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この手甲って……

いかん。ストックが尽きてしまった。

ここからは自転車操業……頑張ります

俺はその足で早速武器屋に立ち寄った。


本来なら、アイテムボックスにある『ワーウルフ(亜種)の毛皮』で防具を作りたいところだけど……俺の知り合いにそんな腕のいい鍛冶屋は知らない。というより、そんな仲のいい鍛冶屋はいない……


だから……とりあえず、今回はワーウルフの牙を売った時に得た金で新しい武器を新調しようとしたのだ。


今回は金がある。なら、ちょっと奮発しても良いはずだ。

エリックに聞いたところ、教えてもらった武具屋は三つ。


一つは、この街のメインストリートに大きな店を構えている、貴族や騎士が通う高級店。

二つ目はそこから一本横に行ったところにある、多くの冒険者御用達の店。

最後はこの街の外れにある個人経営店。


ということで、今回は金もある事だし、まず初めにひとつ目の高級店に行ってみた。



「確かに高級店というだけあって、とんでもない佇まいだな……」


その外観に俺は圧倒された。今までの俺には縁のない場所だ。

店内に入ると……


絢爛豪華…ありとあらゆる武器や防具が揃っている。武器防具というより……最早飾りや宝石を見ているような……


さっきから店の人はこっちの方を伺っている。が、声はかけてこない。おそらく俺の格好をみて躊躇っているのだろう。

他の客にはしっかり店員がついているのに。


確かに……今俺が着ている服は普通の……冒険者の服だ。ここの店には不釣り合いかもしれない。対して周りの客は……


(貴族や騎士っぽい人ばかりだな……)


こりゃあ俺は場違いかもなぁ。


でもせっかくだし勉強のためにいくつか覗いてみよう。


カウンター付近に飾られてある、この店で一番高級な剣。

名前は『覇者の剣』と書いてあり、伝説の英雄であるなんとかが使った剣だって。どんな能力値だろう。


早速俺は『神眼』のスキルを使った。そしてその結果に絶句する。


◇◇

『覇者の剣』(レプリカ)


ランク Eランク


龍殺しの英雄ラーサーが使った剣の偽物(レプリカ)。そこそこの金属を使っており、立派に見えるが武器としての価値は全くない。


◇◇


ひ…ひでぇ…


『神眼』のコメントも辛辣だ。


試しに他の武具も、いくつか『神眼』で覗いてみたけど全て同じような感じだ。なるほど……ここは貴族や騎士の『見栄』を満足させる場所か……

だから冒険者のように実用的に使いたい奴はいないんだろうな。


そんな時だった。


「おや?お前は孤児院に出入りしている冒険者ではないか?」


急に声をかけられたのは。




声をかけてきたのは……げっ、こいつリーシアを手駒にしようとしてたあの貴族のボンボン。名前は……ダミアンとか言ったっけ?


「君なんかにこの店は不釣り合いなんじゃないかね?」


そう言いながら俺の方をニヤニヤ見下してくる。相変わらずタチが悪い男だ。

あぁ、髪をいじるなよ、気持ち悪い。


そういや、こいつも貴族の中ではそこそこ剣を使う……とか聞いたことがあるな。試しに見てみるか?


俺はそっと『神眼』の能力を使う。


◇◇

ダミアン・ホフマン


職業

騎士(ナイト)LV11


LV16

体力  320

魔力  250

攻撃力 210

防御力 250

俊敏性 300


スキル 

剣術



げっ。意外と強いな。まぁ、今の俺ほどではないけどね。

でも剣術スキル持ちか……うーん、あのスキルは欲しいかも……



いかんいかん、『強奪』で奪ったら俺はもう完全なお尋ね者だ……本当にこの国なんかにいられない。相手は貴族だし捕まったら縛り首じゃ済まないぞ……


「ところで、例の話は……」


あぁ、リーシアを妾としてよこせって話か。しつこいな。

俺はダミアン男爵の言葉に被せるように否定した。


「男爵様。無理なものは無理ですよ」


その言葉に初めは不機嫌そうな顔を見せたダミアン男爵。しかしすぐに鼻で笑い飛ばした後、ニヤリと笑った。気持ち悪い。


「フン。あのババァといい平民の分際で身の程をわきまえていないな、貴様は。まぁ、いい。その選択……後悔させてやるからな」


なんか偉く脅してくるなこいつ。エリックの言った通り、絶対何か仕掛けてくるんだろうなぁ……


あー、やっぱり早く金を貯めてこの国から出るのが正解かもね。


ダミアンは俺に嫌味を浴びせるだけ浴びせると、満足したのか子分たちを引き連れて去っていった。

あーあ、めんどくさい。


かく言う俺も、奴がいなくなった後、早々にこの店を退散した。

こんな店、二度とくるかっ!




二つ目の店は良くも悪くも普通のお店だった。


だが、こちらも一見さんには冷たい感じだ。確かに俺の今の服装は冒険者の中でも初心者(ノービス)っぽいからなぁ。

あまり積極的に営業はしないのだろう。


一応、そんな事は気にせず、いくつかの品を『神眼』で見たが……正直、値段と釣り合うような物はない感じ。こっちの足元見てるよなぁ……こういう大きい店は。

冒険者にとって装備は命を左右するものだ。その足元を見て、商売するって……本当にタチが悪いと思う。


(そう考えると、この『神眼』ってスキルは本当に便利だ)


そんな事を思いながら、俺は店を後にする。


結局最後の店か。次に行く店はちっちゃいから心配なんだよなぁ……




最後の店は、本当にこじんまりした武具屋だった。


パッと見、普通の家だよなぁ……大丈夫か?ここ??


エリックは


「小さいんだけど、ここがオススメだな。ただ、親父がとんでもなく頑固だから機嫌だけは損ねさせるなよ。こうやって色々なやつに勧めても、皆、怒鳴り散らされて終わるんだから」


と言ってたけど……


そう言って俺はそっと扉をあける。


店の中に客はいない。そして店の人間もいない。


狭い店内の中に装備品はたくさん置かれている。だが、飾るわけでもなく……積まれてる感じ?売り物……で良いんだよね?


……本当に大丈夫か??


それに……


俺は入り口に置いてあった革の鎧に目を向ける。


この鎧……さっきから目につくんだけど、なんか見栄えが悪いんだよな。素材が剥き出しというか、小汚いというか……


何気なく、俺はその鎧に『神眼』を使った。


◇◇


ロックリザードの革鎧(中古)


ランク Cランク


見栄えは悪いが、軽く頑丈な鎧。中古でも高い防御力を誇る。


◇◇


んん??


これって掘り出し物じゃないか?

Cランクの防具がこんなところに??


「らっしゃい」


鎧を手に取ってると唐突に声がかかった。

白髭面の大柄なドワーフ。


うわぁ、見るからに気難しそう……


「……その鎧がいいのか?」


「……値段はいくらですか?」


「それなら銀貨3枚で手を打とう」


銀貨3枚!?


新品の鉄の鎧が余裕で買える値段だ。とはいえ……ロックリザードの革なら鉄よりも遥かに軽く、防御力も高い……中古品とはいえ、ある意味それなら安いのでは??


俺は意を決して返事をした。


「……買います」


「ほう……他の店で鉄製の鎧を買う方がきっと安いぞ?」


「だって、どう考えてもロックリザードの鎧の方が耐久性が高いじゃないですか」


何気ない俺の一言。だが、気難しそうな店主はその返事を聞き笑い出した。


「はははっ!そうか。分かるか!小僧」


そう言うと、店主は俺の肩を掴みブンブンと振る。


い…痛い……


でもとりあえず機嫌は損ねなかったかな?


「最近の連中は見栄えばかり気にする奴が多いからな。そうやって質を見てきた奴は久しぶりだ!」


そう言うと店主はにっこりと人好きのする笑顔を見せたのだった。




なんとなく気に入られたらしい俺は、その後店主に様々な防具をみせてもらい、今の予算で装備を整えてもらった。


店主(名前をバグリーという)は俺の予算で買える、最高の装備を考えてくれたよ。


なんでも、最近の冒険者は見栄えばかり気にして性能などを意識しない者が多いらしい。

武器を扱うものとしてはそれは許せない、との事だった。


いや……今まであったお店の人で1番親切なんですけど……



そうそう、そういや『ワーウルフ(亜種)の毛皮』で防具を作ってくれる鍛冶屋も紹介してくれることになった。

代わりに余った素材はあげるって条件で。


俺からすれば、痛くも痒くもない、都合のいい条件だから二つ返事で了承した。


そんなこんなで色々会話をする中で俺たちは意気投合。


そして選んでもらったのはこんなさっきのロックリザードの鎧の他、これ。


◇◇

ランドバードの羽根靴


ランク Cランク


風の力が宿っており、動きが俊敏になる。


◇◇


こんな防具、ちょっと前までは縁がなかったよなぁ……


自分の姿を鏡で見ながら……ちょっと嬉しくなる。


そんなニヤニヤしている俺にバグリーも嬉しそうだ。


でも実はもう一つ気になる事があったんだ。


「ねぇバグリー。あの手甲って……」


それは奥にしまわれていた手甲。


厳重に木箱の中に入っており、何気なく俺が手に取ろうとした瞬間、バグリーは


「それは触っちゃダメだ」


と、カウンターの下に下げたやつ。


なんか、あの手甲が……俺を呼んでるような気がするんだよな……




いつもありがとうございます。


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[気になる点] ロックリザードの革鎧(中古) ランク Cランク Bランクの防具がこんなところに?? b?c?どっちかな?
[一言] アルスくんがダミアンのようにくだらない人からスキルを奪うことに嫌悪感を抱かないのが好きです。彼は奴隷市場に行き、犯罪奴隷からスキルを奪うべきだと思います。また、将来の目標のために彼に役立つこ…
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