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第二話 ミニマム女将

室内に入ると、広いエントランスが私たちを迎えた。清潔感のある赤いカーペットに、高級感のあるイスやテーブル。旅館と言うよりも、なんだかホテルみたいだ。そして、旅館独特のにおい。さっきまでの磯臭さとは違って心地よい。


天井のシャンデリアは、きらびやかながらも主張しすぎることなく、優しい光を放っている。夜になれば、もっと美しく映えるに違いない。


「戻りました」


静かなフロアに赤座さんのはっきりとした声が響く。すると、


「お疲れ様です。そちらが?」


カウンターの女性がこちらを見た。私はすかさず挨拶する。


「相生です。よろしくお願いします」


「私は江藤えとう、窓口の担当よ。よろしくね」


江藤さんからは頼れるお姉さんという印象を受けた。細い黒縁の眼鏡をかけている。赤座さんといい江藤さんといい、皆さんかっこよくて弱る。


一礼の後、私は赤座さんに連れられて、普段は入れない"Staff Only"のエリアに向かった。


「裏側に入るのって、初めてです」


おずおずと廊下に入りながら話すと、赤座さんが答えた。


「あんまり緊張しすぎないようにね」


「はい…」


扉を境に、赤座さんの声の雰囲気が少し変わった気がした。ふと気づくと、私の手には汗がにじんでいた。この人は心が読めるのだろうか、さらに続ける。


「私たちは、インターン生も正社員も同等に扱う。お客様ではない、ということを理解しておくようにね」


心拍数が上がったのが、自分でもわかった。これから踏み出すのだ。夢への第1歩を。


「なんてね、そんなに思い詰めたような顔しないで。私たちが楽しく仕事をしないと、お客様にもご宿泊をお楽しみいただけない。これも忘れないで」


そう言いながら、驚かせてごめんね、というふうに赤座さんは笑った。


「さあ、みんなが待ってるよ」


私がおどおどしているうちに、会議室と書かれた場所についた。みんな、というのは女将?ほかのインターン生?


赤座さんが扉をノックすると、コンコンと軽い音がなった。


「失礼します」


後に続いて、私も入室。そこで私が見たのは、着物をきた小学生くらいの女の子だった。




「あなたが最後のインターン生ですか?」


女の子が高い声で私に話しかけてきた。何者なのだろう、とっても堂々とした様子である。


後ろを見やると、私と同じような歳の男の人2人、女の人1人。みんな、とは彼らも含めての言葉だろうか。全員スーツを着て準備万端の様子だ。女の子が続ける。


「あなたも早く着替えるです。インターンの説明を始めるです」


「あ、はい。わかりました」


初対面の大学生にもグイグイくるなぁ、この子。ていうか、説明するのって赤座さんだよね?きっと。


とりあえず、私もほかの3人と同様、スーツに着替える必要がある。すると、


「私が案内するです。ついてくるです」


女の子が更衣室に案内してくれるようだ。スタスタと廊下に出て歩き出す小さな背中を追う。


どうしても気になるので、私は聞かずに居られない。


「あの、あなたは」


「人に聞く前に、自己紹介してはどうですか?」


そ、そういえば私も名乗ってなかったな。


「相生一花です。大学2年生で…」


「私が小学生に見えるですか?」


「あ、え、えっと」


完全にペースを握られる。正直見える…っていうか、小学生じゃないのか。


「私はこの旅館の女将、民川たみかわなつめです。あなたの言いたいことは顔から透けてくるようです。お客様に対してもそんなのでは、失礼ですので注意するです」


お、女将さん!?それならば確かに失礼極まりない。しかもそんなに顔に出てたかな…あわてて頭を下げる。


「た、大変失礼しました…」


「私と初めましての人間はみんな小学生に見えると言うです。慣れてるのでまあいいです」


ババアと言われるよりマシです、と女将さんは続けた。


身長、童顔、ぜっぺ…今のなし。


とりあえず、どれをとっても(事実を告げられても)小学生にしか見えない。世の中にはこんな人もいるんだなぁと知った。ところで、女将さん何歳なんだろ。


ホントの歳が分かるのはまた後日の話である。そんな会話のうちに更衣室に到着。


「すぐ着替えて戻るです」


案内された個室で、カーテンを閉めて着替える。芸能人の楽屋みたいな雰囲気。どうやら従業員用の仮眠部屋でもあるとのこと。


ササッと着替えて戻らねば。

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