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男がか弱きこの世界で  作者: 水無月涼
四章 銀の鍵
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四章14話 おぼろげな緑光

 暗い洞窟内にけたたましく足音が響き渡る。

 洞窟内には道を照らす灯りはなく、進む道の先におぼろげな翡翠色の光が、目的地はここだと言わんばかりに絶えず光り続けているだけだった。

 その光を目標に、俺たちは足元への注意を払いながらゆっくりと歩みを進めていく。



 「いやー、助かったよミアちゃん。ミアちゃんがあれに気づいていなかったら見逃してたからね。ありがとう、恩に切るよ」


 「ふふん……どういたしまして」



 自らの勘が正しかったことに上機嫌になるシオン。

 そんなシオンに手放しで誉められ、ミアは得意気な様子でそれを誇る。



 「それにしても、ミアもそうだがシオンもよく気が付いたな。私にはどれだけ穿った見方をしても、岩山の一部にしか見えなかったぞ。何か明確な違いでもあったのか?」



 レンの問いは確かに気になるものであった。

 触れて確かめはしなかったものの、一番近くで見て、匂って、確かめていながら、俺には何も感じ取れはしなかったのだ。

 触っただけでわかるほどの違いがあったのか、それは知りたいものであった。



 「ないよ」


 「「「えっ……?」」」



 すると、シオンから即座に返ってきた言葉は期待を大きく裏切る答えだった。

 俺はレンとクレアと共に唖然とし、シオンを見つめながら呆然と疑問符を浮かべる。



 「目に見えてわかる違いなんてものはボクにはわからないよ。けど、この国ではどんな些細な違和感であっても、それを感じたのなら必ず本物とはどこか違うところがある、そう思うのが一番なんだ。何しろ、この国は技術が進み過ぎているからね。本物と遜色ない模造品を作り出せてしまうくらいには技術が凄まじいんだ……まあ、そのことについては、クレアちゃんと長く一緒にいるであろう君たちの方がよっぽどよくわかっていることでしょ?」



 シオンの説明に、俺の脳裏には記憶の中にあるクレアの姿が鮮明に思い出される。

 すると、取り巻いていた疑問符は自然と晴れていった。



 (……言われてみればそうだ。今まで当然のように何も疑問に思ってこなかったけど、クレアの体は機械に補助されているって知らない限り、普通の人間にしか見えない。だからそれを元に考えれば、どれだけ本物とそっくりだったとしても、何かが違うと感じたなら、そこに違うものが確実にあるとわかる、というわけか)



 会話を耳にし、自己解決をし、そうしている内に暗い道は終わりを迎える。

 視線の先で常に在り続けていた、おぼろげな緑の光が放たれている場所へと辿り着いたのだ。

 俺たちは部屋と称せるほどに広く整ったその場所へと足を踏み入れ、すぐさま辺りの様子へと視線を走らせる。

 光の正体は培養液が照らされていたものだった。



 「何だよ、これ……」


 「酷いな……」



 それらを目にし、俺たちは皆言葉を失った。

 培養液に浸けられていたものは人間の皮膚だったのだ。

 腕や足、顔に胴体、指先など体の隅々に至るまで、人間を形作る皮膚の全てがそこに納められていた。

 だがしかし、俺たちが呆然とした原因は、それらを目にしたがゆえではなかった。



 「……酷いことするなぁ。人を殺しておきながら生かし続けるだなんてさ」



 シオンはいつになく嫌悪感を露にしてそう呟く。

 俺たちの目の前にあるのは人間の脳だった。

 培養液に浸けられ、腐ろうにも腐れず、動こうにも動けずに、誰のものかもわからぬ脳が水槽の中に縛り付けられてあったのだ。

 あまりにも無惨な光景に俺は吐き気を催し、それを直視し続けることが出来なかった。



 「……奥に進もう。ここで足踏みをしていても仕方がない」


 「うん、そうだね……」



 すると、見ていられないと言わんばかりの声音でレンは先陣切って足を踏み出す。

 誰も異論はなかった。

 この場に留まって水槽を見つめていても得られるものは何もない。

 ただただ精神がすり減っていき、自分の首を絞めることにしかならなかった。

 俺たちは水槽の横を通り、さらなる奥へと歩みを進めていく。



 「「「……ッ!」」」


 (扉の開く音……! 誰か来る!)



 すると、そんな俺たちの歩みと時を同じくして、水槽群の奥から扉が開かれる音が鳴り響いた。

 俺たちはすぐさま足を止め、警戒心を露にいつでも武器を取れるよう構え、暗闇へと視線を凝らす。

 響く足音は二つあった。

 恐る恐るといったものではない、確かな足取りで響く音が二つ、徐々に近付いてきていた。



 「まさか、ここを突き止められるとは思いもしなかったわ。あなたたち、なかなか頭が回るのね」


 (こいつ、あの時の……!)



 水槽の明かりに照らされ、歩み寄ってきた二つの影の姿が視界に鮮明に映り始める。

 やって来たのは女性と男性の二人のみ。

 片方は俺にとって見覚えのある顔だった。

 地下闘技場へと潜入した際、一瞬だけ目にした支配人らしき女性の顔と何一つ変わらないものだったのだ。

 女性は嫌みたらしくそう言葉を紡ぐと、逃げられない状況であるにも関わらず、余裕綽々といった様子で意地の悪そうな笑みを浮かべた。

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