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男がか弱きこの世界で  作者: 水無月涼
二章 死を喜ぶ世界
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二章16話 進むか、留まるか

 レンに背を向けて駆け出し、たった一本の通路を走っていくと、数瞬とせずに視界には地下へと伸びる階段の姿が現れる。

 戦いの音はまだすぐ近くで鳴り響いている。

 今いる場所では安全が保証できるような状況ではなかった。



 「……ッ!」



 すると、戦いの影響であろう、立ち止まる俺の背後からは棚が倒れる音が響き渡り、飛び散った物品が次々と足元へと転がってきた。



 (ど、どうする……? 進むべきか、留まるべきか……レンさんがあの二人をすぐに片付けて来てくれるのなら、待っているのが正しいけど、もし時間が掛かるのなら……今の音を聞き付けてこの先から敵がやってくるかもしれない。そうなったら、この隠れるところのない通路にいる俺は確実に捕まる……)


 「……!」



 戦いに捲き込まれることを防ぐために先に地下へと進むか、それを考慮した上で留まるか悩んでいると、再び棚が倒れ、音を響かせ始める。

 おそらく、敵が迫って来るのは時間の問題。

 今の音で新手が階段を駆け上がって来る可能性は十分にあった。



 (い、行こう……! まだ駆け寄ってくる音は聞こえてない。もし鉢合わせたならすぐに逃げれば良いんだ。ここで見つかるくらいなら、隠れられる場所がある可能性のある先に進んでいる方が、捕まる可能性も減るだろうし、まだ迷惑にならないかもしれない)



 安定を取るならその場に留まることが正解と言える状況。

 ただ、俺は一か八かの賭けに出た。

 たった一人、守ってくれる人もいないまま、俺は薄暗き地下へと向けて足を進めた。


 閉鎖空間では音は強く響き渡る。

 俺は少しでも足音を立てぬよう注意しながら階段を下りていく。



 (まだ……前から迫って来る音はない。現状、この先に人はいないと考えても大丈夫なはず)



 心臓の音は今までで一番大きく鳴り響いていた。

 大丈夫、大丈夫と心に言い聞かせ、恐怖でおかしくなりそうな気持ちを無理矢理押さえ付けながら一段ずつ階段を下り続ける。

 すると、永遠にも感じるほどに長かった階段は終わりを告げ、俺はかがり火の揺れる地下道へと足を踏み入れた。



 「……ッ!」


 (銃声……!)



 そうして一瞬、安堵した瞬間、上階からは発砲の音が響き渡る。

 俺は不意を突くようなその音に、自らが撃ち抜かれたと錯覚する程に激しい動悸に襲われる。

 ただ、声が出なかったことは幸いだった。

 荒ぶる胸の行動を沈めようと、俺は立ち止まったまま静かに深呼吸をする。



 「今の、銃声かしら……?」


 「……ッ!」



 すると地下道の先、影も見えぬ暗闇からは小さく女性の声が響き渡る。

 かがり火の明かりにも照らされないということは、それなりに距離があることは伺えた。

 ただ、遠いと断定出来るわけではない。

 俺の心は見えぬ敵の存在に大きく跳び跳ね、空気を求めるようにバクバクと速く脈打っていた。



 (マズイ……! こっちに来られたら捕まる……! でも、戻った所で逃げ場は……)


 「……!」



 レンが既に二人を片付けていなければ前後どちらへと進んでも敵から逃れる術はない。

 打開の策を見つけ出そうと、前方へと集中しながら頭をフル回転させていた俺は視界の先に一つの活路を見つけ出す。

 視界に映っていたのは地下道が横へと別れている光景だった。

 暗闇で判別はしにくいが、かがり火の明かりで確かな影が揺れているのが数歩先の景色には映っていた。



 (あそこだ……! 見つかる可能性もあるが、もうあの通路の影に隠れるしかない……!)



 俺は音を立てぬようにしながら素早く横道へと反れ、かがり火の光の届かぬ所で小さくなって息を潜める。

 すると、上階からは再び銃声が鳴り響く。



 「やっぱりそうだわ……! 皆、敵襲よ! 上に急ぐわよ!」


 「あの、これは……?!」


 「その辺に捨て置きなさい……! どうせ逃げられないわよ!」



 その音が響き渡った瞬間、地下では再び女性の声が響き渡る。

 そして、その声の後には複数の足音が響き始め、それらは一様に階段へと向けて駆けていく。

 誰一人、こちらを向くな。

 そう俺は、強く願った。

 瞳を閉じ、呼吸を止めるかのように息を潜め、小さくなったままジッと固まり続ける。

 すると、どうやらその願いは届いたようだった。

 駆けていく音はどんどんと階段へと吸い込まれていき、そしてどんどんと遠ざかっていく。

 誰一人、途中で足を止め、こちらへと近づいてくる足音は存在しなかった。

 俺は恐る恐る閉じていた瞳を開き、目の前の状況を確認する。

 すると、そこにはかがり火の明かりに照らされた岩肌が視界に映るばかりで、人の影は一つとして飛び込んでは来なかった。



 (た、助かった……け、けど、まだ全員いなくなったとは限らない。この先にもいるなら、まだ安全だとは言えない)



 しかし、油断は禁物であると、一人であるがゆえにその事に対する注意は強く傾けていた。

 俺はすぐには立ち上がらず、ゆっくりと辺りを確認して身の回りの危険を把握する。



 「……ッ!」



 しかし、辺りの景色を目にして俺は衝撃に胸を貫かれた。

 それは通路の側面に並んでいたのが鉄格子の扉だったからだ。

 目を見開き、その場で固まる俺は、呼吸を忘れる程の苦痛に苛まれていた。

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