其は魔王の道。進むことしか許されず。退くことは許されぬ
A級ダンジョンに潜って5日目。地下9階にいた魔物を一掃し、俺が所属する「紅蓮の炎」の選抜隊は地下10階にたどり着いた。
「そろそろダンジョンコアが見えると思うのだが……」
ダンジョンコア。字のごとく迷宮の核。どのダンジョンでも地下10階に存在する未知なる魔石。
何もなかった場所に突然現れ、そしてそれを中心にダンジョンを形成していく。
そして非常に強力な魔力を帯び、そして未知の物質でできている、魔石の中でも最も価値のある存在である。
様々な武器や防具に使うことができ、高額で取引されているダンジョンの宝。特に……A級ダンジョンのダンジョンコアなんて言ったら、白金貨1000まいでもきかないんじゃないか?
それだけ価値のあるダンジョンコア。
多くの冒険者の狙いはこのダンジョンコアを手に入れることだ。
ちなみにダンジョンコアをゲットするとダンジョンは跡形もなく消え去る。
それゆえにダンジョンコアはダンジョンに一つしかない、とても高価なものなのだ。
しかしダンジョンというものは冒険者からすれば飯の種かもしれないが、一般人からすると厄介なものに他ならない。
ダンジョンが現れると、それと同時にどこからかモンスターも現れる。モンスターもダンジョンの中にずっといてくれればいいのだが、時折、ダンジョンからあふれ出てくるときがある。いわゆる、オーバーフローという現象だ。
こうして出てきたモンスターは近くの村などを襲う。
草原や森に普通に生息している魔獣達よりよっぽど凶暴であり、一般人からすればこれほど厄介なものはない。
だからこそ、冒険者は体を張ってダンジョンを消滅しなければならない。
時々村を襲ったモンスターを討伐しにきた騎士団もダンジョンに行くらしいけど……基本的には冒険者の仕事だ。
そのため、冒険者はどの地域に行ってもありがたがられる職業なのだ。そしてその冒険者達の集団である冒険者ギルドというのは非常に力を持っているわけだ。
それこそ、このギルド、『紅蓮の炎』なんて、下手な貴族よりも権力があるんじゃないだろうか……?
「向こうから、魔力の流れを感じます」
その声に俺は意識を戻される。口を開いたのは一緒にいる魔法使いだ。確か……B級のオリバーといったかな?
「こっちです!」
オリバーの導く方に俺たちは進む。そして……そこには……
「なんだ……これは……??」
あきらかにダンジョンには不釣り合いの。重厚な鉄の扉が聳え立っている。
どす黒く、そして不可思議な刻印が施されている重々しい印象の巨大な扉。
その威圧感に俺たちは息を呑んだ。
「何か書いてあります!!」
先ほどから注意深く伺っていたオリバーは扉に書かれている文字を発見した……って、よくあんなところにある字に気づくなぁ……
「えっと……何々?『神……の試練……命を懸けて……魔王……だめだ、よくわからない」
エリックがそういったその時。
ゴゴゴゴゴゴゴ
唐突に扉が開く。そしてそれと同時に奥から異様な声が響きわたった。
【其は魔王の道。進むことしか許されず。退くことは許されぬ】
その声を聞き、その場にいた全員が顔色を変える。
「なんだ?何を言っているんだ??」
このチームのリーダーであるバンもまた、顔をゆがめながらそう呟いた。
「バン……嫌な予感がします。レイドを中止しましょう」
オリバーは青い顔をしてバンに告げた。彼の手が震えているのを遠くからでもはっきりと見る事ができる。
見ればほかのメンバーも青い顔をしていた。
た
陽気なイザークも押し黙ったままだ。
「ここから流れ出ている魔力は異常です。上に報告して……」
「いや、行こう」
オリバーの言葉を遮るようにバンは口を開いた。
「ここにダンジョンコアがあるかもしれない」
「ダンジョンコアが仮にあったとしてもここは危険すぎます。魔力の濃さが尋常ではない……一度引いて、メンバーを揃えなおすべきです」
オリバーも引き下がらない。必至で反論する。
「なんならA級を全員揃えてもいいと思います。それぐらい危険な……」
「オリバー、今回の指揮官は俺だ」
再び言葉をかぶせるバン。その目は最早異常なまでの輝きがあった。
俺はあの目を見た事がある……あれば欲に駆られた人間の目だ。
「いいか、お前たち。これはチャンスだ。これだけの魔力の濃さ。きっとすごいダンジョンコアなのだろう。それを手に入れることができれば、きっと昇給ができるはずだ」
その言葉にその場にいた冒険者達が色めきたった。
確かにダンジョンコア……しかも未知のダンジョンコアならその功績は計り知れない。バンはきっとそれを手に入れ「紅蓮の炎」初のS級冒険者になりたいのだろう……。
異様なまでに興奮しているのが遠目でもよくわかる。
「反論は許さん。ポーターも全員ついてくること。これは命令だ」
その場にいる全員が押し黙る。
正直俺達からしたら迷惑の何者でもない。明らかにこの中は異常だ。
だが何か言おうにもバンの剣幕に押され何も言うことができない。バンはこの場にいる唯一のA級冒険者。実力行使されたら何も言うことができない。ランクの違いとはそれだけ影響があるものなのだ。
「分かりました。では危険と判断したらすぐにでも退却します。それでよろしいですね?」
「あぁかまわん。では……いくぞ!!」
バンは扉の中に勇んで入っていく。俺たちも言葉を発することもなくそれに続いていった
【其は魔王の道。進むことしか許されず。退くことは許されぬ】
再び先ほどの言葉が脳裏に響きわたる。その瞬間。
ゴゴゴゴゴゴゴ
あの重い鉄の扉はしまり、俺たちは吸い込まれるように消えていくのであった。