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男がか弱きこの世界で  作者: 水無月涼
二章 死を喜ぶ世界
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二章12話 記憶と実体験

 地下闘技場を後にし、街を歩んでアリアの屋敷へと帰る頃には時刻は日付が変わる頃合いに差し掛かっていた。

 メイドの出迎えを受けながら屋敷へと戻った俺は真っ直ぐにアリアの部屋へと向かう。



 「お疲れ様……大変だったな」


 「はい。だいぶ、疲れました……」


 「……ご苦労様」



 すると、部屋で待っていたアリアはいつも眠たそうな表情で変わりはないものの、レンとレヴィの表情には重たい空気がまとわりついていた。



 「……シンジのおかげである程度の状況はわかった。けど、ハッキリと全てを把握出来たわけではない。思い出したくないものもあったかもしれないけど、見てきたものをこと細かく教えて欲しい」


 「あ、ああ。わかったよ……」



 俺はアリアからの要望を受け、俺は地下で見てきたものを三人の目の前で話し始める。

 すると、やはりアリアの表情には変化は現れないものの、レンとレヴィは話せば話す程に不快感を露にするような険しさを表情に浮かべていた。

 俺が全てを話し終え、一息吐いていると、三人は考え事をするかのように一様に黙り込む。



 「……銃声の後に響いたあの歓声はそう言うことだったのか。まったく、ふざけている……! 人の死を何だと思っているのだ……!?」


 「確かに、あの盛り上がりようはさすがに常軌を逸してますね。ただ、そうなるのも少しばかり仕方ないものかと……人には血を見て恐怖を覚える反面、血を見て興奮してしまうという側面も持ち合わせていますから。それに、遥か昔から剣闘士を戦い合わせる興行自体は存在してますし、そういった残虐的なことを見て楽しむ人たちが現代に複数存在していることは何ら不思議なことではありませんからね」


 「……確かに、そんなものも遥か昔にあったらしいな。これだけ発展した国であれば娯楽などいくらでもあろうに……なぜわざわざ、こんな古臭い野蛮なものに興じてしまうのだ、まったく」



 レンの気持ちは俺と同じようで、苦虫を噛み潰したかのような表情で歯噛みをする。



 「……ただ、少し気になるところがありますね」



 すると僅かな間を置き、レヴィは思案気に顎に手を当てながら呟く。



 「シンジの話にどこか矛盾点があった、ということか?」


 「いえ、そういったことではありません……直近でサイボーグ化しなければいけない程の重傷者が何人も街に運ばれて来た、という話をあまり聞いたことがないんですよ。人のサイボーグ化には機械に脳からの信号を届けられるような技術や特別な装置が必要になってきます。ですが、そういったものは全てこの街にしかないのですよ。ですから、他の街や国ではそんな手術を行うことなんて出来ないんです」


 「「……!」」



 レンの疑問に答える形で語られた話に、俺とレンはレヴィが感じている疑問点の意味を理解する。



 「……どこか抜け道を通って来ている、ということか」


 「はい。ただ、この街には多くの人造警備兵が街の全ての出入口を警備しているので、その目や市民の目を盗んで重傷者を運び込むということは出来ないはずなんです」



 レンはレヴィと互いの考えを擦り合わせ、二人は共にその抜け道が何であるかを思案し始める。

 その会話を耳にしながら俺もまた鮮明に残る記憶を省みる。

 会場内には出入口以外に道がなかったか、それだけでなく、推理もののトリックで類似したものがなかったかなど、問題解決に役立つ情報を手当たり次第探った。



 「……地下道だ」


 「「……!」」



 すると、鮮明に残る記憶と実体験によって、俺の頭の中にあった点と点は唐突に線で結び付けられる。



 「レンさん、地下道です! 街の中には厳重な警備が敷かれていたとしても、街の外にはそれはない。だとしたら、この街の近くに手術を出来るだけの施設を用意して、そこから地下道を掘って地下闘技場まで繋げば全ての目を掻い潜ることが出来ますよ!」


 「確かに、そうだな……だが、それだけの施設を作ったとしたら、皆すぐに気付くのではないか? 大きな施設になればなる程、秘密裏に作ることが難しくなる」


 「……ッ!」


 (そ、そうか……そうだよな。いくら技術が発展しているとは言っても、怪しいものを完全に隠し切るなんてこと、そう簡単に出来るものでもないよな……)



 しかし、レンの否定を前に、納得してしまった俺は自身の意見を貫き通すことが出来なかった。

 瞬く間に振り出しへと戻り、俺は再び手掛かりを求めて記憶を探り始める。



 「……いえ、シンジ様の意見はかなり核心を突いたものかと思われます。それと言うのも、この街の外れにはそれをするのにうってつけの場所がありますから」


 「「……!」」



 すると僅かな間を置き、思案を続けていたレヴィは何かを思い出した様子で先程の俺の意見へと賛意を示す。



 「そこは百年以上前に建てられた施設で、老朽化していて危険なので誰も立ち寄らない場所なんです。なので、人の目を掻い潜るのにはうってつけですし、何よりも、そこには医療のみに関わらずありとあらゆる実験・実証を行うための設備が整っています。おそらく、そこならばサイボーグ化のための手術もやれないことはないでしょう。さらに、地下にも研究室を備えていたとも耳にしています……場所の名は、クロキバ研究所。百年以上昔に唐突にこの地に現れ、これだけの技術を発展させるための基盤を作り上げた人物が、血と汗と涙を流し続けた場所です」


 「……なるほど、それは確かめに行かねばならんな。よし、明日にでも向かおう。これ以上、非道な闘技を続けさせるわけにもいかんのでな」


 「わかりました。では、我々は警備兵を集めて街にある出入口の方を固めておきましょう。万が一逃げ出して来たとしても大丈夫なように」


 「ああ、頼む」



 レンはレヴィから賛意の理由と場所の詳細を耳にすると、すぐさま依頼へと取り掛かる意思を露にする。

 しかし、僅かな間を置いて、真剣さを崩しながらレヴィからゆっくりと視線を離す。



 「……ところで、アリアはなぜ寝ているのだ?」


 「それは日付が変わったからですよ。お嬢様は日付が変わると途端に電池が切れてしまう方なんです。今しがたの話は全て私から伝えておくのでご安心ください」


 (自分から聞いてきて寝るなよな……)



 レヴィの説明を聞き、レンは目を細めたまま無言でアリアの寝顔を見つめる。

 そんな呆れた様子のレンと共に、俺は自由が過ぎるお嬢様へと苦笑いを浮かべることしか出来なかった。

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