君の実力を考えると冒険者は難しいよねぇ
「ステータスオープン」
教会の神像に向けて俺は声を上げる。
教会でしか行えない「能力調査」
これは自分の現在の力を数値化して見る事ができる。
自分がどれだけ強くなったのか……自分を知る上でとても重要な事だ。
なぜ、今能力調査をするかというと……
出発前に改めて自分の力を確認したかったからだ。
俺の前に画面が現れる。そしてそこに書いてある文字を読むと……
◆◆◆
アルス
職業 ノービス
LV12
体力 112
魔力 0
攻撃力 30
防御力 35
俊敏性 35
スキル 特になし
◆◆◆
「はははっ」
画面を見て、思わず自嘲が漏れた。やばい、泣けてくる。
相変わらず情けないステータスだ。これで冒険者数年やってるんだぜ?
職業付きのルーキーのほうがよっぽど高いステータスを持っているよ。
レベルは自分より低くても、もっと能力値が高い。ってか『スキルなし』ってなんなのさ、って感じ。
スキルとは神から与えられた特殊能力だ。
魔法もスキルと言えるし、そのほかにも耐性を上げるもの、攻撃力を上げるもの、剣士や騎士なんか必殺技を使えるようになるものまである。
でも……俺は『スキルなし』
その様なものは無縁……という事だ。
俺はだまってステータスを閉じ、溜息を一つ溢すと、誰もいない教会から出ていく。
「さて、朝日が昇る前には集合場所につかないとな。急ごう」
ま、何も変わらないというのは悲しいけど。こうやって確認するとそれなりに清々しい気分にもなる。
まだ太陽も出ていない……人っ子一人いない暗い道。その道を、1人走りだしたのだった。
◆
「しっかしまぁ、君の実力を考えると冒険者は難しいよねぇ……」
そういったのはA級冒険者ギルド「紅蓮の炎」のメンバー、槍使いのイザークだ。
「紅蓮の炎」の荷物持ち(ポーター)として、すでに3日が過ぎようとしており、俺はこの冒険者のメンバーや同じポーター仲間とそれなりに仲良くなり、会話をするようになっていた。
冒険者は基本一人では冒険をしない。複数のメンバーを揃え、パーティを組む。そしてそのパーティが大きくなった時……それをギルドと呼ぶ。
ギルドは王都にあるギルド協会に所属し、大きな力を持つ。
ちなみに……俺たちを助けてくれた「神々の戦」。彼らは冒険者ギルドの中でも最上位のSクラスに認定されている。メンバーも全員がS級冒険者。人数も6人とパーティほどしかない少人数ギルドだけど、その実力で少人数でもギルドと認識されており。そして彼らは一国の王様ほどの権力があるという噂だ。
あくまで噂だけど。
ちなみに、ギルド協会だが、これはギルドを管理するという組合的な組織だ。彼らを通してギルド、そしてさまざまな冒険者は仕事をもらい、報酬をもらうこととなっている。
で、俺が今回臨時で加わった「紅蓮の炎」だけど、彼らはA級ギルド。実力的には申し分ないメンバーだ。数も多く、A級冒険者からC級冒険者で構成されている。冒険者の数も多く、今飛ぶ鳥を落とす勢いの新興ギルドだ。
そして今回のレイドにはその中から10名ほどのメンバーが選ばれたらしい。
俺と今話をしているイザークもその一人。彼はC級の冒険者だ。年は俺より少し上ぐらい。でもその実力はさすがのC級。俺とは雲泥の差だ。人の倍ほどあるC級モンスター「ジャイアントベアー」を一撃で葬るぐらいだから。
ちなみに俺はE級のゴブリンでさえ、倒すのに時間がかかってしまう……
「あ、ごめんごめん、悪気はないんだ」
少し俯いた俺の様子にイザークは少し慌てて答えた。
うん、分かってる。この人本当に悪気なく言ってる。だから……逆に傷つくんだけどな……
そういうタイプの人っているよね。
「でもまぁ、今回のレイドが終われば、ある程度のまとまったお金が手に入るんだからちょっと休んだらどうだい?」
「はい、そのつもりです。さすがに俺も命は惜しいので……」
今回のレイドは非常に報酬がいい。これをクリアすれば確かにまとまった金が手に入る。
これだけあれば……少しは休むことができるかな?リーシアを安心させるためにも是が非にも達成したいところだ。
「さぁ出発するぞ!」
今回の「紅蓮の炎」のリーダーはA級冒険者の、このバンという男だ。筋肉が流々として見るからに「戦士」という様相だ。何でもギルドの中の幹部の1人で、上位職業の「バトルマスター」だとか……うん、俺には縁がない話だね。
彼は俺たちポーターには厳しい。典型的に弱者に対し厳しいタイプの人だな。
さっきポーター仲間が隙を見て煙草をふかしてたら、殴られてた。あー、手も出すやつか。嫌だ嫌だ。
バンの声にメンバーが立ち上がる。俺もあわててついていく。
道の途中途中で、B級モンスターやC級モンスターが現れる。俺なら確実に命を落としていく……そんな魔物たちだ。でも彼らは違う。
「はぁぁっ!」
バンが剣をふるえばB級モンスターの血しぶきが舞い、
「はぁぁあっ」
イザークは華麗なやりさばきでモンスターを蹴散らしていく。
後方にいる魔導士や神官といったメンバーも連携を取りながら前衛を助ける。その流れるような動きに俺は目が釘付けとなった
(これがA級ギルドメンバー……俺がついていける世界ではないな……)
イザークは先ほど、自分は必ずA級冒険者になると夢を語ってくれた。きっと自分の行くべき道が見えているのだろう。それに比べて俺は……
こうしてA級ダンジョンの探索はどんどん続いていく。メンバーが強いので、少し嫉妬を覚えながらも安心して後方で待機できる。そう思っていた。
あの扉が現れるまでは……