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これより職業(ジョブ)選定の儀を行う

俺は闇の中、浮いていた。


意識ははっきりしない。ぼんやりとしている。


そんな状況の中、幾何学的な言葉が頭の中に響き渡る。


「これより『職業(ジョブ)』選定の儀を行う」


……職業(ジョブ)選定の儀って……あの教会で行われるやつか??


これは夢?職業(ジョブ)に憧れすぎて頭おかしくなったのかな?


俺はゆっくりと目を開く……がやはりあたり一面暗闇の中だ。夢じゃない。


っていうか……


「あれ?俺……生きてる……?」


徐々に頭がクリアになっていく。


間違いなく黄金の鎧に体を刺されたはずだ。その感触も残っている。


なのに……なぜ、俺の身体は傷一つないんだ?


疑問に思うことはそれだけでない。


なんで,ダンジョンにいたのにこんなところにいる?


っていうか、なぜ職業選定?だってあれは教会のみに許された秘法だろう?


ってか……何で俺は生きてるの??


疑問が次から次へと浮かんでいく。


その時だった。


「はははっ!」


唐突に笑い声が聞こえたのは。


声の方に顔を向けると、そこには道化師の様な格好の男の子が笑って浮かんでいた。


「いやー、混乱してるねぇ。面白い顔をしてるよー」


相手を揶揄うような軽い声。


それを聞いて俺はちょっとムッとする。


「あれ?怒った?ごめんごめん。そんなつもりはなかったんだよね」


「……お前は誰だ…?ってかここは……」


「あー、それを言っても君はきっと理解できないと思うよー」


そう言うと道化師姿の子供は悪戯好きな笑みを浮かべて、くるりと回った。


「名前は……んー、機会があればそのうち教えてあげる。一応、多くの人は僕の事を【超越者】って呼んでる」




目の前の道化師姿の子供はそう言ってケタケタと笑っている。


それにしても超越者って……大層な呼び名だな……子供なのに。


「あ、今失礼なこと考えたでしょ?」


そう言うとその【超越者】は俺の顔の前で再びくるりと回った。


「で……その【超越者】さんが俺に何の御用ですか?」


「……なーんか失礼な物言いだね。まぁ良いや」


そう言うと彼は後ろに飛び退った。そして


「パンパカパーン。おめでとう、君はこの数千年で僕に選ばれた『2人目』の人間でーす」


「………は?」


何言ってんだ、こいつ……僕に選ばれた?


「いやー君みたいな面白い人材が釣れるのは思わなかったなぁ。あの『バルバトス』からもちゃんと逃げ切れたわけだから運もいい。いいね〜いいね〜おもしろいねぇ〜」


なんか言い方が軽いけど……この人とんでもないことを言ってない?


バルバトス?逃げ切った??


まさか……


「バルバトスってのは……まさかあの黄金の鎧の事か?」


「黄金の鎧?あー、そうだよー。強かったでしょ?」


いや、強いなんてもんじゃない……上級冒険者の命をいとも簡単に奪ったやつだぞ……?


ってか…じゃあバンやイザーク達が死んだのはこいつの……


「そう考えると他の人たちが死んだのは僕のせいかもねー」


心の声を見透かしたように彼はそう言って笑った。


「ま、僕が欲しかったのは君だから。他はどうでもいいんだよねー」


【超越者】が悪戯っ子の様な笑みを見せながらゆっくり近づいてくる。そして俺の胸に人差し指を置き言葉を続けた。


「本当に珍しい魂の色だ。漆黒なんて初めて見た。これから行う事に相応しい。」


……一体こいつは何を言ってるんだ?


質問や文句は沢山ある。だが……徐々に身体がこわばり、口が開かなくなっていく。


さっきから圧倒的なプレッシャーが俺を包んでいるのだ。


声を出す事ができない……!!?


「さて、君はどういう人生を送るのか……おもしろいねぇ〜」


そして先程までのヘラヘラした表情を引っ込めて、真顔になって言葉を紡ぐ。


「まぁ、間違いなく、君にこれから訪れるのはとんでもない未来。修羅の道だろう。それにより世界がどう変わるのか……平穏な世界なのか、混沌とした暗黒の時代なのか……それは君次第だ」


その瞬間だった。再び脳裏にあの幾何学的な声が響き渡ったのは。


『これから『職業(ジョブ)』選定の儀を始める』


その声を聞き、【超越者】は笑った。


「さて時間かな。もうちょっと話がしたかったけど、ここで終わりのようだ。君がこれからどんな人生を送るか……僕はこの『世界』から見学させてもらってるよ」


そして最後に思い出したように彼は言った。


「あ、そうそう、大事なことを言い忘れた。おまけにいくつかプレゼントをしたから使ってね。では、頑張って」


「……ちょっ、ちょっと待って…」


俺が答える間もなく、一方的に話し終えると、【超越者】と呼んでいた少年は忽然と姿を消した。


あまりにも自分勝手……一体何がなんだか、分からないじゃないか….


そう思った瞬間。


俺の身体は光に包まれたのだった。




(聞いてたのとなんか違う……)


光に包まれながら……俺はそう思う。


確か職業選定の儀って、教会の女神が主導で行うはずだと思うが……?


憧れていたから経験者に何度も話を聞いた。


それによると、それにこんな暗い世界ではなかったと思う。たしか、明るい神殿の中に飛ばされて、そこで女神から啓示を受けるって聞いたけど……





俺は何でこんな暗闇の中にいるのだろう…??





自分の状況になんか笑いが込み上げてくる。


なぜこんな状況になっているのか……不思議だ。


怖くないか?と問われればきっと怖いと言うだろう。


先程までの出来事……バルバトス…だっけ?あの黄金の鎧に追いかけられたこと。


そして……長剣に貫かれたこと。


さらに【超越者】の会話、そしてここでの出来事。


あまりにも現実離れしすぎて、頭の中がもうグチャグチャだ。


俺の脳内に声が響き渡る。


【超越者からの依頼も確認しました。これより職業チェンジを致します】


そして、別の声で別の言葉が聞こえた。


【魔王への扉は開かれた。其を進むも閉じるも自分次第】


(なにがなんなんだよ……)


脳内の声が響き渡るのと同時に俺の意識は再び暗闇の中に引き摺り込まれるのであった。

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