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男がか弱きこの世界で  作者: 水無月涼
一章 新しき人生
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一章14話 薄っぺらな笑顔

 レンが剣を抜き、状況が緊迫していく中、フェイは手を後ろで組みながら俺とレンのいるステージ上へと上がってくる。



 「シンジ……少し、離れていた方が良い」


 「……! は、はい……!」



 その行動を踏まえ、その場にいることが危険と判断したレンの指示のもと、俺はフェイと入れ替わるようにステージを降りて対峙する二人から距離を取った。

 今しがた助かったばかりだが、ここでレンがフェイに負けるようなことになれば、俺の人生は再び闇の底へと転落することになるだろう。

 俺はレンがフェイに打ち勝つことを祈りながら二人へと視線を注いだ。



 「あなたの噂は聞いておりますよ、レンさん。この国で最もお強い方だとか……私もこういう仕事柄、邪魔者を消すための力を備えているつもりですが……あなたにどれほど通用するのか、少々楽しみですね」


 「……どうやら私とは気が合わんようだな。数人とはいえ、国防兵をたった一人で退けてやって来た貴様と戦うことを、私は楽しむことなどできんな」


 「今から命のやり取りをするんです。仮に負けることを前提とした場合、死ぬ直前の人生を楽しんでいないのは損でしょう?」



 二人はすぐには刃を交えず、他愛ない言葉を交える。

 すると、笑顔と共に語られたフェイの言葉に、レンは僅かな間沈黙する。



 「……貴様からそのような感情は感じられないが?」


 「ふふっ、バレましたか? 確かに、今のは建前です。本音を言うのであれば、久々に骨のある方と戦えると感じて心が踊っている、と言ったところです」



 レンはフェイの返答によって再び沈黙した。

 フェイはそんなレンの様子などお構いなしに、いつまでも笑顔を保ち、戦いを前にする人物とは思えないほどに緊迫感のない雰囲気を保ち続けていた。



 「……さて、話はこの辺にしておきましょうか。そろそろ悠久の時間に身を委ねるとしましょう」


 「……貴様、舐めているのか? 武器を構えろ。まさか、素手でやると言うわけではなかろうな?」


 「ふふっ、舐めてなどいませんよ。ただ、誤解を招くのも面倒なので一つ教えておきましょうか。良いですかレンさん、人は極限まで体を鍛えて上げることで鋼の肉体を手にすることができるのですよ。つまり、私は全身が武器みたいなものなんです。わざわざ武器など使う必要もないということですよ……お気遣いは感謝いたしますが、相手を知らぬのにそのような言動をするのは驕りというものではないでしょうか?」



 僅かな沈黙の後、レンの行動を咎めたフェイは一瞬だけ、笑顔ではない真剣な眼差しを垣間見せる。

 細く切れ長な瞳でレンの瞳を射抜くその姿は、素顔を知らなければかっこいいとすら感じてしまうほどのもの。

 しかし、今となってはその瞳は底知れぬ狂気の片鱗を垣間見せたようにしか感じられず、恐怖しか感じられないものだった。

 レンはフェイの言葉を咀嚼し、僅かな間の後に小さく頷く。



 「……確かに、貴様の言う通りかもしれんな。すまなかった、何も知らずに武器を構えろなどと言って」


 「いえ、構いませんよ。ただ、その言葉を聞いて落胆してしまっただけです。さっきのであなたの実力が大体わかってしまいましたからね」



 真剣な眼差しを一瞬だけ見せたフェイは、レンの謝罪を聞くと再び糸のように目を細めた笑みを見せる。

 ただ、そのフェイから放たれた言葉を耳にし、レンはピクリと反応を示す。



 「……! どういう意味だ……?」


 「なに、簡単なことですよ。本当の強者というものは相手がどういう状況であれ全力で臨み、敵を殺しにいくものです。あなたのように対等な状況でなければ戦えないというものは、戦いを知らないものだということの表れです……これは試合じゃないんですよ? 武器を持っていようが、持ってなかろうが、卑怯などという言葉はそこには存在しないんですよ」



 すると、フェイは再び先程の瞳を垣間見せ、先程よりも強い威圧感を放ちながらそう言った。

 しかし、やはりその表情は一瞬で、フェイの表情にはすぐさま笑みが戻る。



 「私の言い分、おわかり頂けましたか?」


 「……ああ、十分に理解したよ。戦いに卑怯などないと言うのは最もだ……だが、それだけで実力の全てを推し量れるわけではない……!」


 「ええ、それはもちろん、あなたの言う通りです。だから私はここにいるんです。弱き者と認めて見逃して上げても良いのですが、それが切っ掛けで足元をすくわれてはいけませんし……何より、あなたの性格上、実力さに怯んで私たちを見逃すと言うことをするとは思えない。後々邪魔になるのであれば、今消しておくのが懸命ですからね」



 そして、笑みを浮かべたままフェイは殺意を露にし、背後で組んでいた手を解いて前に出して腰を低く構えて戦闘体勢へと入った。



 「さて、そろそろ勝負の時といきましょうか。せいぜい楽しませてくださいよ、レンさん」


 「楽しませる気など毛頭ない……! 貴様の薄っぺらいその笑顔、引き剥がしてくれる……!」



 そんなフェイと同様にレンは腰を低くして剣を構え、二人は互いに睨み合ったまま固まり、オークション会場は沈黙に包まれた。

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