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男がか弱きこの世界で  作者: 水無月涼
四章 銀の鍵
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四章17話 言い知れぬ安堵

 「じゃあレンさん、援護は任せるよ」


 「ああ、了解した」



 少年が人間ではない、機械兵である。

 そうわかった途端、二人の戦いに臨む意識の変わり様は凄まじかった。

 シオンを始めに、二人は勢いよく駆け出すと、少年へと向かって躊躇なく刃を振り下ろす。

 ギィンという耳に残る音が響き渡り、少年の皮膚は裂けて新たに機械の骨格が顔を覗かせる。

 また一ヶ所、また別の箇所と、二人の刃が振り抜かれる度、少年の衣服と皮膚は傷付き、どんどんと裂傷が刻まれていく。

 すると、その光景を眺める女は勝ち誇った様子で高笑いを響かせる。



 「どれだけ足掻いた所で無駄よ! あなたたちから迷いがなくなった所でこの体には傷なんて付きやしない。人間と違って体力も消耗しない。あなたたちが勝てる要素なんてどこにもないのよ!」


 (……悔しいが、その通りだ)



 女の言う通りだった。

 耳に残る金属音は響くものの、その骨格には太刀筋しか刻まれることはなく、どれだけの傷が刻まれようとも動作に支障を来している様子はない。

 このままがむしゃらに戦い続けても、ひたすら耐え続けられ、疲労で動きが衰えてから形勢を逆転されるのは容易に想像することが出来る。

 しかし、レンとシオンは一切動きを止めようとはしなかった。

 むしろ、女の言葉に抗うように、その動きをさらに加速させていく。



 (どれだけ傷を付けても人間じゃないから痛みなんて感じないし、導線でも断たない限り動きが鈍ることだってない。このまま守られ続けたら、こっちだけが無駄に消耗していくばかりだ)



 シオンがナイフで畳み掛けるように攻め立てる中、両腕で耐え続けていた少年はタイミングを見計らってシオンの首を握り潰さんとして手を伸ばす。

 しかしその瞬間、攻め一辺倒なシオンとは対照的に冷静に刃を差し込んでいたレンは、指一本すら触れさせぬと言わんばかりに、伸ばされた少年の腕を弾き返す。

 少年を模した機械兵はまるで映像を焼き増したかのごとく、隙を見つけてはシオンへと幾度となく襲い掛かりはするが、レンとシオンの二人の連携はそれを許すことは一度として訪れることはなかった。

 熟年のパートナー、そう称せるほどに、二人の息はピタリと噛み合っていたのだ。



 (……でも、なんでだろう。厳しい状況だってわかってるのに、焦りが感じられない。むしろ、安心している……?)



 そんな二人の戦い振りを前に、俺は言い知れぬ安堵を心に抱く。

 どこから来るものなのかも定かではない。

 だが何故かハッキリと、この戦いは勝つ、という思いが俺の胸には溢れていた。

 そうして呆然と、緊張感もなく目の前の様子を眺めていると、レンとシオンは二人同時に少年から間合いを取り、終わったと言わんばかりにフッと肩を下ろす。



 「ようやく諦めたようね。じゃあ、邪魔だから順番に死んでいってもらおうかしら?」


 「これくらいで大丈夫だろう。あとは仕上げだな」


 「だね」



 やはりと言うべきか、二人は女の言葉を全く意にも止めずに互いに顔を見合わせ、シオンはナイフを納めると愛用の銃を手に取る。



 「じゃあ、あとはよろしく!」


 「ああ……!」



 端から見つめるその姿は心を共有しているようにしか見えなかった。

 片時も意識を擦り合わせることなく、たった一言のやり取りだけでレンは再び少年へと接近し始める。

 すると、少年はこれまでと変わらず、自ら仕掛けようとはせずに守りから入ろうと身構える。



 「ハァァアァアッ!!」



 小細工など必要ない。

 そう言わんばかりの気合いの咆哮だった。

 レンは全身全霊を掛け、身を守ろうと腕を盾にする少年へとかち上げるようにして直剣を勢いよく振り上げる。

 するとその瞬間、耳障りな金属音と共に少年の腕は弾かれ、体は仰け反り、固く保たれていた守りはようやく解かれる。



 「さっすが……!」



 待っていました。

 そう言わんばかりの笑みだった。

 シオンは少年の腕が弾かれた瞬間を目にするや否や、脊髄反射のごとき速さで躊躇なく引き金を引く。

 いくら機械兵と言えども、完璧なタイミングと速さで迫るアンカーを避けることは出来はしなかった。

 射出されたアンカーは空を切り裂き、レンの真横を通り、弾かれた腕の肘間接部へと刺突の一撃を叩き込む。



 「えっ……?」



 するとその瞬間、辺りには今までにない鈍い金属音が響き渡る。

 目の前の光景を悠然と眺めていた女は、たった今起こった事象に理解が追い付いていない様子で間抜けな声を漏らす。



 「もう一発……!」



 そんな女の理解を置き去りにし、レンは少年のもう一方の腕を弾き、すぐさまアンカーを引き戻したシオンは少年の残る肘へと向けて引き金を引く。

 一度目の音から数瞬と時を隔てることなく、辺りには再び鈍い金属音が響き渡った。

 パラパラと金属の破片が辺りの光を反射させながら舞い散り、ガシャリと質量のある落下音が二度、鼓膜を打ち鳴らす。

 武器も持たずに悠然と構えていられるほど頑丈さに定評があった少年の両腕は、まるでプラモデルを分解したかのごとく、意図も容易く体から離れて地面に横たわっていた。



 「終わりだ……!」



 そして、守る手立てを失った少年の前に立つレンは止めの一言を呟くと、胸の中央へと、強く鋭い突きの一撃を突き立てた。

 ガラスが割れるような小さな音が鳴り響いた。

 そして、その音から間髪入れず、火花を散らす刺々しい、刺激音が響き渡り始める。

 動力源を貫いた。

 レンの影に隠れて確認することは出来ていないが、すぐさまそうだと、考えるより先に体がそれを察知した。

 音は数瞬の内に衰えていき、パタリと音が鳴り止んだ頃、それと時を同じくして少年を模した機械兵は力なく項垂れてピクリとも動かなくなった。

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