦人服屋「ブティック FUJIKO」に勤めて何やかんや2年目になる。



「普通、若い子はすぐ出ていっちゃうんだけどね〜〜」

「あ〜!あはは。そうなんですね」


 おい。母数が足らねえだろ。

 俺のほかに誰かいたかよ。適当なこと言ってねえか?



「不満そうね。いいのよ。アタシなんて。定年間近なんだから」

「いいえ、そんなこと……」



 社長のちづ子はたまに勘が鋭い。

 その上ヒステリックになる。



「まあいいわ。あ、そうだ!テッちゃん!」

「は、はい。声でか……」

「今日は当たり付きのアイスを買ってみなさい。いいことあるわよ」



 その日、僕は言いつけを守って風呂上がりにアイスを食べようとしたら、親父が俺の部屋に尻を突き出してまでオナラをしに来た。




 寝る前、俺は考えていた。

 このままこの町で暮らして、ここに骨を埋めるのだろうか。

 同級生は皆んな上京したり、スーツに袖を通しているか専業主婦だ。

 俺はというと、あの婦人服屋でサルエルパンツとクロップドパンツを間違えたりしている。


 哲也はベッドで仰向けになりながら頭を抱えた。



「はあ。本当にこんなんでいいのかな…」



 コンコン。

 その時、俺の部屋の扉を叩く音が聞こえた。時計を見る。もう夜の11時だった。



「お兄?」


「ん。なんだ」



 妹の寧々(ねね)だ。

 俺とは7歳離れていて女子高生真っ只中のお年頃だ。だいたいこの年齢になるとお兄ちゃんはガードレールのように()()()()()()()()()()()()()()()になるはずだが、寧々は反抗期もなく、こんな体たらくのことをちゃんとお兄ちゃん扱いしてしまっている。



「髪切ったの。どう?」

「どうって」



 似合ってるだろ、俺の妹だからな。

 なんかボブにしたことを報告してくれたのだが……なんだア、可愛いじゃねえか。

 誰にも言っていないが俺はシスコンと言われてもおかしくないくらいおかしいのかもしれない。

 おお本当に可愛いな。まじで。

 俺は妹の顔と全身をまじまじと二往復くらい見つめた。


「ん、見すぎだよ」

「あ、わり。まあ、いいんじゃねえか?悪くねえよ」

「ほんと!えへへ」



 あー!!!!かわい!!!!

 ここでハッとした。クソが。おお……そういうことなのか、寧々よ。

 まあお年頃だし、仕方ないとは思うが。うーんなんていうか。複雑な気持ちだ。

 クソオオオオオオオ

 ゴクリ。俺は平静を装って聞いてみた。



「彼氏でも、ゲホ!!!できたのか?」



 あぶねえムセた。ジャブのはずが。

 寧々は微笑みながら困惑した。



「で、できてないよ!どうして?」

「あ。いや。お前ももう歳だし」



 歳……?

 寧々の目つきが鋭くなった。


「そういうお兄こそどうなの?いるの?」

「あ、いや、それは聞くな。ほんとに、ごめん」


「え、いるの…?嘘でしょ」



 そう言って寧々は部屋を出ていってしまった。

 違うんだ寧々。そこはお兄ちゃんの一番弱いところなんだ。

 居ないなんて情けないだろうお兄ちゃんとして……。


 ▽

 △



 朝起きると哲也は、まだ外が暗いことに気づいた。

 デジタル時計を見ると、時間は午前の7時を差している。

 婦人服は10時開店だった。



「お、遅刻……じゃねえか。5分だもんな、ここから」



 にしても暗いな。

 そう思い、哲也はカーテンを開ける──



『え?』



 窓のすぐ目の前にあったのは、よくハワイで見るような、ヤシの木のようだった。(文法)

 でも何となく違う気がする。それに昨日までこんな日照権を無視した木は生えていなかっった。


 これって──町のイベント!?

 人口減少に頭を抱えすぎた町長が夜通しオレんちの前に木を植えたのか!?

 んなアホな。

 しかもよく見ると、それは俺の家だけではなかった。

 見渡す限り、どこの家にもその木は乱雑に生えていて、何なら道路には毒々しい植物が、ゴミは散乱して、とにかくハロウィンの次の日みたいに荒れ放題でいる。



「これじゃあまるで──」


 ──昨日と世界が違う、と言いかけたのを哲也は喉元で抑えた。


 俺は階段を駆け降りた。

 リビングに戻ると、お袋と親父と、寧々と、ポメラニアンのマロンがテーブルを囲んでいた。

 テーブルにはありったけの水、缶詰なんかが置いてある。




「哲也、有休、取ったか?」



 俺は親父の問いかけに対して、考え込んでしまった。

 ──有休、あんの?



「お兄。おはよ」

「お、おはよう」


 寧々は元気がなさそうだった。うーんかわいい。



「これ、どうなってるんだ?」


「さあな。でも何かは起こってるみたいだ。多分、テレビも携帯も繋がらないだろう」


「そんな……」



 そう言って俺はテレビのリモコンをボタンを押す。

 少しして42インチの黒い板からは、朝のニュースが映し出された。



「いや点くんかい」


 試せよ。



「なに!?」

「う、うそ!?あらほんと!韓国ドラマも観れるわ!」

「ワン!」


 お母さんはそう言って韓国ドラマを観始めた。

 おい。今することじゃないだろ。

 寧々は俺の顔を見て、目を輝かせていた。



「お兄、魔法使い?」

「ええ、いや……」



 親父はテレビの音量を20くらいまで上げていた。


『──ヘリの映像です。本日××時の早朝、激しい揺れとともに五分刈ごぶがり村が消滅した模様です。専門家によると地盤沈下もしくはプレートの滑落によって』



「「え?」」



 テレビの画面には俺たちが住んでいる場所をヘリが映している。

 ただ、その中央、俺たちのある町だけが綺麗に切り取られ、底なしの大穴になっていた。

 間違いなく、画面では“自分たちの町だけ”が消滅していた。

 ──あと「町」だぞ、女子アナ!!



「これはきっと悪い夢だろ、なあそうだよな──」


「ハハハ!!お父さんテレビ出ちゃったよ!やったあ有名人だ!哲也!寧々!今日はすき焼きだー!!」

「うーん電波悪いわね」

「あ、お兄ここデリバリーできるみたい!うちめっちゃ気になる」

「ワン!」



「……散歩行ってくる」










 ▽

 △


 街は早起きの老人たちが散乱したゴミを集めていた。

 何でもっと焦らないんだ、俺だけなのかこんなに焦ってるの。


 道路には綺麗に亀裂が入っていて、電柱も傾いている。

 そして遠くではファクシミリが出てくる時のような聞いたこともない鳥の鳴き声すら聞こえている。俺はマロンが道に生えた毒々しい草を食べそうになったので途中から抱えて散歩することにした。


 いやマロン、重……。



「あらあ黒崎さん家のテッちゃんじゃない〜!元気してた?」

「あ、いや、はい、普通に元気です」



 えー!!!?

 世間話始まんの?!!



「若いんだからいっぱい食べなね!ちづ子さんとこ働いてるんだって?多分この地震だからお店大変だろうね。手伝ってあげたら」


「……そのつもりです、ははは」



 え。待ってみんなこれ地震だと思ってんの?なんか変な木とかいっぱい生えてるよ!?

 空とかさ、ホラ、紫色だよ!!?ってなんかデカイ星いっぱい浮かんでる!!!!ねえみんな!!!プレ○ターズみたいになってるってホラ!!!!



 ▽

 △



「あらテッちゃん!いいのに早く来なくても〜」



「いや、なんかもう、疲れちゃって」



 結局俺はいつもより早く「ブティック FUJIKO」の看板の前に立っていた。

 毎回思うけど、アンタちづ子だろ。ルパン世代だったのかよ。



「あら。風邪ひいたの?」



「いや…」



「ならよかった。今日もいつも通り営業するからね。頑張らなくちゃ」




 えっっっっっ!!!?!!営業すんの!!!?



 どうやら俺は異世界に紛れ込んでしまったらしい。

 そして、それに気づいてるのももしかしたら、俺だけなのかもしれない。







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