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プロローグ

新作投下しました。長い目で見てください。よろしくお願いします。

(あるじ)。皆、揃ったようです」


「……そっか。ありがとう、ヴィルヘルム」


複雑な表情を見せつつ、そう言うと、俺は腹臣中の腹臣であるスケルトンに声を変えた。

俺の返事を聞き、紅に輝く身体をもつ、黄金の鎧を纏しスケルトンはそっと後ろに下がる。


さすがは元・英雄。

何も言わずとも色々と察し、そして黙って下がってくれた。今、こういう気遣いは本当にありがたい。



『スパルトイ』


古文書や英雄譚で紹介される伝説的なアンデッドである。


彼だけではない。俺のすぐ後ろには世の人から『九頭龍』と呼ばれる9人の強者が控えている。





先程のスケルトンの他にもう一体のスケルトンがいる。彼は黒い身体を持ち、黒い鎧を纏う、「デスナイト』。いや……その上位種である死霊騎士団長(デスナイトマスター)。その傍に立つ、異様な魔力を放っているアンデットは魔王とまで称される事の多い、『リッチ』の上位種、『デスロード』。


彼らだけでない。獅子の顔を持つ獣人族の英雄に、鋭い眼光をもち、強靭な肉体を誇る『鬼王(オーガキング)』、神々しいまでに美しい『古代耳長族(エンシェントエルフ)』、まるでその対比のように妖艶に立っている『闇耳長族王(ダークエルフハイロード)』、貴族然としたたたずまいをもつ、伝説の種族『龍人』。


そして、人々から『勇者』とか『英雄』とか呼ばれていた聖剣を持つ人族。


様々な種族の者達だ。


背後には黒で統一された鎧を纏った黒いスケルトン……『死霊騎士(デスナイト)』や死霊軍団兵(スカルレギオン)達。さらにはドラゴンやフェンリル呼ばれる神獣。さらにその後ろには……


数えきれない数多の魔獣。アンデッド。獣人、エルフ、ドワーフ、そして……人間


その姿はまさに






混成軍(カオスレギオン)





この世界では誰も見た者がいなかったであろう……


人間も亜人も魔族も……全てが手を取り合う集合体。




対する自分の眼前は控える軍勢は。


様々な国の旗が翻り、騎士を主体に成り立つ『人族』の軍勢。


亜人や魔族を否定し、弱者を虐げ、差別し、迫害している集団。





混成軍と対峙する人族の軍勢を見て俺は笑う。


「魔獣を引き連れ、人間と敵対する……まさに魔王だね。こりゃ」


その言葉に控えていた1人の男が口を開いた。


「マスター……自分は人間ですが……」


「あ、ごめん。悪気はないんだ。ってか俺も人間だし」


そう言って俺は、声を上げた男に笑いかける。


不安があるのかもしれない。以前まで彼らと同じ立場だったのだから。


だから、それを振り払うように。


心配するな、という思いを込めて笑みを見せる。



そう、俺も彼は人間だ。でも彼は俺とは違う。


世の人から『勇者』と呼ばれ、『英雄』と持ち上げられ。魔王を倒すためだけに育てられた最終兵器。

過酷な運命を『無理矢理』欲深い者たちに背負わされた『人間の道具』だった者。


「そんな事言ったら私も『元』は人族だ。心配するな」


そう言ったのは赤いスケルトン。


「自信を持て。お前は『我々』にとっての勇者なのだ。全ての種を守るための。それこそ男の本懐ではないか」


言葉を次いだのは獅子顔の戦士。


そう、彼は以前『人族』の勇者だった。

だが今は違う。彼は俺達の味方だ。『弱者』のため、『魔物』を率いて戦う『真の勇者』


彼は無言で頭を下げたあと、顔を上げた。


あぁ、いい顔になったな。覚悟を決めた男の顔だ。







本当に運命とは皮肉なものだ。




そして思い出すのは、全ての始まり。


そう、自分がなぜ『魔王』としてこの場に立つ事になったのか。その始まりの出来事を……



忘れるわけがない。あの絶望的なまでの出来事を。










「うわぁぁぁぁぁぁあああ」


地下深くのダンジョン。


薄暗く、そして広い神殿に俺の声がこだまする。


悲鳴に応える『人間』はいない。なぜなら俺以外は皆、命を落としたから。






そう……今、俺を追いかけてくる存在に。







(なぜ?なぜ?なぜ??なぜ??なぜ!?)


なんで俺がこんな目に遭わなければいけないんだ?


今回のレイドは安全と来ていた。


A級のダンジョンでの魔石採掘が今回の仕事。

しかも今回、採掘した分の3割を自分のものにできるという。


気になるのは、ダンジョンの魔物。しかし今回依頼を出したのはA級冒険者が多数いるA級ギルド。

万が一魔物と出会ってもなんとかなるはずだった。


荷物を持ち運ぶポーターという仕事しかできない、無能なF級冒険者の俺にとって、今回の仕事ほど美味しいものはないはずだ……


ところが、今俺以外、皆死んでいる。


そう、この化け物に襲われて。


金色の鎧を纏った黒い人型の







ナニか






俺は涙を拭い、涎をたらしながら、とにかく出口を目指し走る。


だが、恐ろしいまでの速度で。そして規則正しい足音を立てて。正確に、確実にヤツは追いかけてくる。






そんな時だった。




「あぁぁぁぁぉあああ!!」


俺は何かに躓く。


なんだこれ?石でできた丸い円盤??


いやそんな事をかまっている暇はない。急いで逃げないと……


そう思ってヤツの方を振り向こうとしたその時。


胸のあたりが熱くなったのは。


自分の胸を見ると、剣の刀身が胸から生えていた。いや……






俺を貫いて出ていた。






「ははっ……なんだこれ……?」


そう言って俺は円盤の上に倒れ込む。俺の血が剣の刀身を伝って、円盤を赤く染めていく。その瞬間だった。




あの時俺の意識は一瞬にして闇へと吸い込まれていった。







(あるじ)?」


ヴィルヘルムと呼ばれた赤いスケルトンが怪訝そうに質問をする。


その声に俺は意識を戻され、そして再び目を開く。


人間の敵になる。確かにこんなに怖いことはない。だって……俺も人間なのだから。



でも




目の前の者たちは人ではない。


亜人を、魔族を、そして弱き人族を……『弱者』を弄ぶ、人の皮を被った悪魔たちだ。


そしてなにより。


(俺はあの日、あの時。覚悟を決めたんだ。彼らのためにも引くわけにはいかない)


振り返れば自分を信じるもの達がそこにいる。


何があっても自分についてきてくれたもの達が。




強い風が顔をなぶる。翻るは後方に立つ、九頭の龍の紋が描かれた旗。

全ての種を守ると言われる伝説の九頭龍


『ゼノサーガ』


を模した旗。それ、すなわち。



『俺たちの旗』だ。



俺は全軍に叫ぶ。


「遂にこの日がきたっ!!今日、この日より世界は変わる!!」


俺の声を聞こうと皆、真剣な面持ちで見守っている。

俺の一声を聞き逃すまいと、そして一挙手一投足を見逃すまいと皆必死の形相だ。


俺の口から自然と言葉が紡がれる。


この国の成り立ちを。この国の志を。この国の歴史を。


その言葉一つ一つが。


軍団長から一兵卒にいたる全てのもの達の心に刺さる。


次第に、その場にいる全てのもの達が……俺の言葉に熱狂していくのが分かる。


その様子を見て満足そうに俺は頷く。そして剣を引き抜き、最後の一言を言い放つ。


「全軍、進撃!!撃滅せよっ!!」


その一言でその場にいた全ての戦士達の興奮が最高潮に達した。背後にいる埋め尽くされた魔獣達が動き出す。龍が咆哮をあげ、魔獣が雄叫びを放つ。人族、亜人が叫び、ドワーフがガチャガチャと手に持った獲物を鳴らし、エルフは美しい音色を奏ではじめた。


その圧倒的な威圧感に相対していた人族は動揺を隠せない。


その声は時代の変革の声。その叫びは世界の終わりの歌……







この物語は、かつて底辺の冒険者でありながら。


神に魅入られて魔王として君臨した、一人の男の物語。




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