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男がか弱きこの世界で  作者: 水無月涼
二章 死を喜ぶ世界
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二章14話 百年以上昔

 重たい机をある程度ずらし、ボロボロの絨毯をヒラリと捲る。

 すると、露となった床には床下収納を思わせるような取っての付いた扉が姿を現した。

 レンは重たそうなその扉へとゆっくりと手を伸ばし、埃を散らしながら扉を持ち上げ、扉を横へとずらす。

 すると、俺たちの視界には地下へと続く階段が現れ、俺とレンはその姿を目にした瞬間、目的の場所の出現に同時に息を飲む。



 「……シンジがいなかったら見落とすところだったな。助かったよ、シンジ」


 「い、いえ……! 俺も偶然見つけられただけですよ。それよりもレンさん……」


 「ああ、行こう……!」



 研究所を戦地の最前線とするならば、これから先は敵陣の奥深くへと侵入することになる。

 進めば進むほどに目的を阻むものたちが現れることになるだろう。

 俺とレンはアイコンタクトで約束事を確認すると、明かりのない暗い地下へと向かって階段を下り始めた。


 カツン、カツンと、寄り狭く包み込まれるような形となった金属の廊下では、数瞬前まで歩んでいた廊下以上に、足音は反響してうるさく鳴り響く。

 階段へと足を踏み入れた瞬間に頭上では電灯が点り、足元を明るく照らすが、その明かりは一定の間隔で離れており、所々には影が下りていた。

 そんな僅かな暗さで足を踏み外さぬよう注意しながら、俺とレンは一段ずつゆっくりと階段を下りていき、警戒心を放ちながら地下へと下り立つ。



 「……静かだな」


 「……待ち伏せしてるってことでしょうか?」


 「有り得るな……シンジ、ここからは半歩後ろに下がって付いてきてくれ。何かあればすぐに退がるのだぞ」


 「はい、わかりました」



 そして、事前に決めていた通り、レンの指示を第一にしながら地下を歩み始めた。

 張り詰める緊張感、集中によって滲み出る汗。

 薄暗闇に目を凝らしながら一歩一歩着実に奥へと足を進めていく俺たちの耳には自らの足音だけが響き渡る。

 他の物音が耳に響き渡ってくることは一向に来なかった。



 (妙だ……少し、いやかなり、静かすぎる。人の気配がない……と言うよりかは、人がいない? 闘技場までの地下通路にしては警備があまりにも薄すぎないか? アリアが言っていたように警戒心の強い人物であることが本当なら、これだけ守りを手薄にしているなんてことはおかしい)



 所々に現れる部屋の扉を開きながら俺たちは奥へと進んでいくが、扉の先で待っている景色は研究室ばかりで、闘技場に続いているであろう地下道が現れることはなかった。

 そして足音、扉の開閉音など、多くの音を響かせているにも関わらず、俺たちの元に警備の手が迫ってくることは一向になかった。

 俺は並々ならぬ違和感を感じながらもレンに付き従って奥へ奥へと足を進め続ける。



 「……ここが最奥か」



 そうして歩み続けること数分。

 俺たちは遂に地下道の突き当たりへと辿り着く。

 目先には地下にある最後の扉。

 レンは警戒心を放ちながら扉の取っ手へと手を掛ける。



 「……ここも研究室、か」



 しかし、待っていたのは既に何度も目にして来た研究室の姿だった。

 レンは気落ちした様子ながらも部屋へと足を踏み入れ、俺はそれに付いていきながら部屋の隅々を確認し始める。



 「どこか、見落としたところがあるのか……? だがそんなはずは……」


 (やっぱり、ここに人はいない……どうなってるんだ? 闘技場へと続く地下道も見当たらないし、完全に悪い方向に進んじまってるぞ。このままじゃダメだ、一回考えをリセットしよう)



 ただ、どれだけ部屋を注意深く眺めようとも隠し扉や抜け道の類いはどこにも見当たらなかった。

 レンが顎に手を当てながら疑問符を浮かべる中、俺は一から記憶を整理し始める。



 (まず、第一にこの研究所が地下闘技場までつながっているなんて有り得るのか? 街外れのこの場所から街中にあるあの場所までは相当な距離がある。よくよく考えてみればそこまで地下道を掘るなんて現実的じゃないんじゃ……人の手が入ってる様子だから、ここに誰かが出入りしているのは確かなんだろうが、サイボーグ化の手術を行うためだけにここを利用している可能性も十分に有り得る。本拠地をここだと決め付けたこと自体が早計だったんじゃ……そうだよ。ここだと決めるのは早すぎたんだ……! アリアが言っていた、犯人は警戒心が強いって。だとしたら、これだけ条件が揃っている場所が怪しまれるのは警戒するはず……!)


 「……! レンさん、何か聞こえませんか?」


 「音…………! 確かに聞こえる、空気を揺らす微かな音が……!」



 しかし、耳に響き渡ってきた小さな音に俺たちはすぐさま思考を中断させる。

 そして息を殺し、耳を澄ませながら辺りを見渡し始めた。



 「……! そこだ!」



 すると数瞬後、レンはその鋭い眼光に音の正体を捉え、爆ぜるような瞬発力で空を掴み取り、それを握り潰す。

 そして、ゆっくりと開からたレンの掌の上には虫のような残骸が乗っていた。



 「……! レンさん、これ虫型のカメラじゃ……!」


 「……! ずっと見られていたのか!? マズイぞ……! 早く地下闘技場への見付けねば……! とにかく、まずはこの地下を出るぞシンジ! おそらくここに地下道はない!」


 「はい!」



 レンは残骸を投げ捨てると、地下から脱するために元来た道を駆け戻り始める。

 俺はその後ろ姿を必死に追い駆けていく。

 そうして階段を駆け上がり、設計図に埋め尽くされた書斎へと舞い戻る。



 「……ッ!」



 ただ、書斎の設計図が目に飛び込んできた瞬間、俺はふと足を止めた。



 「……! 何をやっているシンジ……!」



 すると、俺が足を止めたことに気が付いたレンは廊下へと続く扉の前で足を止め、焦りに身を染めながら疑問符を浮かべる。

 しかし、俺の耳にはレンの声は壁を通しているかのように遠くに聞こえ、その代わりに記憶に残るレヴィの言葉が声を大きくしていた。



 『誰も立ち寄らない場所なんです』


 (誰も立ち寄らない……なら、何でこの設計図にあるものが完成しているんだ? 百年以上も前のものなんだろう? クロキバって人が生きている間に作成していたとして、それがこの時代まで長く売られ続けるものなのか? 年々改良を重ねているならまだしも、あの店に並んでいたのはこの設計図とまったく同じ……もし、現代を生きている人間がこの設計図を形にしたのだとしたら、これを作れるのは……)


 「レンさん! 地下闘技場に繋がる道がわかったかもしれません! 街に急ぎましょう!」


 「……!」



 確証はない。

 だが、可能性は十分にあった。

 俺はレンと共に街へと戻るために研究所の外へと急いだ。

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