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男がか弱きこの世界で  作者: 水無月涼
三章 東洋の国
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三章18話 船影追走

 静けさに包まれる夜の中で、波の音が心地好く耳に響き渡る。

 港まで速度を保って駆け続けてきた俺たちは、港へと顔を出す手前で立ち止まり、乱れた呼吸を整えていた。

 そうしてある程度、全員の状況が落ち着いてきた頃、シロウは建物の影に身を寄せながら港の様子を確認し始める。



 「……どうやら、予想は的中したみたいだな。大きな船が一隻、出港の準備を整えている。先程、見掛けたやつの姿もあるようだ」



 僅かな間の後、俺たちへと振り返ったシロウは、声を抑えて目にした状況を言葉にした。

 それを耳にし、俺たちは一層緊張感を高める。



 「どうするシロウ? 乗り込むか?」


 「……いや、今からでは間に合わん。タラップも外され、帆も張り終わっている。ここで飛び出して見つかれば向こうの警戒心を高めるだけだ」



 港から目を離したシロウは俺たちへと向き直り、僅かに俯いて考え込み始める。



 「……小舟で後を追う。悪いが船を漕ぐのを手伝ってくれ」



 すると、数瞬後に顔を上げたシロウは、冗談を言っているとは思えない真っ直ぐな瞳で自らの考えを言葉にした。

 俺たちはあまりにも突飛な作戦内容に、すぐさま首を縦に振ることなど出来ず、言葉を詰まらせる。



 「ほ、本気で言っているのですか? 小さな舟で追い掛ければ、今が夜だということもあって気付かれる可能性は少ないでしょうが、あちらの船は帆船。たぶん、追い付くことなど出来ませんよ?」


 「大丈夫だ。幸いにも今日は風がほとんどない。追い付くことは出来なくとも、見失うほど差を付けられることはないだろう……おそらくだが、都へと向かったセンドウと繋がっている可能性や出港のタイミングから考えて、万全の準備が出来ていないことだろうから、国外にまで逃げることはないだろう。そうなると出港したやつらが目指す場所は、ほとぼりが冷めるまで身を隠しておくことの出来る近くにある無人島のはずだ。そのくらいの距離であれば小舟であろうと問題ない……それに、そこであれば拐った人々を隠しておくことも出来るだろうからな」



 クレアの問いに、シロウは揺るぎない瞳で冗談の類いではないという意思を露にする。

 そんな真っ直ぐな視線を前にし、今さら投げ出すことも逃げ出すことも選択肢にはない俺たちは、一つ深呼吸をして覚悟を決める。



 「わかった、それで行こう……だが、その肝心の船はあるのか?」


 「俺は持ってはいない。ただ、宛ならある。付いてこい」



 そんな俺たちへとシロウは付いてこいという仕草で招き、港へとは直行せず、甲板で監視に当たる者からは目に付かない小さな道へと駆け出し始めた。

 数瞬と小道を駆け続け、遠回りした果てに俺たちは港へと足を踏み入れる。

 海上をゆったりと進む船影は僅かに小さくなり、そこに船があると認識していなければわからなくなるのではないかという程、その影は闇夜に紛れつつあった。

 そんな中、目的の場所に辿り着いたらしいシロウは、波止場に繋ぎ止められた手漕ぎの小舟を前にして足を止める。



 「乗れ」



 そして、船を止めるロープを解きながら、シロウは一言そう言った。



 「友人のものか? 勝手に持ち出しても大丈夫なのか?」



 そんな言葉に従い俺たちが小船へと乗り込む中、レンは一抹の不安を投げ掛ける。



 「俺に友と言うべき人間はいない。これはどこぞのボケ老人のものだ」


 「なっ……!? 犯罪だぞ!?」



 すると、シロウから返ってきた答えは度肝を抜かれるようなものだった。

 俺たちは一斉にシロウへと視線を集め、驚愕のあまり口を開いて固まる。



 「借りるだけだ、持ち去るわけじゃない。そんなことよりも、とっとと船を進めるぞ。グズグズしていたら見失う」



 そんな俺たちに、シロウは何の感情もない視線をチラリと寄越し、腰を落としながらオールを手にする。

 その姿を前にしたレンは返す言葉もなく苦い顔をし、離れ行く船影を一度確かめた後、オールを手に取ってシロウと共に船を漕ぎ始めた。


 漕ぎ手を交代しながら海を渡ること数刻。

 少しずつ距離が離れていた船影の先には一つの島の影が現れ始める。



 「どうやら、あの島に向かってるみたいですね」


 「ああ、そのようだな」



 船影が真っ直ぐにその島へと向かっていく中、漕ぎ手を交代していた俺とクレアはオールを握る手を止める。

 島にある山の中腹辺りではうっすらとした明かりが灯っており、人の住める建造物があることが伺えた。



 「どうしますか? シロウさん。私たちも船を着けましょうか?」



 クレアはシロウの表情を伺いながら指示を仰ぐ。

 すると、シロウはその言葉にすぐさま首を横に振る。



 「いや、船に乗るものたち以外にも人がいる様子がある以上、真っ直ぐ島に接岸するのは避けたい。悪いが、島の反対側まで向かってくれ」


 「「わかりました」」



 俺とクレアはシロウの指示に同時に頷き、船を方向転換させて再び動かし始める。

 島内にいる人々や甲板で海上を警戒する人々に気付かれぬよう、島との距離を一定に保ち、大きな変化が現れぬか注視しながら島の外周を回っていく。

 そうして慎重に且つ先を急ぎながら、俺たちは島の反対側へと向かっていった。

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