夢を見ていた
夢を見ていた。
それは9個の頭を持つ龍が、一つの街を破壊する夢。
立派な王城が、そして整えられた街並みがあるその街を。
それら全てを跡形もなく壊し尽くす。
九つの龍頭が王城を破壊し、騎士を殲滅していく。
その龍が通った後は何も残らず。そしてその破壊された土地から様々な植物が目を出し、動物が集まり、人が暮らし始める。
それは始まりの『龍』
九つの頭を持つ龍神。
その名を
『ゼノサーガ』
◆
目を開けるとそこは見慣れた孤児院の一室だった。
至る所に包帯が巻かれ、俺はベッドに横になっていた。
「なんでここに…?」
そう独り言を呟いた時だった。
ガチャリ
扉が開かれたと同時に何が俺に突っ込んでくる。
あぁ、いつもの匂い。いつもの感触。
「バカっ!!バカバカ!!」
涙ぐむリーシアはそう叫ぶと俺の胸をポカポカと叩く。
「冒険者協会の人から聞いた時、心臓が止まるかと思ったんだからねっ!!」
その後、落ち着いたリーシアから話を聞くと、どうやら冒険者協会のエリックから連絡が入り、孤児院に担ぎ込まれたらしい。
なんでもダンジョンの入り口で血まみれになって倒れてたとか……?
エリックの配慮できっとここに運んで貰ったんだろうな……
「目を覚ましたら、冒険者協会に顔を出して欲しいって言ってたわ」
リーシアの一言に俺は少し憂鬱になるのだった。
◆
おそらくエリックはダンジョンでの様子を尋ねるに違いない……
A級ギルド、【紅蓮の炎】がクリアできなかったんだ。きっと騒ぎになるはずだ。
とはいえ……なんて説明すればいい??
あれを信じてもらえるのだろうか??
「ってか、俺って怪我をしてたんじゃないの?どうなってるんだ……」
そう呟いたその瞬間だった。
【ステータスオープン】
幾何学的な言葉が頭の中に響き渡る。
これって……教会の「能力調査」と同じ……??
呆然と俺はその画面を眺める。
「なんで…??」
その画面を思わず振り払うと、ステータス画面は跡形もなく消え去った。
「まさか……」
俺は確認のため、小さな声で呟いてみる。
「ステータスオープン」
すると再び、『能力調査』の画面が俺の目の前に現れた。
……どゆこと??ちょっとしばらくの間、それを眺め……さらに書いてある内容を見て俺は固まる。
◆◆
アルス
職業 暗黒剣士 LV1
死霊術師 LV1
魔物使い LV1
LV12
体力200
魔力150
攻撃力50
防御力50
俊敏性50
スキル 暗黒剣「紅」
ネクロマンシーLV1
モンスターテイムLV1
神眼LV1
アイテムボックスLV♾
ダンジョンキーLV1
ちょっと待って、ちょっと待って。
何?この能力値。俺、目覚める前までノービスでスキルなしの底辺だったよね??
なんでこんな能力になってるの?
レベルは変わってないのに、他の能力値変わってるし。めちゃくちゃ高くなってるじゃん。
そして職業……なんで三つ?普通は一つでしょ。
それにこれ、全て闇の勢力の職業だよ。神殿で『能力調査』をやってバレたら、教会から睨まれるどころか捕まるやつだ。しかもどう考えても『魔族』の……よく経典とか物語で出てくるような伝説級の職業だよ……聞いたことない……
そしてスキル……
アイテムボックスってよく古文書なんかに書いてある異空間に色々としまえるやつだよね……しかもLV♾って…どう言う事?なんかとんでもないな……
他のスキルはどれもわからない……調べるのが怖くなるな……
とはいえ。
俺はあの【超越者】との会話を思い出す
『まぁ、間違いなく、君にこれから訪れるのはとんでもない未来。修羅の道だろう。それにより世界がどう変わるのか……平穏な世界なのか、混沌とした暗黒の時代なのか……それは君次第だ』
「こりゃあ確かにとんでもない未来になりそうだ……」
でも。
浮かぶのは今までの出来事。
村が魔獣に滅ぼされ、奴隷として捕まり、孤児院で生活して底辺冒険者として活動してきたこと。
もっと力があれば村を守れた。
もっと力があれば大人たちや友達を救えた。
もっと力があれば奴隷にならずにすんだ。
もっと力があれば、あんな差別された目を向けられなくてすんだ。
もっと力があれば、あのダンジョンで仲間を助ける事ができた……
でも……!!
もっと力があれば孤児院を守れる。
もっと力があれば孤児院の子供たちが腹一杯食べる事ができる。
もっと力があれば……リーシアを守れる。
俺はその時,決心したんだ。
おそらく、世の中では受け入れられないこの力を受け入れる事に。
世の中が敵になったとしても、この力を使って全てをねじ伏せてみせると。
ふと、窓を眺めると……そこには今までした事のないような不敵な笑みを浮かべている俺の姿が映っていた。
その窓の向こうの俺に、俺は話しかける。
「なぁ、俺。この力がどんなものかは分からない。そしてこの力のためにこれからの未来がどうなるかも。でも……俺はこの力を使ってみようと思う。いいよな」
俺がそう呟くと……窓の向こうの俺も頷いているように思えた。
「あぁ……上等だ。この力が『あいつ』の言ったような修羅の道であろうとも……俺はその道を突き進んでやる……どうせこの世界は腐っているなら、俺はその世界ごと、全て飲み込んでやる……!」
自然と口に出た誓いの言葉。
この時、俺は未知の力を手にした事で高揚していたのかもしれない。
だが……この日からわずか数年後、俺は本当にこの世界を飲み込む、その原因になるなんて……この時は夢にも思っていなかった。
そう、それは……この日見た夢と同じように。
全ての始まり……『ゼノサーガ』への道を。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
とりあえず、プロローグ……覚醒編の終了です。
次回から新章に突入します。よろしくお願いします。