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男がか弱きこの世界で  作者: 水無月涼
三章 東洋の国
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三章13話 目撃者を求めて

 記録の確認を終え、役人の元を後にした俺たちはゆっくりとした足取りで町を歩く。



 「すまないな。お前たちには関係のない事件だというのに手伝ってもらって。捕らえるまでとは言わん、件の輩、もしくはその組織の一員を見つけ出すまで力を借りるぞ」


 「ああ、問題ない。フェイ・ウィンリーという人物には私たちも因縁がある。それに、やつらの組織が私たちの知っているものより大きくなっている可能性もある。一人で全てをどうにかするのは厳しいところがあるはずだ。見つけ出すまでと言わず、最後まで付き合おう」


 「……感謝する」



 役人の元を去る前にシロウから告げられた請願に、俺たちは声を揃えて了承の意を告げていた。

 その理由はレンが告げたように因縁があるということも確かだが、それと同等に、シロウの話を聞いた後だったということもあったからだ。

 改めて行動を共にすることとなった俺たちはフェイ・ウィンリーの目撃情報を求めて港の方角へと向かう。

 その間、町ですれ違う人々からは昨夜の一件の話が度々漏れ聞こえてきていた。

 それを話す人々の表情は皆不安の色に染まり、噂と直近の事件の影響か、レンとクレアの見るからに外国人である二人への視線は昨日よりも厳しいと感じるものがあった。

 しかし、レンとクレアはそれを気にする様子はなく、俺たちは堂々とした様で港へと足を踏み入れる。



 「とりあえず、ここであれば異邦人を目にしている人々は多い。町で一人一人尋ねて回るよりかは多くの情報が集まるだろう」


 「それに、まだ出国していないので犯人が寄港しているところに出会す可能性もありますね」


 「特徴は細い目に、白くて長い髪の女ってところですかね?」


 「ああ、そうだな。もう一つ付け加えるとするなら、常に笑顔というところだな」



 いくつかの船が停泊する姿が見られる港には、漁から帰って来たのであろう人々が汗を流す姿が映る。

 そんな姿を一瞥しながら、俺たちは尋ねるに当たって提示する特徴を整理し、そして、腰を伸ばしながら汗を拭う漁師の元へと歩み寄り始めた。

 すると、歩み寄る俺たちに気付いた漁師の男は、レンとクレアの姿を一瞥するや眉を潜めて警戒を露にする。



 「仕事に励んでいるところ悪いが、少し話を聞きたい。時間をもらっても良いか?」


 「しがない漁師の俺に……? いったい何だってんだい? 漁を体験してみたい、なんていう遊び気分の話なら応じねぇぞ」



 漁師はレンとクレアへと疑惑の視線を向けながら、喋り掛けてきたシロウへと問い返す。



 「そんな話をしに来た訳じゃない。聞きたいのは人拐いの情報だ……噂が町に広がり始める少し前から今日に至るまでに、目が細くて、長く白い髪を持った常に笑顔の女を見掛けることはなかったか?」


 「目が細くて、白い長い髪の女……」



 そんな漁師へと、シロウは話し掛ける前に確認した情報を提示する。

 すると、漁師は俯きがちに顎に手を当て、数日、数週間を越える過去の記憶を見返し始める。



 「……いや、知らねぇな」


 「そうか。手間を取らせて悪かったな」


 「構わねぇよ」



 しかし、僅かな後に顔を上げた漁師からは嬉しい答えが返ってくることはなかった。

 俺たちは漁師へと頭を下げてその場を後にすると、漁師のみに関わらず、港へと頻繁に出入りしているものたちに次々と聞いて回り始めた。

 一人一人丁寧に尋ね、その度に同じような芳しくない答えが返ってくる。

 そうして無為な時間を過ごしている内、俺たちの間に取り巻く空気は徐々に落ち込み始める。

 ただ、妹を思うシロウはどれだけ望む回答が得られなくとも人々に尋ね続けた。



 「その女なら一度見たことがあるぞ」


 「「「……!」」」



 すると、何人目かもわからぬ程尋ね続けて、ようやく一人の男が他とは違う言葉を口にする。

 その瞬間、俺たちは皆一斉に目を見開き、シロウは男の両肩へと掴み掛かる。



 「どこで見た……?! そいつは今どこにいる?!」



 男はシロウのあまりの勢いに狼狽え、その鬼のような形相に顔を引き釣らせる。



 「み、見たのは随分と前のことだから、どこにいるのかはわからねぇよ……! ただ、あの時は夜で、確か……そうだ! センドウ先生と話していた! その白い髪の女は人気のない場所でセンドウ先生と密会していたよ……何というか、逢瀬と言うには程遠い様子だったな」


 「……ッ!」



 しかしシロウのその勢いは、男から一人の人物名が告げられた瞬間、壁に衝突したかのように瞬く間に衰え、その表情からは鬼気迫るものが消え去っていく。

 すると、掴み掛かっていた手からは力が抜け、捕らえられていた男は好機と言わんばかりに後退る。



 「……お、俺が覚えてるのはそれくらいだ。じゃ、じゃあ失礼するよ……!」



 そして、急ぐような口調で別れを告げ、男は逃げるように走り去っていった。

 四人だけの空間となり、明らかに異変が生じているシロウへと俺たち三人は様子を探るように視線を注ぐ。



 「あの、シロウさん……センドウ先生という人に、何か心当たりが?」



 俺は恐る恐るシロウへと問い掛ける。

 だが、呆然とした様子で虚空を見つめるシロウからは答えが返っては来なかった。



 「……ッ!」


 「……!? お、追い駆けよう……!」


 「「は、はい……!」」



 すると、俺の問い掛けから僅かな間の後、シロウは唐突に町へと向かって走り出す。

 俺たちはその予期せぬ行動にただただ驚くばかりだった。

 何が起きているのかもわからぬまま、俺たちは離れ行くシロウを見失わぬよう、必死で背中を追い掛けて町へと駆け出した。

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