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オカンな幼馴染と内気な僕  作者: 久野真一
プロローグ 友達以上恋人未満
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第3話 男子校の日常

 自転車を漕ぐこと、約15分。

 そこに、僕の通う、私立東西高校があった。

 

「ほな。また後でな」

「ああ、うん。また後で……後?」


 ひょっとして、帰りも一緒に、ということだろうか。

しかし、そのことを聞くのもなあ。


 そう思いながら、自転車を駐輪場に停める。校舎の入り口に立ちはだかっているのは、歴史の八重垣先生だ。歳は聞いたことがないけど、たぶん40代じゃないかと生徒の間では噂されている。


 時間に厳しいことで生徒に有名で、1分でも遅刻したら、容赦なく生徒手帳に遅刻の☆を増やしていくので、鬼の八重垣と呼ばれて恐れられている。幸い、今日の僕は遅刻していないので、そのまま校舎に入ることができた。

 

 僕のクラスである2-Fは、校舎を上って、右の端っこにある。左から、A、B、C、D、E、Fだから、Fが端っこというわけだ。


 2-Fの教室に入って、席に着席する。

 すると、前の方でだべっていたグループの内一人が僕の方に歩いてくる。


「おはよう、コウ」


 そう陽気に声をかけてくるのは、篠原正樹しのはらまさき。実は小学校の頃からの同級生で、僕と一番仲がいい友達の一人だ。


「おはよう、正樹。何喋ってたの?」

「最近出た新作ゲームの話だよ。CMやってただろ」


 CM……新作ゲーム。それで、納得がいった。


「ああ、グ〇〇ルの話かな。僕はちょっと微妙かな……」


 最近、TVでCMがやっているスマホゲーのRPGだ。


「ゲーム性も何もあったもんじゃないからなあ。俺も正直好みじゃないんだよな」


 僕も正樹もゲームをよく嗜む方だけど、キャラありきでゲーム性がないものはあんまり好きじゃない。そんなところも、いつもつるんでいる要因なんだろうけど。


「昨日だけど、どうだったんだ?」

「どうって?」

「誤魔化すことはないだろ。中戸とのことだよ」


 正樹も小学校の頃、僕たちと一緒だったので、真澄のことは多少知っている。

 苗字呼びの辺り、親しくはなかったみたいだけど。


「正直なところ、意識されてないかな」


 意識されてたら、露骨にデートですっていうのに何度も誘われておいて、反応がないってこともないだろうし。


「一番親しいおまえが言うならそうなんだろうけど……」


 含みのある台詞だ。


「何か言いたそうだね」

「脈がない男の誘いに何度も乗るかなって。俺も男子校組だから、わからんけどな」

「真澄にとっては、弟みたいなものじゃないかな」


 そうあって欲しくはないのだけど。


「弟ねえ」


 胡乱そうな表情で正樹が言う。


「正樹のところも、弟いるよね」

「ああ。正直、生意気ばかり言って、可愛いなんて言えたもんじゃないけどな」


 渋い表情でそう言う。一人っ子の自分にはわからないが、そういうものだろうか。


 雑談をしていると、いつの間にかチャイムが鳴って、ホームルームが始まった。

 あたりさわりの無い日々の連絡を終えて、担任が退出していく。


 授業の最初は、日本史だ。鬼の八重垣こと八重垣先生が担当の教科だけど、わかりやすい解説に定評がある。ちょうど今は室町時代を扱っていて、教科書だけではわからない色々なことを独自のプリントを用いて説明してくれる。


 よく、朝から放課後まで授業を寝て過ごす、なんて生徒が主人公の学園ものがよくあるけど、うちでは、そんな光景を見かけることはほとんどない。


 そんなこんなで、気が付けば昼休み。

 学食でも食べに行こうかと思っていると、SK〇PEの通知が来ていた。

 僕たちが中学に進学する頃、二人でメッセージ交換するための、アプリを使おうということになったのだけど、皆が使っているL〇NEじゃなくて、何故か、SK〇PEを使おうと真澄が言い出したのだった。

 曰く、スタンプは媚を売るみたいで苦手らしい。


 SK〇PEのアプリを開くと、真澄からのメッセージが届いていた。


『忘れてたけどな。お弁当、コウの鞄に入れといたから。食べといてーな』

「え?」


 思わず声が出ていた。

 お弁当を作ってくれてたこともだけど、鞄になんていつの間に。


「おーい。学食行こうぜ。ってどうした?」

「……」

「おーい」

「ごめん。何だって?」

「学食行こうぜって話。なんかあったのか?」


 少し迷った末、真澄からのメッセージを素直に見せることにした。


「……あのさあ。一言言っていいか?」

「どうぞ」

「これで、脈がないって無理あるだろ」


 正樹は少し興奮気味だが、言いたいことはわかる。


「だよね。弟みたいな相手に、これはないだろうって思うんだけど」

「だよな」


 正樹が同意する。


「ただ、天然という可能性も捨てきれないんだよね」

「コウの方からアプローチかけてるのに、妙にまわりくどいしな」

「僕は天然説を推したい」


 思えば、「気があるわけじゃない」といいつつ、僕からのアプローチには気づいてなかったような気もするし。それはそれで、恐ろしいのだけど。


「おまえも苦労するな」

「ありがと。昼ご飯だけど……」

「ああ。愛妻弁当を堪能しな。俺は独り学食で寂しく食べてるよ」

「愛妻弁当って」


 どこかやさぐれた様子の正樹を見送る。

 さて、肝心の弁当はどんなものか。


 円形の弁当箱を開けると、そこには、見事なまでに完成された「お弁当」があった。1/4が白米。1/4が野菜炒め。1/4が焼き鮭、1/4が卵焼き、と、綺麗に整理されている。小学校の頃も、真澄は料理ができる方だったけど、さらに腕を上げてきている気がする。


「いただきます」


 そう言って、弁当を味わう。うん。美味い。朝は洋食だったけど、昼は和食で、と、どっちも隙がない。


『どやった?』

『美味しかったよ。ありがとう』

『ほんまに?ほっとしたわー』


 誰かがこのやり取りを見たら、絶対にカップルだと思うだろうな。


 こうなると、いよいよ、天然説が現実味を帯びてくるな。

 いや、天然とかいう風に考えるのが、そもそも間違っているような気がしてきた。


 そんなことを考えつつも、好きな女の子の手作り弁当を味わえる幸せを噛みしめるのだった。

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