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男がか弱きこの世界で  作者: 水無月涼
三章 東洋の国
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三章19話 山に佇む大屋敷

 半時程の時間を掛けて島の外周を半周し、船影が船を止めた場所とは正反対の場所へと船を着けた俺たちは、船が波に拐われぬよう砂浜へと船を引っ張り上げる。



 「よし、これで大丈夫だろう」



 四人が四人とも僅かに乱れた呼吸の音を響かせる中、何事もなく上陸出来た現状にシロウは一息吐く。

 しかし、その安堵の様子も束の間、シロウはすぐさま鋭い視線を辺りへと配り始め、敵地にいるという現状に強い警戒心を張り巡らせ始めた。



 「……この辺りに人はいないようだな」


 「船を引き上げる間に襲われることもなかったし、どうやらそうみたいだな」



 全員の呼吸も落ち着き、シロウの緊張感の高まりに同調するように全員の顔付きは変わっていく。



 「どうする? シロウ。船が停泊した場所まで行ってみるか? それとも、山の中にあった光の場所まで山を登ってみるか?」



 シロウの横へと立ち、レンは声を抑えながら問い掛ける。

 俺たちが降り立った場所には木が鬱蒼と生い茂っており、リゼたちを乗せた船が停泊した場所から見えた光は、ここからは確認出来ない状況となっていた。



 「……まずは光の正体を突き止めよう。もし、仮にそれがやつらの隠れ家だとすれば、船を確かめに行くのはただの無駄足になる可能性がある……いや、むしろ警備の目に見つかるようなことになれば、無駄よりも悪手である可能性もあるからな」


 「ん、わかった」



 レンはシロウに方針を委ね、その言葉に小さく頷く。

 そして、俺たちは皆動きを合わせ、道の姿なき眼前の山を見上げる。



 「では行くぞ。罠がないとは限らん、周囲にも足元にも常に警戒は怠るなよ」



 そんな山への第一歩をシロウへと先頭にして踏み出し、俺たちは木々で月光の届かぬ山の斜面を一歩ずつ、慎重に歩み始めた。


 吹き寄せる風に木々はざわめき、その多くの声によって俺たちが静かに立てる足音は掻き消される。

 俺たちにとっては都合の良い雑音ではあるが、それは警備で見回るものたちにとっても同じように言えること。

 四人で固まり歩く俺たちは、近づく明かりがないか、俺たち以外の足音が響かないか、忙しなく視線を動かし、視線とは対照的に耳を研ぎ澄ませる。

 ただ、俺たちの強い警戒とは裏腹に、危険を感じるような状況が訪れることは一向になかった。

 頭上に広がる空の暗さに何の変化も訪れぬまま山を登り続けた俺たちは、終にはその頂上へと辿り着き、そこでようやく目標としていた光の姿を視界に納め、先頭を進んでいたシロウはそこでようやく足を止める。



 「見つけた、あそこだ……!」



 頂上から見下ろす景色には、山の中にあるものとしては異質な空気を放つ大きな屋敷が建てられていた。

 山の中腹に出来た平坦な場所に建てられたそれは、縦に並ぶ窓から見ても三階建て。

 横に広がるその大きさは、ただの別荘というにはあまりにも大きく、ある種、城と評せる程のものだった。



 「数人ですけど、見張りがいるみたいですね」


 「ああ、そのようだな」



 そんな建物のすぐ側に、歩く速度でゆっくりと動く火の光を俺は捉え、建物へと注意が向いていたシロウたちの目をそこへと引き付ける。



 「……放っておこう。やつらに構っている内に守りを固められては侵入すら難しくなる。気付かれぬよう建物に近付いて、窓から侵入するぞ」



 すると僅かな間を置いて、その姿に静かに視線を注いでいたシロウはどのような対処をするかを取り決めた。

 その言葉に俺たちはこくりと頷く。



 「わかった、それでいこう」



 そして、レンの一言を皮切りに、俺たちは斜面に足を取られぬよう細心の注意を払いながら、眼下で待つ建物へと向かって下山を開始し始めた。


 登山に比べ、より注意を払わねばならない下山に、俺たちの足には力が入る。

 足を進めるにつれ近付く敵との距離に、慎重さがより強く求められ、落ち葉を踏み締めることすら避けることを求められ始めていく。

 しかし、どれだけ慎重に足を進めようとも見張りが近付いてくるのを押し止めることなど出来ることもなく、その距離が目前に迫る度、俺たちは木々の影に身を潜めて彼女らが過ぎ去っていくのを息を殺して見守っていた。

 そうして距離に見合わぬ多くの時間を費やし、俺たちは見張りが過ぎ去った後に建物の壁へと身を寄せる。



 「ところでシロウさん、窓から侵入すると言っていましたが、おそらく鍵が掛かっているはずですよ。それはいったいどうするんですか?」



 すると、予定通り窓を前にしたところで、クレアは声を抑え気味に、先程取り決めた方針についての問いを投げ掛ける。



 「どうにもしない、窓を突き破っていくだけだ。今この場で大事なことは敵に気付かれて守りを固められないようにすることだからな。侵入さえ出来れば後は混乱に乗じてどうとでも……ッ!」


 「「「……!」」」



 そんな問いに答えていた中、シロウは建物内を透かして見るかのように壁に振り返り、唐突に言葉を切って警戒を強めたシロウの姿に俺たちは一切に息を詰まらせる。

 何に警戒しているかもわからぬまま俺たちは身構え、耳を澄ます。

 すると程なくして、徐々に屋内からはこちらへと近寄ってくる声が聞こえ始めた。

 扉が開かれたらしい音が僅かに響き、聞こえていた声は大きくなる。

 そんな状況の中、シロウは静かに刀の柄に手を掛け、ゆっくりとそれを引き抜き始める。



 『じゃあ、一服入れたらすぐに行くわ』


 『わかったわ……すぐに来なさいよ?』


 『ええ、わかってる』



 中からそんな会話が漏れ聞こえ、扉が閉まる音の後に一つの足音が遠ざかっていく。

 そして、もう一つの足音がこちらへと近寄り、立ち止まった後、施錠を解く音が響くと共にガタガタという横にスライドさせる音を響かせながら、窓は俺たちを招き入れるかのように俺たちの目の前で開かれた。



 「ふっ……!」


 「「「……ッ!?」」」



 そしてその瞬間、待っていたと言わんばかりに、シロウは力を込めながら窓の先へと抜いた刀を勢いよく突き出した。

 俺たちは一瞬の迷いもないその行動に驚愕し、ただ目を見開いて固まる。

 壁の先からは手に持っていたのであろう何かが床に落ちて転がる音と小さな呻き声が響き渡り、全てを目にしていなくとも、壁を挟んだ先にいる人物が死んだということが感じられた。

 あまりの出来事に俺たちが言葉を失う中、シロウは突き出した刀を引き抜き、血にまみれたそれを振り払った後、鞘へと刀を納める。



 「よし、見張りに感づかれぬ内に行くぞ」



 シロウは何事もなかったようにそう言葉を紡ぎ、屋敷への侵入のために窓枠に足を掛けて身を乗り上げる。

 そんなシロウに続き俺たちが屋敷へと踏み入ると、窓のすぐ側には喉から血を垂れ流して動かない無惨な姿となった女が目を見開いて固まっていた。

 そんな倒れ付した女に目を背けながら俺は血生臭さを堪えて血溜まりを飛び越え、屋敷内へと足を踏み下ろした。

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