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男がか弱きこの世界で  作者: 水無月涼
三章 東洋の国
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三章34話 本当の目的

 探し求めていたシロウの妹、ミアを連れ、本土へと帰った俺たちは、空がうっすらと青さに染まっていく中、シロウの家へと帰宅する。

 闇へと消え去る帆船を追い掛けて船を漕ぎ、死闘を繰り広げ、休める時間など片時としてありつくことの出来なかった俺たちは、皆疲労困憊としていた。

 誰も彼もが家に踏みいるや否や壁に背中を預け、床に突っ伏し、まるで催眠術にでも掛けられたかのように、次々に瞳を閉じて寝息を立て始めた。



 「ん……ぅッ…………」



 眠りに着いてから数時間。

 全身に重くのし掛かる痛みに、良いとは言えない寝覚めを迎え、俺は顔をしかめながらゆっくりと体を起こす。



 「……起きたか」



 すると、徐々に明瞭さを増していく耳にはシロウの声が響き渡る。

 声の方向に視線を向けると、そこには食事の準備をするシロウの姿があり、回りを見渡せば、既に目を覚ましていたらしいレンやクレアがシロウを手伝っている姿がそこにはあった。



 「おはようございます、シンジくん」


 「おはよう」



 クレアの快活な笑顔が寝ぼけ眼を覚ますかのように、俺は自然と笑みが溢れる。



 「シンジ、もうすぐ朝食……いや、昼食が出来上がる。ミアを起こしてやってはくれないか?」


 「あっ、はい。わかりました」



 食器や飲み物を用意するレンに従い、俺はスヤスヤと寝息を立てるミアを揺すり起こす。

 そうして、俺たちは家族であるかのように食卓を囲い、一日振りともいえる食事にありついた。


 食事を終え、後片付けをし、食卓を綺麗な状態へと整え、そこでようやく一息を吐く。

 すると、昨夜の疲れが残っていることもあってか、腹も満たされた状況で腰を落ち着かせると、皆平和に身を委ねるように、穏やかな表情を浮かべながら全身の力を抜いてくつろぎ始めた。



 「……ミア」



 ただ、そんな中で唯一、シロウだけはまだ戦闘の最中であるかのような、気迫ある表情を浮かべていた。

 静かでありながらも、たった一言で空気を変えるような声音で、シロウは眠たげに欠伸をするミアへと声を掛ける。

 すると、落ち着き始めた俺たちも皆、呼び掛けられたミアと共にシロウへと視線を集める。



 「……嫌なものを思い出させてしまうことになるとわかっていながらこれを聞くのは悪いとは思っている。ただ、聞かせて欲しい。あの日、連れ去られてから今日に至るまでの間にどういうことがあったのかを。ミアを連れ去ったのはセンドウだろう? やつは何のためにミアを連れ去ったりしたんだ? そのことについて、何か話していたりはしなかったか? それの他に、ミアと同じように連れ去られたやつらはどこに連れ去られたか覚えているか?」



 シロウは申し訳ないという意思を訴えながらも、揺るぎない表情でそう問いを投げ掛け、真剣な眼差しをミアへと注いだまま口をつぐんで回答を静かに待つ。

 投げ掛けられた問いに、ミアは過去を省みるように俯きがちに考えると、頭を整理するかのように一度瞳を閉じ、次に瞼を持ち上げた時にはシロウと同じような真剣な眼差しを以て兄を見返す。



 「……捕まってから逃げ出すまでずっと、船倉に閉じ込められてたんだけど、ミアの他に連れ去られたような人たちはどこにもいなかったよ」


 「「「ぇっ……?」」」



 そうして次の瞬間、ミアから紡がれた言葉を耳にした俺たちは皆、息を揃えて疑問符を唱えた。

 誘拐の噂は確かなものとして存在し、それは町中に広まっているものでもある。

 それにも関わらず、誘拐されたと断定できるものの姿がミア以外にいなかったというのはおかしな話だった。



 「……本当にいなかったのか?」


 「うん……近所で見掛けた人が船で作業をしているところとかは見たけど、ミアの他に閉じ込められている人はどこにもいなかったよ」



 ミアから更なる正確な情報を開示され、混乱し始めていた俺たちの頭には、より大きな混乱が招かれていた。



 (船で作業ってことは、やつらの仲間になったってことじゃ……いやでも、それなら何で誘拐なんて噂が……?)


 「嫌なことは……あっ、あんまりご飯を食べさせて貰えなかった。他には……それくらいかな。船にいた人たちは基本的に、誰もミアと関わろうとはしてこなかったし……すっごく困るっていうことはあんまりなかった気がする」



 そんな中、ミアは俺たちの様子を気にすることもなく問いに答えていく。

 だが、誘拐された人々がいないということに混乱したままの俺たちの耳には、ミアの言葉はろくに届いてはいなかった。



 「あとそれと、船から逃げ出す時にあの人とすれ違ったんだけど、あの人、ミアを追い掛けようとしていた人にこう言ってたよ。万が一にもシロウが死ななかった時のためにも放っておきなさい、って……あの人、ミアが逃げるのを止める気がなかったみたいだし、むしろ都合が良いって言ってるような感じだった」


 「……ッ! そうか、そういうことか……」



 しかし、次に紡がれた言葉を耳にした瞬間、シロウは何かに気が付き、恐ろしいものを見たような様子で目を見開く。



 「……どうした? シロウ。何かわかったのか?」


 「ああ。昔の言葉を思い出して、センドウたちの企みが全てわかった。やつらは人を拐うことが目的などではない。やつらの本当の目的は、この国を落とすことだ……!」


 「「「……ッ!?」」」



 人を拐って売り捌くことでも、人を殺して楽しむことも目的ではない。

 そんな二つとは比べ物にならないほどの壮大な計画が企てられていると、シロウは強く言い切る。

 そんな言葉を耳にし、衝撃に撃ち抜かれた俺たちは返す言葉も見つからず、皆一様に言葉を詰まらせた。

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