下呂ワンダーランド_2
午後再度合流した倉田さんとアトラクションを回る。午前の説明を思い返すと、下呂ワンダーランドはエントランスから続く大きな中央エリアがあり、そこにレストラン、工房や装備のレンタルスペースなどがある。
また4つのアトラクションエリアが中央エリアを扇状に囲んでいる。
アトラクションエリアはそれぞれ
•スライムフォレスト
•スカイラン
•鬼火屋敷
•スケルトンケイブ
に分かれている。
まずは、スライムフォレストだ。
飛騨川周辺の森で発生するスライムをゲストが銃で撃つアトラクションになっている。
銃は三種類ハンドガン、アサルトライフルとショットガンをゲストは無料で借りられるが、有名探索者の持っている銃のレプリカを購入して使うこともできる。
本来探索者が使うものは自らの火属性と土属性魔法を組み合わせて弾を発射、制御しているが、遊戯用のこれは一般人用なので魔石のエネルギーを使ってパチンコ玉大の土玉を発射している。
今日働いている担当スタッフに自己紹介をし、お試しということで、瞳さんと二人でやってみることとなった。1グループにつき案内スタッフが1人着くが今回は倉田さんだ。
俺はハンドガンタイプ2挺。ヒトミさんはアサルトライフルタイプを選んだ。
「お!アキラ君、ツインガンナーって感じだね。」
倉田さんも十勝岳のタイトルホルダーのツインガンナー谷口を真似して2挺持ちにしたのを気づいたみたいだ。
「わかります?この前のタイトル戦カッコ良かったですもんね。」
「僕も見たよ。あれからゲストも2挺持ちする人多いよ。
じゃあ準備できたら行こうか!」
倉田さんの案内に従って薄暗い森を進む。
薄暗いけれど、道はうっすらと蛍光していて迷うことはなさそうだ。
と、木の枝の上に水色のスライムがいるのが見える。
ジェルチャーで俺から攻撃することを伝え、2挺時間差でハンドガンを撃つ。
「ダダン」
放たれた弾は2発ともスライムに命中し、スライムが飛び散った。
飛び散った先にはキラリと光る小さな魔石が転がる。
お!これは楽しいかも。
この魔石はほとんど価値のないクズ魔石だけど持ち帰れるとのこと。またここの工房で加工することもできるらしいので、もったいないし回収しておこう。
次はスライムが2匹出てきたが今回は瞳さんにやってもらおう。スライムはこちらに気づいたようでじりじりと近づいて来ている。
瞳さんの発射せた弾は大きく外れてしまった。それに焦ったようだが徐々に照準も近づいていって2匹とも倒すことができた。
次の木立に囲まれた場所はスライムがたくさん囲んでいるようだ。
「ここは2人でやってみよう。俺が前で後ろから援護してもらってもいいかな?」
瞳さんもうなずき、俺が一歩前にでる。
全方位から近づいてくるスライムを回転しながらの連射で片付ける。時々樹上から襲ってくるスライムの処理も忘れない。
瞳さんは距離感が掴めていないのか1射目は外すが、何回か撃って仕留めている。
前しか見えてないのか、頭上からスライムが狙っている。
「上気をつけて?」
かけられた声で気づいたようだか、焦って撃ちまくっている。逃げながら撃つので狙いがめちゃくちゃだ。そのうちの一つが俺の眉間に向かっている。咄嗟に身体に魔力を通わせ、身体強化することで、避けながら手で弾を掴む。薄い魔素とはいえ多少は強化可能なようだ。
握った瞬間土でできた弾は脆く崩れ去った。強化してなくてもデコピンぐらいの威力ではないだろうか。
「誤射しても大丈夫だということを示すために、後で威力を試してもらおうと思ったけど必要ないかな?」
倉田さんが苦笑している。
「ごめんなさい。大丈夫ですか?」
半泣きで必死に謝る瞳さんの横で倉田さんが呟く。
「しかしアキラ君の身体能力はすごいな。レプリカとはいえ素手で掴むなんて•••」
気づいたけど、ここのスライムは下呂一帯の極低濃度の魔素から生まれているため、強度がものすごく弱い。過去に研修で行った魔山のものとは似て非なるもののようだ。
近づいて触ってみたが、ゼリー並の強度で簡単に握り潰せるし、腕に取り付かせてみても多少の日焼け程度のヒリヒリ感しか感じない。
これなら子供でも安全なようだ。
次はスカイランだ。高層ビル群の屋上を見立てたセットをアスレチック形式で駆け抜ける。
ボンダリングの要領でビルを登り、ビルの間をジップライン、雲梯、一本橋を駆け抜ける。
個別の練習をした後は、一周をタイムトライアルできる。
ここでの売りはゲストは専用のスーツを着ることで、魔法の身体強化に似た補正を体感できる。
スーツの首の後ろに魔石がセットされ、スイッチを入れると身体の動きをスーツがアシストする。
スーツを試しに着てみたが、思った以上肌にピッタリとした着心地だ。
女子更衣室で着替えた瞳さんはモジモジしているので、なるべく横目でチラ見してみる。
ゆったりとしたスタッフのジャケット越しではわからなかったが、なかなか出るとこ出てて良い曲線をしている。良いものを見た。
「イメージとして、能力は1.5倍ぐらいにはなるよ。測ってみると50メートル走が7秒で走れる人が5秒切れるようになる感じ。」
倉田さんは慣れているのか気にせず説明してくれるので、お互い照れなくて済んだ。
スーツ着て動いてみた後は、タイムトライアルを試してみることになった。
試した感じ身体強化をしたときの身体内部を強化しているのと違って、外からアシストされるのはやっぱり勝手が異なる。
「だいたい男性は3〜4分、女性は4〜5分ぐらいで回ってくるかな?
最高記録はスーツ着用で2分36秒、それ以外だとB級探索者の人が試してみて1分40秒だったよ。」
走りながらスタートボタンを押す。腰程の高さの障害を連続で飛び越える。なるべく障害毎に上半身が上下しないように意識する。ボルダリングでビルを登り、ビル間の一本橋を駆け抜ける。雲梯は一個飛ばしで渡り、煙突の飛び石もジャンプ超えた後は、ジップラインを一気に下る。
ラストの直線50メートルを駆け抜けてながらゴールボタンを押す。
2分45秒!
でもこれなら、、、
「悔しいので、もう一回やってみてもいいですか?」
「?!、じゃあ名瀬さんの後やったら?最高記録目指してみる?」
「はい!」と返事をしながらスーツのアシストをオフにする。
瞳さんも一生懸命走っているが、一本橋で苦戦している。バランス感覚が弱いのか?それとも眼鏡の焦点があってないのかな?
タイムは4分35秒。
「次は自前でやってみます」
スーツはオフのまま身体強化する。魔素を身体に巡らすイメージだ。
スタート!
最初の障害は上を飛んで渡る。ボルダリングは手で掴んだ瞬間に腕と足を集中強化、足元の取手を蹴ってジャンプし、その先の取手を掴む。2回の跳躍で上に登り切る。
一本橋は無視し、強化した足に力を込め、上をジャンプで飛び越えて、雲梯に渡る。ジップライン後も、そのまま勢いを殺さず駆け抜ける。
1分35秒!
おっと、最高記録を達成できたようだ。
反応がないので倉田さんと、瞳さんを見ると、ともに半分口が空いている。俺が戻ると気づいたように、
「すごいな!」
「アキラ君すごいです。」
と声をかけてくれた。
「最高記録更新できてよかったです。身体強化魔法だけは得意なんです。逆にこれ以外は苦手なんですけどね。」