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男がか弱きこの世界で  作者: 水無月涼
四章 銀の鍵
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四章24話 下水道

 ザアザアと風に揺られて木々は鳴き、その声の中には小鳥の囀りが紛れ込む。

 馬車を走らせ続けること数日、俺たちの視界の先には頑強な壁に囲われた王都の姿が映っていた。

 今、俺たちがいる場所は王都近くの森の中。

 出口を目前に控えた場所で俺たちは馬車を降り、メイドと馬車を先に帰して寄り集まっていた。



 「……さすがに、道中で追い付くのは無理だったけど、なんとか追い付いたみたいだね」



 木陰に身を潜めて街道へと視線を注ぎ、シオンは小さくそう呟く。

 視界の先には一台の馬車がゆっくりと歩みを進めていた。

 その位置は丁度、壁門に差し掛かる辺り。

 これから検問が行われ、数瞬と待たずしてすぐさま中に通されるのだろうという状況だった。

 俺たちが静かに見守る中、馬車は門の前で一時停止をし、門が開かれるや否や、すぐさま歩みを再開させて壁内へと吸い込まれていく。

 馬車が消えていく様を見届け、茂みから僅かに顔を覗かせていた俺たちは壁門から視線を切らし、茂みに隠れるようにして互いの顔を見合わせる。



 「いいかい? ここから先はやり直しなんて許されない一発勝負の大博打だ。電光石火でレンさん拐ってとっととづらかるよ」



 声を抑えながらのシオンの激励に、俺たちはコクりと小さく頷く。



 「シオンさん、ここからどうやってレンさんのところに向かうんですか?」



 一発勝負ともなれば少しの失敗すらも許されるべきものではない。

 全員の思考を固めるべく、俺はシオンへとそう問い掛ける。



 「下水道を通って街の中に侵入するよ。臭いでちょっと呼吸が苦しくなるかもしれないけど、そこは我慢してね」



 下水道。

 それを聞いて俺は、シオンの考えていることをすぐさま理解した。

 街中に張り巡らされている下水道であれば、入り組んだ街を縫うように駆ける必要もなく、人混みの中へと飛び込んでいく必要もなく、さらには騒ぎになることもなく奥まで進んでいける。

 王女を拐うともなれば警戒されずに対象の近くまで接近することは必至だ。

 シオンの策に俺は賛成の意しかなかった。



 「あの、特別異論があるわけではないのですが、旅人の振りをして正面から門を潜っていくのでは何か問題があるのですか?」



 しかし、その策はシオンの事情を知るところではないクレアとミアにとって、疑問符の残るものだった。

 怪しささえ感じられることがなければ、正面から向かう方が余計な苦労を負うことはない。

 クレアは純粋な表情でシオンへと問い掛ける。



 「シンジくんたちだけならそれで問題はないんだけどねぇ。自分で言うのもあれだけど、ボクはこの国では知らぬもの無しって言われるぐらいのお尋ね者だから、正面から突っ切っちゃったらあの門の時点で即止められちゃうんだよ」


 「えっ……あっ、そうだったんですね。なんだか、全然そんな雰囲気がなくてビックリです」


 「うん、実はね。まあ、そう言うわけで、騒ぎにならないようにするためには人目に付かない場所を通っていくしかないってわけなんだ」



 クレアはシオンの素性を知って僅かに驚きはしたものの、その様子に大きな変化は現れなかった。

 おそらく、これまでの数日の間に共に過ごしてきた時間が、罪人と知った状態でシオンへと抱く負の感情を和らげてくれているのだろう。

 さらには、レンを共に連れ戻すという共通意志が断固とした一体感を生み出しているのかもしれない。

 俺たちの間を取り巻く空気に、ぎこちなさや不信感といったものは微塵も現れはしなかった。



 「……他に、何か聞いておきたいこととかはある?」



 一呼吸間を置き、シオンは順に俺たちの顔を一瞥していく。

 しかし、誰の口からも新たな問いが紡がれることはなかった。

 その空気を理解し、シオンの表情は伺うようなものから意気込むような顔付きへと変化する。



 「よし。それじゃ、行こうか。ここから下水道までは少し距離がある。ちょっと急ぐよ」


 「「はい……!」」



 小さな声量で、俺とクレアは息を揃えてシオンの言葉に頷く。

 そして、門兵に悟られぬよう注意を配り、俺たちは外壁を回るようにして下水道へと向かって駆け出し始めた。

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