空の女王
Side 峯岸
魔素の噴出口に身を投じる。すごい勢いの魔素の噴出に圧力と暑さを感じつつ、空へと舞い上がる。
ちょうど自分の加速度がゼロになったところで背中のグライダーを広げて風を受ける。
上空から見ると雲仙岳にいるほかの探索者やモンスター達が一望できる。
小さく見える探索者を空に上がって見渡すと、私はなんでもできる気がする。
今まで私の真似をしようとした人間はいたが、正確に噴出するタイミングを掴む勘所がわからなかったり、この魔素の濃い山でのグライダーを操ることができなかったりで敵ではなかった。
この雲仙岳に置いて私が「空の女王」と呼ばれホルダーになることができた所以だ。この技で二年連続雲仙岳のタイトルを獲ることができた。
チーム、スプリングスの仲間の唐崎と兵藤の二人が二人は硬度の高いジュエルビートルの外骨格を加工したアーマーを着て、地上でヒッポグリフを牽制している。
あの二人は身体強化魔法による耐久力向上しか能がないが私の言うことに忠実なので使ってやっている。
ヒッポグリフは前半身が鷲、後半身が馬の大型のモンスターで、下には警戒心が強いが上空には警戒が甘い。唐崎と兵藤がヒッポグリフの攻撃に耐えて、注意を引いているところに私が上からの魔法攻撃を加える。これが黄金パターンだ。
「ファイヤランス」
突然の上からの攻撃に戸惑うヒッポグリフ、周りを見渡そうとするヒッポグリフに地上の二人が魔法と槍で攻撃を仕掛けて注意をそらす。
そこに再度魔法を放つ。
地上と空中の連携で仕留めにかかったが、後一歩のところでグライダーの高度が足らなくなり上からの攻撃が途絶えて逃げられてしまった。
残念ながら次の魔素の噴出を待たないといけないが、この連携で何匹かは仕留めることが出来るだろう。
この千成における今回の敵は自衛隊の御法川だろう。前回もあの警戒心の高いヒッポグリフの一瞬の隙をつき、「爆炎斬」で何匹かを仕留めていた。
周囲を警戒しつつ上空に舞うためのポイントをさがす。
次の噴出口はあそこだろう。肌にひりつく魔素の感じで噴出する兆候がわかる。
?!
その先でヒッポグリフが墜落していく。
なにあれ?
目の前では自分の滑空とは異なり、背中に背負った羽根を使って完全に飛行している探索者がいる。
確かあれは新参のホルダーランドリーズだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
雲仙岳一週間前
「じゃあ順番に試してみますか。じゃあ言い出しっぺの俺から。」
瞳ちゃんに作ってもらったバックパックを背負いスイッチをいれる。スイッチとともに風が噴出し身体が徐々に浮き始める。
パックパックには魔法回路が組み込まれていて魔石の魔力を使い風の魔法で風を発生し、土の魔法を使って重力を弱めている。それによって使用者は空に浮くことができるそうだ。
当初の俺の意見では風を出してヘリコプターのように浮き上がるというアイデアであったが、瞳ちゃんの改良で別物に進化している。
人の体を持ち上げるような魔法を使えば、普通なら魔石の魔力を程なく使い切ってしまうが、使うたびに周囲の魔素を取り込む充魔装置を入れることで、連続した運用を可能にした。
浮いてみると意外とこれは、一箇所に留まるのが難しい。細かな修正は魔法で風を起こして自分で行う必要があるが、一処に静止がでにずになんとなくゆらゆら動いてしまう。
なにかお尻のあたりもこそばゆい。
それでも自分で風を制御して動きを確かめる。なかなかに動けるように飛行が形になってきた。そこで浮きながら自在棍を伸ばして構える。
用意しておいた巻藁で作った的に、滑空していき一撃を加える。
バスッ!
一応当たったが完全な手打ちで体重が載せられてない。
「空中じゃあ「縮地」も使えないし、これじゃあ伸び切ったうどんですね。俺には無い方がいいかも。」
「どういう意味だ?」
ミシェルさんが怪訝な顔をしている。
「コシの入ってない一撃しか打てないってことです。」
二人に沈黙が流れた。
唐突に閃いたように、手を打った瞳ちゃん。
「攻撃に腰が入ってないから弱いってことを、伸びてコシのがなくなったうどんとかけたってことですね。
おもしろいですね。」
瞳ちゃんのフォローが悲しい。
「じゃあ気を取り直して私がやろう。」
ミシェルさんが何事もなかったように自分のパックパックを背負う。
ふわりと浮くミシェルさん。ふらふらと定まらず、位置の固定に苦労している感じだ。常に船の上で大きめの波に揺られているような状況だ。
「ミシェルさん。試し撃ちしてみますか?」
瞳ちゃんが魔法回路を描き、土核からいくつかの石の的を作り出す。
「行くぞ。」
ミシェルさんがアサルトライフルから弾を撃ちだす。一発ごとに反動で揺れており制御が大変そうだ。でもさすが、全てど真ん中というわけではないが、弾は全て的に当たっている。
「すごいですね。少し命中精度は下がってるみたいですけど空中から狙えるのはメリット大きいですよ。」
揺れながらも地上に降り立ったミシェルさんが、ぐらりと体制を崩した。
「どうしたんですか?」
急いで駆け寄る。
「ウッ!
酔った。気持ち悪いからちょっと横にならせてくれ。」
ミシェルさんも無理だったかぁ。
「じゃあ私がやります。」
瞳ちゃんはパックパックを背負うとひらりと翔ぶ。
綺麗な風の魔法による位置調整で安定した飛行だ。三人の中でダントツにうまい。
「瞳ちゃん。これで風と水の魔法で光学迷彩やったらどうなる?」
瞳ちゃんの姿が薄まったと思うとほとんど見えなくなる。
「すごいな。」
驚くミシェルさん。
「そこから魔法って撃てる?」
「はい!」
何も見えないところから返事だけがくる。
「ファイヤランス」
炎の槍が的に当たって砕け散る。
しかし同時に瞳ちゃんが姿を表す。
「なにこの威力?ものすごく強力になってない。」
「はい。グラント博士との話を元に回路を改良しました。
ただ魔法を打つ時、見えてましたよね?
魔法を打つ際の魔素の乱れで制御が甘くなるせいか、光学迷彩は同時にはできなかったです。」
「そこは仕方ないな。
しかしこれは強力だそ。」
確かにミシェルさんの言う通り、これなら雲仙岳の「空の女王」にでも勝てる。