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男がか弱きこの世界で  作者: 水無月涼
三章 東洋の国
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三章8話 ラスプの町並み

 タラップが港へと掛けられ、入国の許可が降りた俺たちは足を踏み外さぬよう気を付けながら一歩ずつ降りていく。

 外国船の寄港が珍しいのか、はたまた役人の話が事実で、俺たちが人拐いであるという可能性を警戒しているのか、港の近くを通る人々の視線は全て俺たちへと向けられていた。

 そうして今までにない感覚に襲われながら、俺たちは木材で築かれた港へと降り立つ。



 「なんだか凄く変わった雰囲気を感じますね……!」


 「服装もそうだが、人の様相も他の国では見られないものだからそう感じるのかもしれないな」



 道行く人々は和装に身を包み、たなびく髪色は男女問わず皆が黒という、これまで訪れた国や町では見られなかった光景に、クレアだけでなくレンもまた興味深い様子を垣間見せていた。

 すると、俺たちの後方、町とは正反対の船の方向からは、俺たちの元へと近付く足音が響き始める。

 振り返るとそれは船内での指示を終えたレヴィのものだった。



 「皆様、お泊まりとなる宿の方は私の方で手配しておきますので、どうぞ町の観光を楽しまれてきて下さい」


 「そうか? ならありがたくそうさせてもらうよ。では行こうかシンジ、クレア」


 「「はい……!」」



 俺たちはレヴィからの提案をありがたく受け入れ、新たな町の景色に心を踊らせながら市街地へと足を踏み入れていった。

 踏み固められた土気色の街道に、時代劇を思わせるような木造建築の数々。

 時折現れる茶屋では団子を頬張る人の姿が見え、腰に刀を納めるものなどの町人の雰囲気もあってか、まるで時代もののドラマの中に入り込んだような感覚がそこにはあった。



 (完全に昔の日本、って感じだな。マゲの文化がない江戸時代にいるみたいだ)



 今まで訪れた国々を漫画の世界と表すのであれば、東洋の国ラスプという場所は日本史の世界といった様子だった。

 俺たちはそんな独特な雰囲気を持つ町並みを眺めながら、これといった宛もなくゆっくりと歩み続ける。



 「「「……!」」」



 そうしていると、どこからともなく腹の虫の音が響き渡り、俺たちはその音に一斉に足を止める。



 「ご、こめんなさい……何だか、この町の良い匂いでお腹が空いてきちゃったみたいで」



 すると、音の出所であったクレアは僅かに顔を赤らめながら正直な思いを口にする。

 その様子に、俺とレンは同時に微笑む。



 「そう言えばそろそろ昼になる頃合いだったな。丁度良いし、そこで一息つこうか」



 そして、互いに異論を唱えることもなく俺とクレアは同意し、俺たちはレンが指し示した茶屋へと向かっていった。

 茶屋へと訪れてから数分の間を置き、待っていた俺たちの元へと注文していた料理が届けられる。

 丸く形作られた柔らかな白い餅が串でまとめられ、その上ではトロリとしたタレが黄金色に照り輝く。

 いわゆる、みたらし団子というものだ。

 俺にとってはよく知ったものだが、レンとクレアにとってはそれは初めて見るものなのだろう。

 レンは団子を興味深そうによく眺め、クレアはキラキラと目を輝かせていた。

 二人は示し合わせたかのように同時に団子を口へと運ぶ。



 「何ですかこの食感……! モチモチ……? とした感じがすごい新感覚です!」


 「食感も楽しいが、上に掛かっているタレも美味しいな」



 興奮気味なクレアと冷静に味を楽しむレン。

 反応は対極的なものだが、どちらにも言えることは、みたらし団子という和の雰囲気溢れる食に満足しているということだった。



 (そういえば、この国に来るまでにこういった食べ物ってなかったな。そりゃ、今までにない食べ物を味わえばこんな反応にもなるか)


 「うまっ……!」



 そんな二人の様子を眺めながら、前の世界以来となる団子を頬張り、今まで食べてきたものとは比べ物にならない程の美味しさに驚愕しつつ、二口、三口と、串から団子の姿が消えるまで口へと運ぶ手の勢いが衰えることはなかった。



 「……聞いたか? また昨日も一人、行方不明者が出たらしいぞ」


 「本当か……!? はぁ、やだやだ。これじゃ夜もおちおちと出歩けないな」


 「「「……!」」」



 そうして皿の上に串だけを残し、湯飲みにくべられたお茶で一息着いていると、俺たちの前を通った二人からは聞き覚えのある会話が漏れ聞こえ、それを耳にした瞬間、俺たちの間には沈黙が流れる。



 「……あの役人の話、どうやら本当だったみたいですね」


 「ああ、そのようだな」



 記憶に新しい不真面目な役人たちが真っ正直に事実を口にしていたことを確認し、観光気分だった俺たちの中には僅かながらに警戒心が生まれ始める。

 そうして身構えた中で周りの人々の視線を感じ取ると、金髪と赤髪という物珍しさで集まっているであろう視線の全てが、不信感を以て浴びせられているようにも感じられた。



 「……何だか、あの話が事実だと知ってからだと、周りの視線が少し気になっちゃいますね。何と言うか、その……私たちが犯人だと疑われているような……」


 「ああ、そうだな……」



 すると、視線を一身に集める二人は居心地の悪さから困ったような笑みを浮かべる。



 「……場所を移しましょうか」


 「ああ」


 「そうですね」



 そんな二人の心情を察して一つの提案を投げ掛けると、二人は一も二もなく即座に同意し、俺たちは視線から逃れるように茶屋を後にした。

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