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男がか弱きこの世界で  作者: 水無月涼
二章 死を喜ぶ世界
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二章4話 三百年先を生きる街

 東洋の国への旅路をスタートさせてから一週間ほどの時間が経った。

 いくつかの小さな町を挟み、そこで夜を明かしながら進み続けた俺たちの視界には、着実に変化が訪れてきていた。

 緑で溢れていた広大な自然の景色の中に、土気色が目立つ岩壁の姿が現れ始める。

 視界の片側にそり立つ岩壁が、もう片側には深い森が壁を作り、ただ一つの道を示す。

 そんな道を俺たちを乗せた馬車は、ガタガタと何度も大きな揺れをもたらしながらゆっくりと進んでいた。



 「この辺、道が悪いんですね」


 「ああ、この辺は落石が多いからな。小石などが散ってどうしても道が悪くなる。どれだけ取り払ってもキリがないらしいんだ」



 今まで平坦な道ばかりを進んでいたからか、小石を踏む小さな揺れが大きな段差を下りたかのごとく激しいものに感じる。

 その激しさは痛いと感じるほどのものもあった。

 すると、そんな激しい揺れの中、馬車の速度は徐々に速さを落とし始め、ガサガサという草木を揺らす音を鳴らし始める。



 「あれ……? 森に入っていって……」



 馬車は木と木の間を縫うように、荷車がぶつからないよう細心の注意を払いながら森の中を進んでいた。

 今まで道を突き進んでいたにも関わらず、唐突に整備された道のない森へと突き進んだ現状に、俺は疑問符を浮かべる。



 「あそこだ。シンジ、あれを見てみろ」


 「……?」



 すると、レンは窓の外へと指を差して視線を誘導する。

 俺はレンの指示通りに窓の外へと視線を向けると、木々の間の景色には大きな岩が道を塞いでいる光景が飛び込んできた。



 「あれがさっき言っていた落石だ」


 「デカイ……何ですか、あれ……あんなの当たったら即死じゃないですか」



 死を感じるほどの巨大な落石に、俺は驚愕を禁じ得なかった。



 「……レンさん、この道以外に隣の国に行く方法ってないんですか?」


 「一応あるにはある。ただ、その道を使うと他の国を二つほど挟まなくてはならなくなっていろいろと面倒なことになるし、この道を使うよりも多大な時間が掛かってしまうんだ。さすがにそうなってくると、私の懐が足りなくなってしまうのでな……本当は森の道を行ければ良いのだが、生憎、まだ完全に切り開かれてはいない。だからこの道を使うのが止む無しといった感じなんだ、すまんな。気持ちはわかるが納得してくれ」


 「そうなんですか……」



 レンの預かりにある以上、俺は命が惜しいから道を変えてくれ、などと贅沢を言える立場にはない。

 レンの選択に従うしかなかった。

 ただ、恐怖と不安を拭い切ることは出来ない。

 どこか楽しい旅路だという風に感じていたところもあったが、地面に突き立った巨岩の姿を見てからというもの、外を眺める俺の心には常に不安が付きまとっていた。

 そうして話している内、馬車は元の道へと戻り始め、俺とレンは共に再びガタガタと揺られ始める。



 「……ところでレンさん、聞いてなかったんですけど、俺たちが向かってる隣の国というのは一体どういった国なんですか?」



 単純な興味もあったが、会話で不安を忘れるためという意味合いが強かった。

 俺は都合の良い話題を見つけてレンへと問い掛ける。



 「私たちが向かってる国はセインズ、三百年先を生きている街と言われている。一つの街だけで作られたすごく小さな国ながらも、世界一未来を行く国だ」



 すると、レンの口から飛び出してきたのは俺の出生と似たような、あまりにも突飛なことだった。



 「三百年、先……」


 (馬車が現役で使われているような時代だし、この時代は中世あたりか、それ以前くらいか? なら、三百年も未来なら現代くらいには進んでいるのか? いや……でも、シオンさんが使っていたあの銃みたいなのは現代でも見たことがない。いったいこの世界の三百年ってどれくらいなんだ? もしかして、相当進んでるんじゃ……)



 この世界での三百年がどれ程のものかが想像し難いがゆえに、俺の頭にはどれ程進んだ街なのか、ハッキリとした姿が浮かんではこない。

 そうして頭に疑問符を浮かべていると、レンは静かに微笑を浮かべる。



 「ふふっ……まあ、口で言われただけではあまりピンとこないだろうな。あの国の説明は見た方が早い……見ろ、もうすぐ着くぞ」


 「……!」



 そして、笑みを浮かべたままレンは御者台の方へと指を差す。

 すると、御者台にある窓から見えた景色には一つの街の姿が遠くにあった。

 ビルや鉄塔といった巨大な建造物があるわけではない。

 遠くから見るだけでは、三百年先を生きているということはあまり伝わっては来なかった。



 「あの街は驚くぞ。私も数回ほど訪れたことがあるが、あの街は何度行っても心が踊る」



 しかし、物知り顔のレンの表情は、今まで目にしたことのない期待に溢れるようなものだった。

 普段は理性的で落ち着いている様子のレンが楽し気な表情をしている。

 それだけの街なのだろう。

 俺は街の姿を想像することを止め、着々と近くなる街へと期待を膨らませて到着を待ちわびた。

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