第60話 共学と男子校と
7月6日の月曜日の朝。
「東西と東津の違いってなんだろう?」
早いもので編入してもう1週間が経つ。すっかり定位置になった座席に座りながら、隣の真澄に問いかける。
「どうしたんや。やぶからぼうに」
「何かあるわけじゃないけどさ」
と前置きをする。
「僕らは、共学化のモデルケースとして来てるわけだよね」
「そやね」
「東西が共学化したときに、どこが問題になりそうかなって」
もちろん、色々共学で新鮮なことはあったけど、どの辺りが問題になるかというと、なかなか思い浮かばない。
「共学化しても、女子はたぶん少しだろ?その辺りが問題になるんじゃねえか?」
と後ろから答えたのは正樹。
「男女比率か。なるほど」
確かに、数年後の共学化を目指すとして、いきなり男女同数というわけにはいかないだろう。女子はクラスで数人といったところか。それで思いつくところと言うと…
「男子による女子争奪戦、とかかな?」
「ありそうだな。それ」
こっちに編入してきて実感したのだけど、男女が同じくらい居ても、男子だけの場になると、お前は誰狙いだとかそういう会話がよく聞こえてくる。
「男子校のノリはわからんのやけど。それやったら、女子連中は固まりそうやね」
「わかるわかる」
と真澄の意見。確かに、こっちでも、仲が良い男子がいない女子は女子同士でグループを作っている印象だ。
「というか、体育はどうするんだろう?」
こっちは体育は男女別だけど、数人の女子のために別の授業をするのだろうか。バスケやバレーとか人数が必要なスポーツはつらそうだ。
「女子だけ、学年で合同とかやない?」
「そうなるのかなあ」
一クラスだけだと人数が足りないのだったら、そうなりそうだけど。
「真澄の立場ならどう?周りがほとんど男子のとこに入学するとしたら」
「うーん。せやな……」
腕組みをして考える真澄。
「視線は気になるかもなあ」
「視線?」
言っていることの意味がよくわからないので、問い返してみる。
「ウチらの立場からすると、男子の視線って気になるもんなんよ。顔はともかく、胸とか太腿とかな」
「僕、そんなに見てたっけ?」
普段、そういうところを見てた覚えがないのだけど。
「コウはおいといてな。普通の男子はって話や」
「まるで僕が普通の男子じゃないみたいな言い方だね」
そこは強く抗議したい。
「東西でも、コウは下ネタとか、女子がどうとか、食いつき悪いよな」
「正樹まで!?僕だって健全な男子高校生なんだけど」
まるで、僕が仙人か何かのような言い様だ。
「そういうのがコウのええところやから」
真澄にポンと肩を叩かれて、諭される。
「褒められてるのか、けなされてるのかわからないんだけど……」
納得がいかない。
「コウがずっとウチにアプローチしてたのに気づいてなかったって話あったよね」
「うん。毎月少なくとも2回は遊んでたと思うよ。それで気づいてくれないんだし」
昔の話だけど、やっぱり真澄が天然だったからだと思うんだけどな。
「コウは凄いあっさりしとったんよ。ウチも、意識してもらおうと思て、時々肌を強調する服とか着たんやけど、無反応やったし」
じと目でそんなことを言われる。
「いやいや。それは僕にも言い分があるよ。可愛いとは思ったけど、どう褒めればいいかわからなかっただけでさ」
思い返せば、いつもと違う服を着てるなと思う時は度々あったけど、自意識過剰かと思って言い出せなかっただけなのだ。
「それはもうわかっとるよ。ウチが言っとるのは視線の話」
苦笑いをしながら、そんなことを言う真澄。
「そこがよくわからないんだよね」
「たとえばや。今、コウはどこを見とる?」
「うん?真澄の目を見てるけど」
目を見て話すのは普通の事だと思うんだけど。
「コウはそうやろね」
「普通の男子は違うってこと?」
「男子連中、話しながらも、胸とか太腿とか、そういうとこに視線行っとること多いんよ。露出多い子やと特にな」
初めて知る事実だ。
「コウは、視線が全然反応せえへんかったからな。やから、ウチとは昔馴染みとしての好意から付き合ってくれとるんかな、てよく思っとったよ」
懐かしそうに語る真澄。
「それはごめん」
そんな意外なところで誤解があったとは。
「別に謝らんでええけど。コウがそういうんやったから、ウチも好きになったんやし」
「そ、それはどうも」
唐突にそんなことを言われ、顔が熱くなる。
「お熱いのは結構だけど、脱線してるぞ」
正樹の言葉で、真澄も気がついたのか、頬を赤らめて俯いてしまう。
「そ、それでや。話戻すとな、男子ばっかやと、女子はやっぱ視線が気になるちゅう子はいるんやないかな」
「なるほどねえ」
視線、というのは完全に盲点だった。考えてみると、付き合ってからも、服とかをあまり褒められていない気がするのも、そのあたりに原因があるのだろうか。
「あとさ。クラスに女子が4人とか居ればいいけど。1人とかだったら、かなり気まずくねえか?」
と正樹。
「すっごい気まずそう。男子一人が女子の園にってのはよくお話であるけどね」
「主人公がそれでモテモテとか、女装してとか、よくある話やな」
「主人公はよく気まずくならないなーってよく思ってたよ」
女子の園に男子が一人とか、普通に考えるとかなりつらいよね。
「それが男女逆になるわけやから、女子にしてみれば気まずいやろな」
「納得」
その後も、共学化したときのことを延々と話していたのだが、結論として。
「男子はともかく、女子の方がつらそうだよね」
「せやな……」
ということになったのだった。東西が共学化するのは、僕たちが卒業した後だけど、ちゃんとやっていけるのかな。そんなことを思ったのだった。




