二章23話 一緒に
地べたに足を繋ぎ止める鎖もなければ、牢に繋ぎ止める手錠もない。
今のクレアは誰に虐げられることのない自由の身だ。
暗く陰鬱とした地下で涙を流していた頃を白黒だったと表現するならば、今のクレアはパレットに並べられた七色の絵の具で色鮮やかに彩られ、周りの人々に自然と笑みをもたらすような明るさに包まれていた。
数日振りにクレアと顔を合わせ、その表情に笑顔の花が咲いている姿、失っていた腕や足を授けられて一人で立てるようになった姿を前にして、俺とレンはクレアと同じように笑顔を浮かべる。
「訪ね人ってクレアのことだったのか。腕と足の手術、無事に終わったんだな」
「はい。正常に接続されているかどうかの確認も終わって退院出来たので、シンジさんたちに改めてお礼にと思って伺いました」
手術の話についてはある程度、耳にはしていた。
GPSの除去に喪失した腕と足の装着。
元気な姿のクレアを前にし、聞いていた通りの手術が施されたことを確認した俺は、胸に強い安堵の気持ちが溢れるのを感じた。
「もう誰に縛られることもない。これからは自由に生きていけるな」
「はい……!」
自由。
そのたった一言に、クレアは弾けるような笑顔を浮かべる。
「ちなみに、クレアはこれからどうするつもりなんだ? 仕事とか、そういったものの宛は大丈夫か?」
しかし、その笑顔はレンはの質問を機に消えていく。
そして代わりに、クレアの表情には真剣さが現れる。
「……あの、そのことで一つ相談があるのですけど、シンジさんとレンさんたちがこれから向かう先々に、私も連れていってくれませんか?」
「私たちの行く場所に……?」
クレアからの口から紡がれた言葉は予想だにしなかった突飛なものだった。
俺もレンも、あまりに唐突なことに疑問符を浮かべる。
「はい。助けてもらった身でありながら図々しいことを言っているのはわかってます。でも……一人には、なりたくないんです。お父さんもお母さんも失って、私にはもう、頼れる人がいません。一人は……寂しいのは、嫌なんです。すごく身勝手なことなんですけど、私にとっては命を助けてくれたシンジさんやレンさんは心の支えになってくれる存在なんです。だから……お願いです。あまりにも自分勝手だってことはわかってますが、どうか私も連れていってください」
すると、そんな俺たちにクレアは涙混じりに切実な思いを打ち明ける。
境遇が似ているからこそ、そんなクレアに寄り添ってやりたい、俺はそう思った。
だが、今の俺はレンの預かりにある身。
自分勝手に連れていくなど決めることは出来ない。
俺はただ、レンが答えを示すのを待つしかなかった。
「……私は生業として人助けを請け負っている。これから向かう先々でそういった場面に出会せば、それに関わっていくことになる可能性もあるだろう。時にはそれが危険を伴うものであることも否定は出来ない。それでも大丈夫か?」
「……! はい、大丈夫です! 身を守る術なら色々持ってますから!」
すると僅かな間の後、レンから返ってきた言葉にクレアの表情は再び輝き始める。
「なら、一緒に行こうかクレア」
「はい……!」
そして、続けざまに紡がれた言葉を耳にし、クレアは目尻に溜まった滴を煌めかせながら弾けるような笑顔を浮かべた。