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男がか弱きこの世界で  作者: 水無月涼
二章 死を喜ぶ世界
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二章22話 抗うための力

 「レンさん、少し時間良いですか?」



 アリアとの会話を終え、俺は部屋を出てすぐに共に退出したレンを呼び止める。



 「どうした? 何かあったか?」



 すると、レンは疑問符を浮かべながら振り返る。



 「えっと、一つお願いがあって……その、俺に剣を教えて貰えないでしょうか?」


 「剣、とは……剣技を、ということか?」


 「はい……!」



 レンは要求に対し確認を取ると、自らの腰に携える長剣へと目を落とす。

 そして、視線を俺の方へと戻すと再び疑問符を浮かべる。



 「それは構わないが、どうしてまた? もしかして、昨夜のようなことがあったからか?」


 「はい……!」



 察しの良いレンに俺は力強い返事を返す。



 「昨日あの店に向かって、数分間だけとはいえ一人になった時に感じたんです。一人で戦うことの出来る力を持っていなかったら、俺はただ逃げることしか出来ない。いざという状況になった時、何も出来ずに殺されるか、以前のように捕まって、使い捨てのもの同然の扱いを受けるんだって。だから、少しでも抗うための力が必要だって思ったんです」



 昨夜の逃げ続けた記憶を思い出しながら、俺は真剣な眼差しを以てレンへと思いを訴えた。

 レンは僅かに考えた後、こくりと一つ頷く。



 「確かに……いつ何が起こるかはわからん。時間が余っている今の内に非常時に備えておく、というのは悪くないだろうな……では今から少しだが、練習してみようか?」


 「はい……!」



 そして、微笑みを浮かべながらレンは同意し、示された提案に俺は即座にイエスの言葉を返した。


 場所は移ろい、俺とレンは木剣を片手に緑揺れる広い庭の中で向かい合う。

 そこはアリアの屋敷の敷地内にある庭だ。

 運動をするには十分すぎるくらいに広く、打ち合った拍子に木剣が飛んでも誰かに危害が及ぶ様子はなかった。



 「さて、教えるとは言ったものの、どう教えたものか。独学で学んだゆえ、人から教わるだの、人に教えるだのをした覚えがないからな。どういった要領でやれば良いものか……」



 木剣を手にしたまま、悩むレンを前に俺はただやることもなく立ち尽くす。

 そうして数瞬と待っていると、レンは考えがまとまった様子で顔を上げる。



 「……そうだな。とりあえず剣を使って戦う上で一番大事な事は相手との距離感だ。短剣を使うにしても長剣を使うにしても、間合いの取り方、詰め方を誤れば一瞬で死に繋がることもある。だから今日のところはその感覚を身に付けていく所から始めようか」


 「はい……!」



 そして、剣を振り回すといった大きな行動を伴う形ではないものの、俺はレンの指南のもと、剣技の修得に一歩を踏み出し始めた。

 互いの剣先が触れ合う距離感、踏み出した際にどれだけの距離が縮まるのか、剣の長さ毎に気を付けなければいけない距離、そういったものを一つずつ覚えていきながら、次第に剣を振り始める。

 そうして俺は、レヴィが出発の準備を整えている中、日々、レンからの剣のほどきを教授し続けた。


 剣の修練を始めてから数日。

 いつものように庭を借りてレンから剣のほどきを受けていると、俺たちの元にメイドが歩み寄ってくる。



 「レン様、シンジ様、お客様がお見えになりました。客間に通していますので、どうぞこちらに」



 この世界に知り合いなど全くいない俺は訪ね人に心当たりなどなく、レンもまたこの街での訪ね人に心当たりはないようで、メイドの言葉に疑問符を浮かべていた。

 俺たちは修練を取り止め、訪ね人と会うために、先導するメイドに従って屋敷へと戻り始めた。


 アリアの部屋へと向かう道とは違う廊下を歩み進めていくこと数瞬、客間に辿り着いたようでメイドは一つの扉の前で足を止める。

 そしてノックの後に室内にいることを示す声が返ってくると、メイドは静かに扉を開く。



 「失礼いたします。レン様とシンジ様をお連れいたしました」


 「あ、ありがとうございます……!」


 「「……!」」



 そうしてメイドが用件を伝えた後に返ってきた声は、どこか聞き覚えのある声だった。

 メイドがその場を去り、部屋へと足を踏み入れた俺とレンはその声の主が誰であるかをハッキリと理解する。



 「お、お久し振りですシンジさん、レンさん。先日は、どうもありがとうございました……!」



 客間にて俺たちを待っていたのは、地下闘技場で唯一救い出すことの出来たクレアだった。

 ただ、あの日のクレアとは違うところが一つ。

 腕と足を片方ずつ失っていたクレアは、サイボーグだと教えられなければわからない程、どこにも傷が見当たらない姿で晴れやかな笑顔を浮かべていた。

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