押し入れの携帯電話
こちらは百物語四十二話になります。
山ン本怪談百物語↓
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私がまだ幼稚園に通っていた時の話です。
両親が共働きで、その日は家に私しかいませんでした。
外は雨が降っており、私は家の客間でテレビゲームをして遊んでいたのです。
プルルルルルルルルっ♪プルルルルルルルルっ♪
客間で遊んでいると、どこからか携帯電話の着信音が聞こえてきました。
「あっ!パパの電話だ!」
着信音を聞いた瞬間、私はなんとなくそう思ったのです。両親の部屋の押し入れに、使わなくなった父の携帯電話が入っていることを私は知っていました。
私はすぐに両親の部屋へ向かいました。両親の部屋は、2階の1番奥にあります。ドアを開けて中に入ると、押し入れの中から着信音が聞こえてくる。
「誰かな?パパのお友達かなぁ?」
私は押し入れを開けて中身をひっくり返すと、着信音を頼りに携帯電話を探すことにしました。
「…あった!」
押し入れの中に入っていた「仕事用」と書かれた小さな箱。着信音はその中から聞こえていました。私は箱を開けると、中から父の古い携帯電話を取り出した。そして…
「もしもし?もしもーし!」
好奇心旺盛だった私は、携帯電話の通話ボタンを押してしまったのです。
「もしもし?誰ですか?パパのお友達ですかぁ?」
私は何度も携帯電話に呼びかけてみましたが、相手から反応はありません。しかし、しばらくすると…
「あっ!間違えました!」
女性の声だったと思います。相手の女性はそういうと、すぐに電話を切ってしまいました。
「間違い電話?変なの…」
私は父の携帯電話をポケットに入れると、両親が帰宅する時間まで再び遊び始めました。
夕方になり、両親が揃って帰宅すると、私はあの携帯電話を父に渡しました。
「パパ、今日携帯電話から電話があったんだよ!間違い電話だったけど!」
父は携帯電話を受け取ると、私のことを不思議そうな顔で見つめてきたのです。
「うん?そんなはずないよ…この携帯電話は10年近く前に解約したものだからね。電源も入らないし、もう使わないから押し入れに入れてあったんだよ」
私は何度も間違い電話があったことを説明しましたが、家族は誰も私のことを信じてくれませんでした。
今考えてみると、確かに「おかしいところ」ばかりです。
当時の父は、自分の携帯電話を肌身離さず持っていたし、今使っている携帯電話を押し入れの奥にしまっておくわけがありません。父が嘘を言ってごまかしているようにも思えませんでした。
それに私は、どうして2階の押し入れにある携帯電話の着信音が聞こえたのでしょうか。
客間と両親の部屋はかなり離れており、当時の私は大きな音でテレビゲームを遊んでいました。そのような状況だったにもかかわらず、着信音の鮮明な音が耳の中へ入ってきたのです。
そして…あの女の人は誰だったのでしょうか。
あの携帯電話は今でも実家の押し入れに眠っているそうですが、私は再び押し入れの中を開ける気にはなれませんでした。