ははっ……なんだこれ……?
いつもありがとうございます。
今回の話は話の流れ上、ちょっと短めのお話です。
「うわぁぁぁぁぁぁあああ」
その部屋はこのダンジョン最深部である部屋だった。
広い。とにかく広い。
前も右も左も……先が見えない。
そして……明るい。
壁の側面にはたくさんの灯があり、その部屋全体を明るく照らしている。
それでも……この部屋の全貌が分からないほど広い。
俺はとにかく、その広大なスペースを走り回り、なんとか奴から逃げようと必死だった。
隠れるところはない。ただ、だだっ広い空間なのだから。
いや……もしあったとして、それに隠れてもおそらく無駄であろう。
『黄金の鎧』がその長剣を振れば、その周りのものが真っ二つになっていく。
実際に今も剣を払えば、その剣圧だけで床が割れ、傷だらけになる。
最早次元の異なる存在。
先程まで一緒に冒険していたバンもA級冒険者だった。冒険ランクでAランクといえば、一流の冒険者だ。
バンの職業はバトルマスター。まさに戦いのプロだ。
A級の上位職業なら、おそらくソロでもBランクの魔獣を相手にできるほどだろう。ギルドでも、そして冒険者協会でも多大な権力を持ち、俺たちなんかは話もできないような人物だ。
だがそんなバンを。
あの「黄金の鎧』はまるで赤子の手を捻るように、いとも容易く命を奪った。
あのバンが何もできなかった。
パワーでもスピードでもまるで相手にならなかった。
イザークもオリバーも。
『紅蓮の炎』のメンバーは強者揃いだったのに。
何もすることが出来ず、命を散らしていった……
だからこそ、断言できる。
あの『黄金の鎧』は異常すぎるのだ。
走りながら、頭に浮かぶのは……
後悔。
(なぜ?なぜ?なぜ??なぜ??なぜ!?)
先ほどからその言葉のみが頭の中を駆け巡る。
このレイドは安全じゃなかったのか?依頼を受けた時は「おいしい仕事」と紹介されたはずだ。だってA級冒険者のポーターの仕事だろ?
どうしてこうなった??
それを答えるものはもういない。俺以外の人間は皆、この部屋の外で胴と首が離れた状態になっているのだから。
バンもイザークもオリバーも。
あの強者だった『紅蓮の炎』のメンバーが一様にして。
涙で視界が霞む。ずっと口で呼吸をしていたので、喉がひりつくように痛い。
でも足を止めるわけにはいかない。奴が追いかけてくる。
金色の鎧を纏った黒い人型の
ナニか
奴は確実に俺の依頼者であるA級ギルドの人間を殺しまわっていた。
奴のせいで俺は………
一人になった。
カツカツカツカツ
まるで時を刻む時計の針のように。正確な足取りが後ろから聞こえる。
どう逃げても。どう隠れても。
奴の足音は追ってくる。
あれからどれぐらい逃げたのだろう。
あれからどれぐらい経ったのだろう……
ひたすら走り。ひたすら隠れ。ひたすら逃げて。
もう、体力も限界を迎える……
そんな時だった。
「あぁぁぁぁぁあああ!!」
俺は何かに躓いた。
なんだこれ?石でできた丸い円盤??
そう俺はそれに躓いたのだ。そして……盛大に転んでしまった。
(このままではまずい!)
そう思い、急いだ身体を起こした……
その瞬間だった。
胸のあたりが熱くなったのは。
驚いて自分の胸を見ると、禍々しい黒い刀身が胸から生えていた。いや……
俺を貫いて出ていた。
「ははっ……なんだこれ……?」
そう言って俺は円盤の上に倒れ込む。俺の血が剣の刀身を伝って、円盤を赤く染めていく。
その瞬間、頭によぎるのは。
孤児院の子供たち。
院長。
そして
(リーシア!!)
俺の大切な幼馴染。
今では家族のような存在。
そして……大切な女性
(ははっ。なんだ、そういうことか)
どうやら死ぬ間際に何か一つ大切な事がわかった気分だ。
あの笑顔を守りたかった。
絶対に貴族のおもちゃにさせたくなかった。
だからこそ。金が必要だった。孤児院に圧力をかけられても。それを跳ね返すための経済力が必要だった。
「死ぬわけにはいかない。まだ……死ぬわけにはいかない……」
そう呟きながらも視界が徐々に暗くなっていく。
身体全身から体温がなくなっていくのがわかる。
(これが死ぬってやつか?)
そう、その時。本当にそう思っていた。
俺はここで終わる、と。
そしてそう思った瞬間だった。
俺の脳内に男でも女でもない。不思議な声が響き渡ったのは。
『これより職業選定の儀を始める」